Miles Davis “A Tribute To Jack Johnson”を聴いて思ふ

a_tribute_to_jack_johnson時の移ろいとともに刻一刻と楽想が変化する妙。
マイルスは、自分の音楽を「ジャズ」と呼ぶなと、そう、「ジャズ」とは白人がかの音楽に勝手に名づけた呼称に過ぎないとぼやいた。なるほど、確かにもはやこれは「ジャズ」とはいえない。このレコーディングの直後に、いずれコラボレートを約束していたジミ・ヘンドリクスが急逝する。そのジミヘンやスライ・ストーンやジェイムス・ブラウンや・・・、マイルスが尊敬するロック・ミュージシャンのイディオムを借り、特にこの前後の時期からマイルス・デイヴィスの音楽はジャンルを超え、「マイルス・デイヴィス」という音楽になる。

それは単に音楽なんだ。音楽の一部だ。アンドレ・ワッツのピアノはすばらしい。だが、ハービー・ハンコックのピアノもそうだ。それにビル・エヴァンスもな。プッチーニは偉大だが、ジミ・ヘンドリクスも同じように偉大だ。音楽をやっている人間はみんな繋がっているんだ。レッテルを貼って分類するもんじゃないぜ。
1970年3月23日、ヒュバート・サールのインタビューに応えて
「マイルス・オン・マイルス」ポール・メイハー&マイケル・ドーア編中山康樹監修中山啓子訳P102

マイルス・デイヴィスの言葉には彼の音楽同様後光が差す。
“Right Off”の冒頭、マイケル・ヘンダースンのフェンダー・ベースとビリー・コブハムのドラムスによる何ともセクシーなリズム・セクションを耳にして僕は卒倒した。そして、ジョン・マクラフリンのギター・プレイに震撼。一瞬、ピンク・フロイドを想ったが、明らかにそれとは異なる。やっぱりジミ・ヘンドリクスだ。数分後にようやく顔を出すマイルスのトランペットがいかにも窮屈に歌う様が余計に僕たちの感性を刺激し、目覚めを喚起する。何という解放!!

マイルスは常に黒人を擁護した。それは当然だ。ただし、その裏返しとしての「コンプレックス」のようなものが僕には感じられる。とはいえ、それこそが彼の原動力だ。常に時代の先を行き、一般大衆だけでなく自身のファンに対してすら挑戦した。変化を怖れない不屈の精神こそが彼の偉大なところであり、であるがゆえに没後20数年を経た今でも新しい。
マイルスは言う。

オレは直観的な人間だ。人々の目には止まらないことがわかる。人々が、何年も後になって重要と思ったり聞き取れるようになることを、その時に感じることができる。そして、彼らが理解する頃には、もうオレは別のところに行っていて、そんなことは忘れてしまっている。重要じゃない物事を無視する能力を持っているおかげで、時流に遅れず物事をうまく処理できる。自分が重要と思わない限り、他人がどう思おうとオレには関係ない。それはあくまで他人の意見にすぎない。オレには自分自身の考え方があるし、自分や自分のしていることに関しては、誰よりも自分が感じ取ることのほうを大事にする。
「マイルス・デイビス自叙伝Ⅱ」P345

もう最高である。
1971年リリースのアルバムをひもとこう。

Miles Davis:A Tribute To Jack Johnson

Personnel (#1 & #2前半)(1970.4.7録音)
Miles Davis (trumpet)
Steve Grossman (soprano saxophone)
John McLaughlin (electric guitar)
Herbie Hancock (organ)
Michael Henderson (electric bass)
Billy Cobham (drums)

収録曲は”Right Off”と”Yesternow”の2曲。興味深いのは1曲目&2曲目前半と2曲目後半とで演奏メンバーが異なることだ。当然曲調も風趣も異なる(1曲目は変ロが基調、2曲目は変ロをベースにハ短調に転調)。

Personnel (#2後半)(1970.2.18録音)
Miles Davis (trumpet)
Bennie Maupin (bass clarinet)
John McLaughlin (electric guitar)
Sonny Sharrock (electric guitar)
Chick Corea (electric piano)
Dave Holland (electric bass)
Jack DeJohnette (drums)

最後に俳優のブロック・ピータースによる“I’m Jack Johnson, heavy-weight champion of the world. I’m black. They never let me forget it. I’m black all right. I’ll never let them forget it.”という台詞が挿入され、いかにもかっこ良いのだが、何だか違和感だけが残る。黒人であることを正当化することで逆に卑屈に聞こえるのである。気のせいかな・・・。まぁ、それだけ40数年前は米国内でも黒人差別は確実にあったということだ。
しかし、音楽は素晴らしい。アルバムとしての統一感も見事(A面&B面それぞれ1曲ずつという構成だけれど)。

 


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