呼吸と相手との気合い

今宵、知人にお誘いを受けとあるピアニストのリサイタルに行った。良くなかったわけではないのだけれど、特に書くことが見つからない。ショパンを源流としたピアノ音楽の系譜をほんの少し俯瞰できたという点が興味を引いたが、ドビュッシーとスクリャービンとショパンの作品で組まれたプログラムだったということが大きいかも(今はショスタコーヴィチ及びその周辺で頭がいっぱいの由)。聴く側の姿勢というか興味のベクトルというか、そういうものも音楽を聴く上で大切なことだなとあらためて痛感。それと武道を始めてますます思うのは、呼吸と相手との気合い(コンサートの場合は演奏者と聴衆の気合い)が大事だということ。現代人は概して呼吸が浅いといわれるが、音楽を創る上で「呼吸の深さ」というのはやっぱり重要だと確信した。

ということで、今夜もショスタコーヴィチ。第14番交響曲と同じ頃に生み出され、その年にオイストラフとリヒテルによって初演されたまさにその時の記録。

バルトーク:ヴァイオリン・ソナタ第1番Sz.75(1972.3.19Live)
ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン・ソナタ作品134(1969.5.3Live)
ダヴィッド・オイストラフ(ヴァイオリン)
スヴャトスラフ・リヒテル(ピアノ)

ショスタコーヴィチ晩年のどうしようもない暗さと深さをもつ音楽だけれど、聴けば聴くほど底なし沼にはまり込んでゆくような魅力をもつ。

以下、CDのライナーノーツから抜粋。
「死を題材にした交響曲第14番の直前に書かれたこのソナタは、ショスタコーヴィチの作品を語る上で重要な作品である。自らの死の体験、幻のように過ぎ去っていったフルシチョフ政権の『嵐のような時代』、ブレジネフ政権の到来とともに硬直化し冷たくなってゆく社会と1968年の民主化運動『プラハの春』の弾圧、こうしたありとあらゆる出来事が『最後の想い』として巡らされる。」

ショスタコーヴィチは自分自身との闘いを決して止めない。社会に対しての厳しい目を持ちながら、自己への厳しさも決して忘れない。その意図を汲みとってオイストラフとリヒテルが緊張の中でこの作品を初めて公衆の面前で演奏する。

とにかくソビエトを代表する今は亡き2人の巨匠の呼吸がぴったり。しかも、驚くほど深い・・・。オーディエンスは果たしてこの音楽を初めて聴いて理解できたのだろうか。心なしか戸惑うような最後の拍手は何を物語るのか。
※ちなみに、カップリングのバルトークももちろん名演奏。

19 COMMENTS

雅之

おはようございます。

今朝も昨朝と同じく、コメントを書く時間が3分もありません。

>現代人は概して呼吸が浅いといわれるが、

2400年くらい前、荘子は、
「今の若い者は、昔の半分しか呼吸していない」と嘆いたといいます(笑)。

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岡本 浩和

雅之様
こんにちは。
本日はバタバタしておりまして、電車待ちにiPhoneからコメントしております。
荘子の言葉は2400年前の若者を指しますよね。
ということは、今の人々は1/4くらいの呼吸しかしてないですかね。(笑)
それじゃあ心身はおかしくなりますね。

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雅之

>今の人々は1/4くらいの呼吸しかしてないですかね。(笑)
それじゃあ心身はおかしくなりますね。

しょうがないじゃん、世界は人口爆発してんだから、酸素を大切につかわなきゃ(爆)。

ご紹介の盤については100パーセント同感。
今あの雰囲気出せる演奏家はいません。

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雅之

>呼吸が浅いと逆に酸素の消費は増えますよね?

