デュトワ指揮モントリオール響のホルスト「惑星」(1986.6録音)ほかを聴いて思ふ

始めは終わりの始まりであり、始まりはまた終わりの始まりである。
ああ、無常。出逢いとは実に不思議な縁。そして、人と人との組み合わせが都度起こす様々な事象。人が変わればすべてが変わる。興味は尽きない。

1986年にリリースされたEmerson, Lake &Powellが残したたった1枚のアルバムは、当時こそセールス芳しくなかったようだが、30余年の時を経て聴くと、実に重みのある、キース・エマーソンのキーボードを中心にした傑作であったことがわかる。
いわゆる既成概念の怖さとでも言おうか、たぶんあの頃は、僕も巷の評の影響をたぶんに受けていたのだと思う。虚心に耳を傾けたときに発見する斬新さと緻密さ。脱帽である。

あわせて、1993年にリリースされた4枚組ボックスに収められた、カール・パーマーをドラマーに代えて再録された”Touch And Go”を、オリジナルのそれと比較して聴いてみると面白い。何よりグレッグ・レイクのヴォーカルの光度と深度が違う。グレッグの声質は年齢を重ねるごとに(渋くなったといえば聞こえは良いが)ピュアなエネルギーを失っていった。そしてまた、パウエルとパーマーのドラミングの明らかな相違。さすがにハードで重厚なという意味ではパウエルに軍配が上がる。もちろんパーマーのいかにもELPらしい太鼓叩きは健在で、捨てがたいのだけれど。

・Emerson, Lake &Powell (1986)

Personnel
Keith Emerson (keyboards)
Greg Lake (vocals, bass and guitars)
Cozy Powell (drums and percussion)

冒頭”The Score”から、こんなに洗練されたかっこ良さと魂にまでずしんと響くパワーのあるアルバムだったのかと耳を疑った。どこをどう切り取っても間違いなく新生ELPの神髄示す傑作。6曲目の”Step Aside”など、往年のELPを髣髴とさせるジャジーでアンニュイなポップスでとても懐かしい。ちなみに、ラスト・ナンバーはホルストの組曲「惑星」から第1曲「火星―戦争をもたらす者」の(お得意)アレンジで、オリジナル・クリムゾンが1969年当時ライブで頻繁に披露していたことから、グレッグには相当の思い入れがあり、キースのキーボード・アレンジの力を得て、より原曲に近い、そしてより音楽的に練磨されたロック・バージョンを世に問うことが叶ったのだろうと思われる。名曲だ。

ところで、NHK交響楽団の今月の定期演奏会には例年と同じくシャルル・デュトワが招かれている。デュトワと言えば、フランスものやロシアものに定評があるが、彼が30余年前、”Emerson, Lake &Powell”とほぼ同時期に録音、リリースしたホルストの「惑星」は今聴いても色褪せない戦慄の記録であると僕は思う。第1曲「火星―戦争をもたらす者」から(当時の)手兵モントリオール響を扇動し(?)、強烈なパッションとエネルギーを放出する音楽を生み出している。

・ホルスト:組曲「惑星」H125
モントリオール交響楽団女声合唱団
シャルル・デュトワ指揮モントリオール交響楽団(1986.6.2録音)

静かな第2曲「金星―平和をもたらす者」の美しさに恍惚。平和とは祈りなのだと思う。また、軽快に蠢く第3曲「水星―翼のある使者」を経て、うなりをあげる第4曲「木星―快楽をもたらす者」でのオーケストラの個々のプレイヤーの巧さに脱帽し、何より中間部の有名な旋律の甘美さと色艶に感動する。
ちなみに、第5曲「土星―老いをもたらす者」は作品の中核となる楽章だが、頂点に向けて炸裂する管楽器の勢い(クレッシェンド)とそれを引き戻そうとする弦楽器のたおやかさ(ディミヌエンド)に涙がこぼれる。その後、踊る第6曲「天王星―魔術師」を経て、女声合唱を伴う終曲「海王星―神秘主義者」に至り、音楽は一層の静寂を獲得する。まるで遠い宇宙空間の無重力状態の如し。

さて・・・、“Lay Down Your Guns”での、グレッグのヴォーカルは気のせいか悲しく切ない。

Lay down your guns I come in peace
No need to run my friend into the trees
We’ve been through this so much before
But still we get it wrong

気がつけば、Keith EmersonもGreg Lakeも、またCozy Powellも今やこの世の人ではない。
グレッグ・レイクの1周忌に。

 

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3 COMMENTS

みどり

岡本様

ご無沙汰しております。

採り上げてくださって、ありがとうございます。

Emerson Lake & Palmerの熱心なファンの方々からは
評判の芳しくないEmerson Lake & Powellですが
このアルバム、いいですよね♪

カール・パーマーとコージー・パウェルの違いがよくわかって
トリオとしてもバランスが良いと思います。

公式のライヴアルバムに収録されなかった楽曲も入っているので
こちらは音源だけですが、なかなか楽しめます。
https://www.youtube.com/watch?v=92KP4n8GD6o

コージー・パウェルの前にサイモン・フィリップスに声をかけたものの
断られて…という経緯があるらしいですが
このメンバーを観ると、ジョン・エントウィスルとのトリオも
面白かったのかもしれませんね♪
https://www.youtube.com/watch?v=xTEmldzx1xE

グレッグ・レイクはその歌声も唯一無二のものでした。

寒くなりましたので、お身体大切にお過ごしくださいませ。

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岡本 浩和

>みどり様

コメントをありがとうございます。
僕も30年前に聴いたときは(先入観もあったのでしょう)あまり良いとは思わなかったのですが、
30年近くぶりに聴いてみて、素晴らしさにおったまげました。(笑)

ご紹介の音源も素晴らしいですね。
たった1枚しかアルバムを作らなかったことが残念です。
キース・エマーソンは、ジョン・エントウィッスルとも演っていたとは知りませんでした。

>グレッグ・レイクはその歌声も唯一無二のものでした。

同感です。
もはやELPのステージを観られる可能性がなくなったことが残念です。

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