ミューズ

今週末の第12回講義ですみだ学習ガーデンの「早わかりクラシック音楽入門講座」第1期は終了になる。またすぐ4月7日(土)から第2期がスタートするので、反省も活かしながらより一層充実した全12回の講座にしようと目論んでいる。それに、墨田区で講座を始めたせいもあろうが、来週末は八王子市の生涯学習センター主催のクラシック講座にお招きを受けていて、2時間の講座を持つことにもなっている。
昨年7月で一旦幕を下ろした「早わかりクラシック音楽講座」では、あくまでCDを中心に講義を進めたが、墨田区ではできるだけ映像をメインに視聴していただく趣旨で開催したところ好評だった。それはそうだ。クラシック音楽入門者でも、クラヲタでも実際に目で確認して音楽を聴けるならばその方が良いに決まっている。過去にオペラでも「音だけ主義」だなんて知ったような主張を何度もした記憶があるが、そろそろそれについてもいったん取り下げさせていただかなきゃと思っているくらい(笑)。もちろん音だけで楽しむというのも乙なもので、それを止めるということはできないが、少なくとも他人様に聴いていただく時は(特に講座などの場合は)映像を使用するのがベターかなと。

ということで、リヒテルが1989年にロンドンのバービカン・センターで開催したリサイタルの模様を収めたDVDを(八王子の講座ではモーツァルトを中心に話を進行する予定で、K.545のソナタの映像を探していて、価格が手ごろだったので仕入れた次第)。
晩年のリヒテルらしく、真っ暗な舞台で40Wの電球ひとつという灯の中での集中力抜群の演奏。例によって譜面も見ながら。
僕は残念ながらリヒテルの実演を聴けていないが、少なくともここに収録されているモーツァルトのいくつかのソナタを耳にするだけで本当に透明で清澄な演奏で、機会を逸したことに地団太を踏む。終演後の聴衆の熱狂的な拍手喝采をみても、いかに彼の演奏が超人的であったかが如実にわかるゆえ。

モーツァルト:
・ピアノ・ソナタ第4番変ホ長調K.282
・ピアノ・ソナタ第16番ハ長調K.545
・ピアノ・ソナタ第8番イ短調K.310
ショパン:
・練習曲作品10
・練習曲作品25~第5番ホ短調、第6番嬰ト短調、第8番変ニ長調、第11番イ短調
スヴャトスラフ・リヒテル(ピアノ)
1989年3月29日、ロンドン、バービカン・センターでのライブ録音

モーツァルトとショパンを並べたプログラムを一聴し、思ったのはショパンがスペシャリスト的天才であるのに対してモーツァルトはジェネラリスト的天才であるということ。そしてさらにどちらがどうだとは全く判断がつかない2人の天才を前につくづく思ったのは、ショスタコーヴィチこそがこの2人の音楽家の遺伝子を完璧に受け継いでいる真の天才ではなかろうかということ。まさにミューズが降臨するかのような創造力と構築力とを有する史上稀に見る音楽家だと、今また第4交響曲第7交響曲に触れて再確認した。
そういえば、リヒテルもショスタコーヴィチと直接関わり合いのあるピアニストだったっけ。


2 COMMENTS

雅之

こんばんは。

貴族社会、サロン、社会主義国家、これらの特殊な環境下で生き抜いた天才作曲家は、
大なり小なり本音と建前を使い分ける術に長けていたんだと思います。

しかし、嘘を嘘のままにせず、嘘から出た真を実現させるのも、名演奏家の仕事です。

モーツァルト:ピアノ協奏曲 第26番「戴冠式」
ピリス&アバド&ヨーロッパ室内管弦楽団
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%A2-%E3%83%84%E3%82%A1%E3%83%AB%E3%83%88-%E3%83%94%E3%82%A2%E3%83%8E%E5%8D%94%E5%A5%8F%E6%9B%B2-%E7%AC%AC26%E7%95%AA%E3%80%8C%E6%88%B4%E5%86%A0%E5%BC%8F%E3%80%8D-%E3%83%94%E3%83%AA%E3%82%B9-%E3%83%9E%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%BB%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%82%A2%E3%83%B3/dp/B0053MFEME/ref=sr_1_27?s=music&ie=UTF8&qid=1331910296&sr=1-27

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。

>大なり小なり本音と建前を使い分ける術に長けていたんだと思います。
>しかし、嘘を嘘のままにせず、嘘から出た真を実現させるのも、名演奏家の仕事です。

いやはや、確かに。
名演奏家というのは極めて人間的なのですね。あまりに人間的な・・・、芥川の世界に通じます。

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