酸素の消費量は、単に運動量の差なんででしょうね。
一日デスクワークの内勤と、いつも体を動かすサッカー選手とでは、どっちが呼吸が深いかです。

>現代人は概して呼吸が浅いといわれるが、

は、現代人は概して運動不足ってことだけなのでは? だいいち昔の人にくらべて歩かないですから。

で、なんでこんなに反抗するかっていうと、単に宇野節っぽいフレーズを一度疑ってかかりたいだけです(笑)。今の私は、根拠希薄の固定観念にだけは染まりたくないもので。

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。

>今の私は、根拠希薄の固定観念にだけは染まりたくないもので。
おっしゃるとおり根拠は大事です。
で、呼吸が浅いというのは単なる思い付きの宇野節ではなく、僕がお世話になっている先生の30年の研究に基づく成果からのものです。データを出せと言われたらそこはあるかどうかわかりませんが(笑)。

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雅之

合気道でもあらゆる健康法でも、深い呼吸が大切だというのが常識なのは百も承知です。

しかし「現代人は概して呼吸が浅いといわれるが」は根拠希薄です。

たとえば、落ち着いた心理状態では呼吸が深くなり、ストレスとか怒りとか、そういう負荷のかかった心理状態で呼吸が浅くなるといいますよね。

現代人が昔の人よりストレスや怒りが多いと言い切れますか?
戦国時代、飢饉の頻発時、第二次大戦時はどうですか?
より人権が守られているのは、現代ですか?過去ですか?
日本人の平均寿命は、昔と今とでどちらが長いですか?

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。

>「現代人は概して呼吸が浅いといわれるが」は根拠希薄です。

いや、先にも申し上げた通り信頼に値する先生の長年の蓄積からの言及ですから十分根拠だと思いますが。
確かに根拠となるデータは重要だと思います。しかし、データ化、つまり数値化できないもの(特に目に見えないもの)も世の中にはたくさんあります。
データが示されないもの、あるいはロジカルでないものは根拠希薄として切り捨てて良いものでしょうか?

ちなみに、現代人が昔の人とストレスが多いかどうかはわかりません。
もちろん戦国時代のことなど想像でしか語れません。
現代同様、あるいはそれ以上のストレスがあったかもしれません。

しかしながら、少なくとも自分が子どもの頃の40年前と比べても、いや30年前の高校生時代と比べても自分の呼吸が浅くなっているということは先生の施術のお陰で自分事としてわかるのです。

うーん、説明になってないですね・・・
お会いした時に話しましょう。(苦笑)

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雅之

昔のニュース映像や映画を、きちんと観たことがありますか?

昭和32年 自動車 ニッポン.wmv
http://www.youtube.com/watch?v=ya-_FRviJ0w&feature=related

「秋刀魚の味」(昭和37年作品)
http://www.youtube.com/watch?v=kp2S77LARkg

>少なくとも自分が子どもの頃の40年前と比べても、いや30年前の高校生時代と比べても自分の呼吸が浅くなっている

特に40年前といえば、今よりもずっと、大気汚染など公害が酷かった時代ですよ(笑)。
昔の人のほうが健康的だった? タバコも多くの人々が深い呼吸で吸っていましたしねえ(笑)。

岡本さんは「三丁目の夕日」みたいに、必要以上に過去を美化していませんか?(大好きな作品ですが、それと現実とは別)

>データが示されないもの、あるいはロジカルでないものは根拠希薄として切り捨てて良いものでしょうか?

ロジカルなものを切り捨てるのと同じくらいナンセンスです(笑)。
だったらロジカルで負けても、デタラメでも感情論だけで何でもありにしちゃうんですか?
何でも感覚だけで無批判に受け入れたら、オウムみたいなカルトから自分の身を守る術はないですよね。

繰り返しますが、現代人の呼吸が浅くなっていて不健康になったのなら、何故昔より日本人の平均寿命は伸びているのですかねえ?

最近は凶悪犯罪が多くなったと大抵の人が実感していますが、実際には日本の犯罪率は、殺人にしても放火にしても、40〜50年前のほうが今より遥かに高かったというのは、感覚と現実のずれについての譬えでよく用いられる話です。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。

>昔の人のほうが健康的だった?

いや、健康的だったとは一言も言っておりません。しかし少なくとも「縛られるもの」が少なかったでしょうね(今は何でもかんでも法律化されて窮屈です)。その分自由だったのではないでしょうか?

>必要以上に過去を美化していませんか?

