結果は大事だが、プロセスはもっと大事

「自律的に生きよ」と口ではよく言うけど決して簡単なことじゃない。とはいえ全く困難とも言えないので意識して生きてみようと常々思っている。早い話が「能動的な生き方」のススメということになる。これは仕事においても恋愛などの人間関係においてもそう。受け身というのは一見楽だが、最終的には諸問題を誘発する原因になる。結局自らが自らの心身のイニシアチブをとり、語弊のある言い方が許されるなら「自分の生き方を曲げない」、否、曲げなくても済むような道を歩む方が「自分らしく」在れるとここのところ思う。

ブルーノ・ワルターが最晩年にコロンビア交響楽団と遺したブルックナーのシンフォニーを久しぶりに聴いてみたところいずれも付録として収録されているワーグナーの方に惹かれてしまった。2人の作曲家についていうなら基本的にオーケストラの厚みがどうしても必要になると思うのだが、一連のワーグナー録音の場合、逆にその薄さが見通しの良い透明感として活きているように僕には感じられる。何とも「情欲」の抜け切った、といって枯れ切ったわけでもない老境のニュートラルなワーグナー世界。その意味ではおよそワーグナーには相応しくない表現かもしれないが、ワルターもワーグナーも感じさせない音楽がただただ一貫して鳴り響く。まさにこの境地こそが、先の「自分の生き方を曲げない」ところから生まれた「自分らしさ」というものの好例なのではないかと・・・。

ワーグナー:
・歌劇「タンホイザー」序曲とバッカナール(ヴェーヌスブルクの音楽)(1961.3.24-27)
オクシデンタル・カレッジ・コンサート合唱団
・楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲(1959.12.4)
・歌劇「さまよえるオランダ人」序曲(1959.2.20)
・舞台神聖祭典劇「パルジファル」第1幕への前奏曲と聖金曜日の音楽(1959.2.25)
・歌劇「ローエングリン」第1幕への前奏曲(1959.2.27)
・ジークフリート牧歌(1959.2.27)
・「ジークフリート牧歌」リハーサル風景(1959.2.27)
ブルーノ・ワルター指揮コロンビア交響楽団

ボーナス・トラックに含まれる「ジークフリート牧歌」の45分に及ぶリハーサル風景が聴きもの。人としての温かみと愛に溢れたブルーノ・ワルターの生き様が伝わる貴重なドキュメントである。
意外に淡々とした現実的な指示(「ディミヌエンド!」、「クレッシェンド!」)だけでリハーサルが進行する。それに、オーケストラ団員に”My friends”と呼びかけ、”I would Like to…”、”May I have…”と謙虚に語りかける姿勢が本当に素晴らしい。先生の鑑のような存在、素敵だ。
昔、イベントに携わっている頃はよくリハーサルに立ち会った。音楽がその場でいかに生まれるかが手に取るようにわかり実に面白い経験だと思うが、リハーサルを録音として残そうとしたのはどうやらワルターが最初らしい。結果も大事だが、プロセスはもっと大事。

何だか今日はすべての「転換点」のように思う。

3 COMMENTS

雅之

こんばんは。

>音楽がその場でいかに生まれるかが手に取るようにわかり実に面白い経験だと思うが、

同感です。ワルターに限らず、本当に音楽のリハーサル風景は勉強になりますよね。

また名作映画のDVDやBDでも、メイキングを観ることによって本編の理解がより深まることは多いです。その好例として、先日も話題にした「ブレードランナー」のメイキング作品、「デンジャラス・デイズ:メイキング・オブ・ブレードランナー」
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%96%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%8A%E3%83%BC-%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%8A%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%AB%E3%83%83%E3%83%88-%E8%A3%BD%E4%BD%9C25%E5%91%A8%E5%B9%B4%E8%A8%98%E5%BF%B5%E3%82%A8%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3-Blu-ray-%E3%83%AA%E3%83%89%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%82%B3%E3%83%83%E3%83%88/dp/B003GQSXUY/ref=sr_1_1?s=dvd&ie=UTF8&qid=1324990618&sr=1-1
を挙げておきたいです。

いずれにせよ、偉大な芸術の制作過程での愛と葛藤の人間模様はじつに様々で、興味が尽きませんね。

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。
「ブレードランナー」のBDは先日お薦めいただき早速購入して本編はあらためて見ました。
メイキングの方はまだですので、本編とあわせ何度か鑑賞してみたいと思います。

>偉大な芸術の制作過程での愛と葛藤の人間模様はじつに様々で

おっしゃるとおりですね。
毎々ありがとうございます。

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アレグロ・コン・ブリオ~第4章 » Blog Archive » モーツァルトの魂の声

[…] 僕は「リンツ」交響曲がとても好きで、古くはステレオの方のワルター&コロンビア響の録音をメインに繰り返し耳にし、20年ほど前にカルロス・クライバーがウィーン・フィルハーモニーと収録したムジークフェラインでのライブで衝撃を受けて以来専らこの映像を主体として楽しんできた。でも、音だけで聴くなら以前ワルターの解釈が僕の中で最右翼で、しかも上記の50年代のモノラル盤が、僕が聴き始めの頃は確かリハーサル風景がまるまるレコード1枚に収められた聴きごたえ十分なものだったことを思い出した。ブルーノ・ワルターの楽員への愛に満ちたリハーサルは本当に素晴らしく、以前ワーグナーの「ジークフリート牧歌」の練習風景の素晴らしさについて言及したことがあるが、それに負けず劣らず「すごい」ものだった。残念ながら、例によってLPレコードを処分してしまっているものだから僕の手元にそのアナログ・レコードはない。何とも悔しいけれど。 […]

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