ヤナーチェクは無神論者か??

レオシュ・ヤナーチェクは神を信じなかったという。
彼の生涯について文献等を漁って詳細を調べたわけではないからその事の正否はわからないが、少なくとも音楽を聴く限りにおいて「そんなはずはない」と僕には思える。いや少なくとも音楽家、もっというなら芸術家全般が神の存在を否定するとは考えられないから。”Something great”あっての芸術であり、その中でも特に音楽はそういうものだと思えるし。もしも、ヤナーチェクが無神論者的言動をとった事実があるとするならおそらくそれは時勢や国家の体制や、そういう風に振る舞わなければならない事情があったはず(とはいえ、全く僕のあてずっぽうの意見だから適当に読み流していただきたい)。

例えば、晩年のカミラ・シュテッスロヴァー夫人との聞き捨てならない(?)恋沙汰は、いかにも人間っぽい行動であることは間違いない事実。でも、あのようにプラトニック・ラヴを貫き通せる(本当か嘘かはわからぬ)なら、年齢の問題もあろうがやっぱり単なる肉欲的なものではないはずだと信じたい。

なぜそんな風に考えるのか。それは最高傑作だと信じて疑わない「グラゴル・ミサ」を聴くにつけ。構想から20年近くの時を経て、しかも幾度もの推敲を経て完成をみたこの作品の「真実性」は他の何ものにも代えがたい。この音楽は純粋なミサのものではないといわれる。確かに表上はそうかもしれない。でも、そのことをもって彼が信仰心をもたない人間だとは決めつけられまい。虚心に音楽に耳を傾けたし。デュトワの棒によって紡がれる音のタペストリーは聴く者の精神を高揚させ、宇宙的規模にまで視野を膨らませる。

ヤナーチェク:
・グラゴル・ミサ
・シンフォニエッタ
ナタリア・トロイツカヤ(ソプラノ)
エヴァ・ランドヴァ(メゾ・ソプラノ)
カルディ・カルドフ(テノール)
セルゲイ・レイフェルクス(バス)
トーマス・トロッター(オルガン)
シャルル・デュトワ指揮モントリオール交響楽団&合唱団

20年近く前の録音だが、この頃のデュトワは精力旺盛だったとみえる。その仕事のほぼ全てが名演で、後世に残すべきものだと思われる(しかしながら、残念なのは廃盤が多いこと)。このところ滅多に新録音がリリースされないところが何とも歯痒いが、どうなのだろう?
このヤナーチェクも初めて聴いたときから愛聴盤で、もう何度繰り返し聴いたことか。あまりに美しい。『グラゴル・ミサ』も『シンフォニエッタ』も知る人ぞ知る(?)代表盤だと僕は思う。これらも曲を愛する人々は絶対聴かねば。

10 COMMENTS

雅之

おはようございます。

西洋音楽は教会が発祥の地ですからね。
けれど、ヤナーチェクが神を信じていようがいまいが、私に言わせればどうでもいいことです、彼の音楽が素晴らしい前では・・・。

神がいるかいないかなんて誰にもわからないこと、興味の二の次、三の次、20番目〜100番目以下位の関心事、今を自分らしく一生懸命生きることこそが大切・・・、実存主義なんていうのも、詰まるところそういう価値観なんだと思います。

ところで、今日は13日の金曜日! Oh! My God!

しかし、そんなの関係ない!
信じるものは信じないものより幸福だという事実は、酔っ払いが素面の男より幸福だというのと同じくらい間違っている。・・・・・・ ジョージ・バーナード・ショウ

そして、
God helps those who help themselves.  天は自ら助くる者を助く。

※ご紹介のデュトワ盤は未聴です。いつか聴いてみたいです。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
確かにどうでもいいっちゃあどうでもいいことですね。
しかし、バーナード・ショーもいただいたコメントのように論じているということは、古今東西多くの人が「神の存在の是非」について考えてきたことの裏返しのようにもみえます。

>God helps those who help themselves.  天は自ら助くる者を助く。

はい。自力と他力、そのバランスも不可欠だと思います。

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雅之

>自力と他力、そのバランスも不可欠だと思います。

関係ないです。
たとえば「他力本願」とは、「他力」の語意は衆生の側から仏の力について表現しているのではなく、一方的に衆生を救済するという阿弥陀如来の利他力を仏の側から表現した言葉です。・・・・・(ウィキペディアより)
http://labo.wikidharma.org/index.php/%E4%BB%96%E5%8A%9B

なお、阿弥陀仏は「神」ではありません。

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岡本 浩和

>雅之様

確かに「他力本願」というのは本来の言葉とは違った意味で解釈されていますよね。
でも、ここで僕が言いたかったことは

自力というのは人間の努力であり、他力というのは人力の及ばない宇宙を司る偉大なるものの働きだと僕は解釈しているということです。ここにも全体観と部分観のバランスの問題があります。

