アタッカ・カルテットのメンデルスゾーンを聴く

久しぶりにメンデルスゾーンのカルテットを聴きたくなって、昨年2度ほど生演奏に触れたアタッカ・カルテットのCDを取り出した。そういえば最初のサントリーホールでのリサイタルの折に購入したきりになっていたものだ(ほとんど未聴のまま棚に眠る音盤がいくつもある・・・苦笑)。ヤナーチェクの第2四重奏曲とのカップリング。あくまで独断と偏見で述べさせていただくと、(漠然とした言い方が許されるのなら)彼らの演奏には「男性的なもの」と「女性的なもの」が混在しており、実にそれらが上手く調和した時に特別な名演奏が生まれる。そしてどちらかと言うと女性2人が「男性性」が強く、男性奏者2人が「女性性」が強い、そんなことを感じた過去2回のコンサートだった。ということは内面的にも外面的にも非常にバランスのとれた(両性具有?)カルテットだということだ(本当か?笑)。

その感想はこの音盤を聴いても基本的には変わらない。
そして、フェリックス・メンデルスゾーンの音楽を奏するときに、彼らのそういう側面が非常によく活かされる。どうしてか?ここからは僕の勝手な推測。メンデルスゾーンの作品の多くは姉ファニー・ヘンゼルの息がかかったものだった。いや、この言い方はどうなのか?フェリックスがファニーの音楽的才能を(作品の出版については否定的だったけれど)認め、自作の創作の時にも随分知恵は借りていただろうことを前提にするなら、彼の作品の「非の打ちどころのなさ」は姉弟のインスピレーションと知恵が詰まったものだと言えるだろうから。ということで「男性性と女性性がうまくコントロールされて音楽に練り込まれている」のがフェリックス・メンデルスゾーンの音楽なのである(モーツァルトの音楽も同じような要素を持つが、メンデルスゾーンの音楽があくまで人間界のものであるのに対してモーツァルトのそれは天国的)。
しかも、第4四重奏曲に至っては、最も脂の乗っていた時期の作品だ。この中にはやっぱりファニーの息吹も感じられるし、それを尊重するフェリックスの想いすら感じとれる(フェリックスの結婚を巡って2人の間には確執が一時あったようだが、そのことで尚更2人の結びつきの強さを僕などは感じてしまう)。

・ヤナーチェク:弦楽四重奏曲第2番「ないしょの手紙」(1928年)
・メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲第4番ホ短調作品44-2(1837年)
アタッカ・カルテット(2010.5録音)

1835年、フェリックスはライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の指揮者となり、1837年にはセシルと結婚。公私ともに絶好調の極みにあった。つまり、作品44-2はこの頃の彼のおそらく全知全能が込められた隠れた名曲といえるのだ。
僕は数年前に「早わかりクラシック音楽講座」でメンデルスゾーンを採り上げるまではこれらの曲の存在は知っていても軽視しておりきちんと聴いてこなかった。そして、いろいろと勉強するに及び随分後悔した。とにかく素晴らしい作品たち。それを「アタッカ」の若き4人がフレッシュな解釈で、しかも本当に上手く混ざり合ってひとつになっているのである。夢見るようなアンダンテ楽章は格別!繰り返し浸っていたい(笑)

ところで、ヤナーチェクの方。晩年のヤナーチェクのカミラへの異常なほどの恋愛感情を表現し切るにはまだまだ経験不足なのかも(でも、上手いよ)。プラトニックとはいえ老巨匠の粘着質の感情を表現するには経験が足りなかろう。
この時期のヤナーチェクの、もっと無茶な、常識外れの、とはいえ「これこそが人間の本能なんだ!」と開き直るような潔さをストレートに音化できればすごい音楽になりそう。あと何十年生きればいいのかな・・・?(笑)


7 COMMENTS

雅之

こんばんは。

>ところで、ヤナーチェクの方。晩年のヤナーチェクのカミラへの異常なほどの恋愛感情を表現し切るにはまだまだ経験不足なのかも(でも、上手いよ)。プラトニックとはいえ老巨匠の粘着質の感情を表現するには経験が足りなかろう。
この時期のヤナーチェクの、もっと無茶な、常識外れの、とはいえ「これこそが人間の本能なんだ!」と開き直るような潔さをストレートに音化できればすごい音楽になりそう。あと何十年生きればいいのかな・・・?(笑)

