美女と野獣~ヴェルヴェッツの音楽性

ロック音楽のボックス・セットが出始めの1990年代、未発表音源の物珍しさや、例えば全アルバムにリマスターが施されているということから興味のあるアーティストのボックスを見つけてはしこしこと購入していた。あれはもはや懐かしい思い出。
今となってはほとんどそういうものに食指が動かない。例えば、ある楽曲のデモ音源だったり、ライブ録音だったり、シングル・バージョンだったり、中身はいろいろだが、ほとんどのケースで1度か2度は耳にするものの以降2度と聴かないから。単に資料価値として蒐集する癖ならばそれはそれで良いのだが、学者でも評論家でもない僕は、一時期(若い頃)よりは随分熱が冷めたようで(収納場所を確保するだけでも大変なことなので)、いつ頃からか買わなくなってしまった。

久しぶりに外出予定がなかったものだから、先日棚を整理した際発見したボックス・セットを昼からずっと聴いている。60年代後半のニューヨークのアンダーグラウンドの混沌とした雰囲気までもが収められている5枚組。音質は概して良くない。でも、この音の悪さから途轍もないエネルギーが一層発散されるのだから、彼らの音楽の力というのは並大抵でない。第1作バナナのアルバムの調和とカオスが入り乱れる独自の世界。”Sunday Morning”も”All Tomorrow’s Parties”も”Heroin”も・・・。音盤を順番に取り換えてゆくと、John Caleの個性が前面に出るセカンドの異様な破壊力が際立つ。このバンドの核心というのは実に2枚目”White Light/White Heat”にあったのかと思わせるほど。そして、Lou ReedとJohn Caleが袂を分かった後にリリースされた3枚目の、気が遠くなるような静謐ながら力強い抒情的美的センスよ。4枚目”Loaded”にはもはや求心力が明らかに欠けている。もちろんこのアルバムだけを採り上げれば非常に優れた作品なのだけれど・・・。

The Velvet Underground:Peel Slowly And See

Personnel
Lou Reed(vocal, guitar, piano, keyboards)
John Cale(viola, violin, guitar, bass, vocal)
Sterling Morrison(guitar, bass ,voices)
Maureen Tucker(drums, voices)
Nico(vocal)
Doug Yule(guitar, bass, vocal)

調和と破壊が実に裏表で、どちらも最終形は同じところを志向しているのだということがわかる。ヴェルヴェッツの全作品を休止なく聴き続けるというのは非常な根気のいる作業ではあるが、ながら聴きで、時に集中をとぎらせつつ聴くことでそのあたりは乗り越えられる。例えば、このボックスの1枚目はジョン・ケイルの自宅で録音したといわれるデモ・テープ集で、この音盤に関しては賛否両論でよほどのヴェルヴェッツ・マニアでない限り受け容れ難いだろうという意見もあるが、延々と繰り返される練習というか演奏そのものには灼熱の気合いに横溢しており、くぐもった団子状態の音から、1960年代中頃のアメリカの泥沼の様相と、それでも夢の実現をあきらめない若者のエネルギッシュな価値観が妙に錯綜し、なるほど彼らが後続のバンドたちに信奉される所以が如実にわかって面白い。その意味では、このデモ録音集は必須。何もないところから生まれる音楽。そしてその音楽の内に秘められた抒情性と前衛性。美女と野獣。

さて、一通り聴いたところで、もう1度「バナナ」を聴くとするか・・・。


4 COMMENTS

雅之

このあたりのジャンルは全然詳しくないのですが、60年代〜70年代の若い奴の熱気というのは、我々バブル世代の軽さとは異質ですよね。その団塊の世代が大人になり段々冷めていく、その過程を我々後の世代の多くはちゃんと冷静に見ていたんだと思います。だから、その後学生紛争も流行らなかった。そして今の若い奴らは、やっぱり我々上の世代を冷静に見ている・・・。

前からよくわからないのは、岡本さんのロックの嗜好が、なぜ団塊世代的なのか、です。

だってリアルタイムではないでしょ。どなたの影響を受けられたのですか?

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。
多分に懐古趣味なんでしょうね。
僕は70年代後半にクラシック音楽に目覚め、その時からフルトヴェングラーだ、ワルターだ、メンゲルベルクだというように過去の巨匠の演奏にのめり込みました。
一方、僕がロックを聴き始めたのは80年代初頭で、多くの方の場合と同様ビートルズが最初でした。当然の流れとして60年代のブリティッシュ・ロック、その後プログレ、そしてツェッペリンを代表とするハード・ロックと聴き進めてゆくうち、もちろんオンタイムで80年代のトップ40などを聴きつつ、やっぱりロック音楽の真髄は60年代&70年代にあると確信し、以降その時代を中心にいろいろと聴きました。
しかし、残念にも、90年代以降はオンタイムでロック音楽を聴かなくなり、まったく疎くなってしまったのです。
その意味ではかたわかもしれません。

そういう風に考えてみて、もしも影響を受けた人がいるとするならロッキング・オンという雑誌かもしれません。渋谷陽一氏や松村雄策氏など。あるいは中村とうよう氏の「ミュージック・マガジン」あたりでしょうか。

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