お言葉を返すようですが。

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雅之

まあ、信仰心、信仰心と言われながら、岡本さんの宗教観が明らかになっていないというのが、よくわからない一番の理由ですね。いつも、ほのめかされるだけですから・・・。

「バランス」と「優柔不断」は紙一重ですよ。

返信する
岡本 浩和

>雅之様

>岡本さんの宗教観が明らかになっていない
確かにそういう話題で話をしたことがなかったですね。
僕は神も仏も在ると思っています。八百万というようにどんなものにも宿りますが、「自身の内に在る」というのが正しいのではないでしょうか。「観自在菩薩」です。
またお会いしてお話しできる機会ありましたらこのあたりを話題にしたいですね。
あと、雅之さんにおすすめしたいものもありますし。(何だかまたほのめかしているようですね・・・笑)

>「バランス」と「優柔不断」は紙一重ですよ。

承知しました。

返信する
みどり

デュトワ&モントリオールのラヴェルを探して、ここへ。
雅之さんとの応酬に続くのは気後れしますが…

ヤナーチェクが無神論者であったというのは十分にあり得る話だと
思います。
チェコは歴史的経緯(ヤン・フスはご存じでしょうから書きません)から
中欧において周辺国と比べ極めてキリスト教徒が少なく、人口の30%
ほどと言われていますよね?
(プラハの春以前がどうであったかを知らず、ボヘミアとモラヴィアでは
差異があるのかもしれませんが)

「神を信じない」という言が記録として伝わるほどの事実があったか、
あったとしても意訳・誤訳されていないかどうか不明である場合、
それが無神論を意味するのか、不可知論あるいは無宗教と呼ばれる
類のものであるかを窺い知るのは難しいところではないかと思います。

チェコではスメタナ、ドヴォジャーク(チェコ語でルは入らないはず)と
並んで三大国民的音楽家として扱われていると聞くものの、ロシアと
結びつきの強い作品(雑な表現で失礼)が多いので、自国で正当な
評価を受けているのだろうか?と、つい懐疑的になってしまいます。

>芸術家全般が神の存在を否定するとは考えられない

「神(の存在)」をどう捉えるかというのは難しい問題ですね。
私にとって“something great”というのは宇宙の存在そのもの。
様々な生命が生み出される根源となるのはそれだと思うから。

ビッグバン理論自体がキリスト教的発想だという説もありますが!(笑)
キリスト教者じゃないのにオルガン好きでバッハ好き…って致命的。

返信する
岡本 浩和

>みどり様

結局「神の存在」の有無の論議というのは、ドストエフスキーが「カラマーゾフ」で論じようとしたように終わることのない永遠のものだということですね。実際これは目に見えない「概念」であると同時に、神そのものは各人の中に存在しているものである以上、言葉にできないものだと思います。宗教はキリストもアラーも、あるいはブッダも孔子も老子もみな同じことを言っておられるのですが、どうも弟子が解釈したもの(経典)を庶民が解釈すると全く違ったものに変化して、そこに争いが生れます。それは真に不毛です。

>ロシアと
結びつきの強い作品(雑な表現で失礼)が多いので、自国で正当な評価を受けているのだろうか?と、つい懐疑的になってしまいます。

うーん、実際のところはわかりませんね。国境を超えるものが音楽だと僕は思いますが、あの時代のナショナリズムの中にいた国民の立場から考えてみるとみどりさんの疑念も首を縦に振らざるを得ません。

>“something great”というのは宇宙の存在そのもの。

宇宙の存在はすなわち個々の存在ですから、結局神とは自己の存在とイコールですね。
そのあたりは実はキリストもブッダもみな説いていると思いますが。

>キリスト教者じゃないのにオルガン好きでバッハ好き…って致命的。

この際、切っても切れないキリスト教徒西洋古典音楽ですが、宗教のことは触れないでおきましょう(笑)
バッハは今となっては普遍です。

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みどり

こんばんは。
いつも丁寧なご返信を賜り恐縮です。

私は音楽の勉強を始める前は天文学者になりたかったのです。
ですから、イコールという認識はありませんでした。
正直、今も…ありません(笑)。

ここの業務案内の技術者募集要項、すごいでしょう?
http://www.japan-organ.co.jp/
この現実を知っていると、岡本さんが「普遍」と仰ってくださっても
かなり不安ですよ!(爆)

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岡本 浩和

>みどり様

>この現実を知っていると、岡本さんが「普遍」と仰ってくださってもかなり不安ですよ!

なるほどー!
確かに・・・。

返信する

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