思い出として美化するのは「あり」だと思います。過去から現在に向け、そして現在から未来に向け、もちろんあらゆるものが進化進歩していますが、退化したもの、失ったものも多いはずです。寿命が延びたのだって医学の進歩によるものだというのは百も承知ですが、見方を変えれば薬漬けでその副作用に苦しんでいる方も多いですし、何より「高齢化社会化」というのが一番の副作用ではと思ったりもします(語弊のある言い方ですが、別の見方をすればそういうことになります)。

>ロジカルで負けても、デタラメでも感情論だけで何でもありにしちゃうんですか?

いやいや、そんなことは言ってません。すべてバランスです。ロジカルも大事ですし、直感も重要です。

>最近は凶悪犯罪が多くなったと大抵の人が実感していますが、実際には日本の犯罪率は、殺人にしても放火にしても、40〜50年前のほうが今より遥かに高かった

それはそのとおりですね。
ここまで書いて思ったのですが、僕が「失ったもの」を視点に書いているのに対して雅之さんは「得たもの」を視点に書いてらっしゃるように思います。視点の違いですかね。
いちいち反論しておりますが、雅之さんのおっしゃることはすべて正しいです。

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雅之

>しかし少なくとも「縛られるもの」が少なかったでしょうね(今は何でもかんでも法律化されて窮屈です)。その分自由だったのではないでしょうか?

「現代人は概して呼吸が浅い」のではなくて「現代人は何かと息苦しい」のではないですか?
それなら納得できます。

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雅之

じゃあ「現代人は概して呼吸が浅い」は、根拠が無いのならイメージだけの話ですね?

それと、岡本さんが子供のころや青年時代に呼吸が深かったのは、単に成長期だったからじゃないのですか? 歳取ると誰でも代謝が少なくなりますからね(笑)。

「現代人」っていう言葉も、いつから生まれた人を指すかが曖昧ですね。

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岡本 浩和

>雅之様

いやいやイメージではないです。
>先にも申し上げた通り信頼に値する先生の長年の蓄積からの言及
ということです。

>子供のころや青年時代に呼吸が深かったのは、単に成長期だったからじゃないのですか? 歳取ると誰でも代謝が少なくなりますからね(笑)。

いや、これも違いますね。若い頃より呼吸が深くなっているように思います。僕は東京に来て3年目でいわゆる花粉症に陥りましたが、食事に気をつけ、呼吸を鼻で、そして腹式で深く呼吸をする訓練をするようになってからはっきり治りました。体感しているので間違いありません。

返信する
雅之

だから、深い呼吸が体にいいことは、なにも否定してないじゃないですか(笑)。

「現代人は概して呼吸が浅いといわれるが」の根拠がないことを問題にしているだけです。

ちなみに、花粉症はディーゼル粉塵が大きな原因となっていることは解明されていますが、
東京などではいち早くディーゼル車規制
http://www.kankyo.metro.tokyo.jp/vehicle/air_pollution/diesel/regulation/detail.html
が実施された効果も花粉症の症状が軽減している理由のひとつとなっているようです。

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アレグロ・コン・ブリオ~第4章 » Blog Archive » ミューズ

[…] モーツァルト: ・ピアノ・ソナタ第4番変ホ長調K.282 ・ピアノ・ソナタ第16番ハ長調K.545 ・ピアノ・ソナタ第8番イ短調K.310 ショパン: ・練習曲作品10 ・練習曲作品25~第5番ホ短調、第6番嬰ト短調、第8番変ニ長調、第11番イ短調 スヴャトスラフ・リヒテル(ピアノ) 1989年3月29日、ロンドン、バービカン・センターでのライブ録音 モーツァルトとショパンを並べたプログラムを一聴し、思ったのはショパンがスペシャリスト的天才であるのに対してモーツァルトはジェネラリスト的天才であるということ。そしてさらにどちらがどうだとは全く判断がつかない2人の天才を前につくづく思ったのは、ショスタコーヴィチこそがこの2人の音楽家の遺伝子を完璧に受け継いでいる真の天才ではなかろうかということ。まさにミューズが降臨するかのような創造力と構築力とを有する史上稀に見る音楽家だと、今また第4交響曲と第7交響曲に触れて再確認した。 そういえば、リヒテルもショスタコーヴィチと直接関わり合いのあるピアニストだったっけ。 […]

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