少なくとも、あと何十年生きればいいのか、という問題ではないですね。
岡本さんも、やっぱりご自分でも楽器を触ってみられないと・・・、に尽きます(笑)。

・・・・・・話はさらに別な方向へ飛ぶが、若い女性演奏家が退屈なベートーヴェンやブラームス演奏を披露すると、「もっと恋愛経験を積むなどして社会勉強しなさい」と訳知り顔でお説教する御仁がいる。恋愛してピアノやヴァイオリンがうまくなるのなら誰も苦労しない。世界の若い音楽家が、レッスンを放り出して♡ ♡始めるだろう。恋の達人で下手なヴァイオリンを弾く人もいれば、演奏は凄いが世間のことはまるで知らない困ったお嬢さんもいる。そういうものなのだ。

 芸術の世界では、安易な経験主義は有害とまではいわないが、その多くは無効。少なくとも音楽を習う学生のレヴェルでは、「もっと社会勉強しなさい」式の御託宣は、残念ながらあまり効能が期待できない。「そこの肘はもっと直角に」「スタカートをはっきりと」「ツェーの音は気持ち高めに」といった馬鹿馬鹿しいほど現実的、即物的な指導と練習の細かい積み重ねこそが、人に感動を与える芸の基礎となるのであって、そういう部分をはしょってはいけない。文学や歴史、美術など周辺芸術や歴史にいくら関心をもったところで、地味で退屈な練習を根気よく続けていなければ良い演奏はできない。たくさんのベートーヴェン文献を読みあさり、合間を縫ってラヴラヴに励めば、その度合いに比例して人を感動させる演奏が可能になるなら、世の中わかりやすくていいのだけど。・・・・・・渡辺和彦 著 名曲の歩き方 音楽之友社 47〜48頁
http://www.amazon.co.jp/%E5%90%8D%E6%9B%B2%E3%81%AE%E6%AD%A9%E3%81%8D%E6%96%B9-%E6%B8%A1%E8%BE%BA-%E5%92%8C%E5%BD%A6/dp/4276210437/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1342963124&sr=1-1

極めて拙いながらも実体験を踏まえた私は、渡辺氏の書かれていることのほうに、強い共感を覚えます。

富士山は遠くで眺めるのと実際に登るのとでは、全然違うんですよ。

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。
今夜は絶対にここの部分に雅之さんは噛みついてくるだろうと読んでおりました(笑)。

渡辺さんのご意見も雅之さんのご意見もごもっともでぐうの音も出ませんが、しかしとはいえ、演奏技術以外の経験っていうのはすごく重要なことなんじゃないですかね?
でなければ、演奏家が熟練し、老練の域に達するにつれ、表現に深みがより増してゆくことの説明ができないのでは?もちろん練習も人一倍してらっしゃるでしょうが、技術的には衰えていきますよね、誰しも・・・。

楽器を演奏しない僕のカンですからあてにはなりませんが・・・(笑)。

>やっぱりご自分でも楽器を触ってみられないと・・・、に尽きます

あ、はい、それはその通りだと思います。

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雅之

>今夜は絶対にここの部分に雅之さんは噛みついてくるだろうと読んでおりました(笑)。

そう言われるのが一番癪に触るので、余計に言葉が過激になります(笑)。

もう一度同じ言葉を繰り返します。
少なくとも、あと何十年生きればいいのか、という問題ではないですね。

上から目線の困った勘違いおじさんにしか思えません。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。

>上から目線の困った勘違いおじさんにしか思えません。
>演奏家に対して相当失礼

お言葉を返すようですが、ひとつも否定はしておりませんよ。
今も大変に素晴らしい尊敬に値するカルテットだと思います。その上で、もっとこうだったらもっと面白いんじゃないかなと、(独断と偏見ですが)思ったことを愛をもって書かせていただいている次第です。

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雅之

だからー(笑)。

もう一度、最初と同じ言葉を繰り返しますよ。いいですかー?(笑)

「少なくとも、あと何十年生きればいいのか、という問題ではないですね」

カルテットで大切な要件について、ちょっと理解度が低いんじゃないですか?(笑)

ピアニストや指揮者と一緒くたに考えてはいませんか?(笑)

カルテットにおいては、求心力と各奏者のテクニックが命です。
通常は時間の経過とともに、メンバーは求心力よりも遠心力が強くなり(バンドと一緒)、テクニックもある時点をピークに老いの影響で低下します。

メンバー交代でもなければ、熟成までの何十年もの時間的余裕はないはずです。

それは、アルバン・ベルク四重奏団だろうが、スメタナ・カルテットだろうが、東京カルテットだろうが、例外ではありません。

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岡本 浩和

>雅之様

>カルテットで大切な要件について、ちょっと理解度が低いんじゃないですか?

いやいや、わかってますよ(笑)。
これまでも散々雅之さんに教えていただいておりますから。
ただし、ピアニストや指揮者と一緒くたに考えているかもです。図星です(苦笑)。
今回のご指摘ポイントは重々承知しておりましたが、ずれた主張を繰り返しておりました。

カルテットの重要ポイント再確認させていただきました。
ありがとうございます。

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