ハンドリー指揮アルスター管のスタンフォード交響曲第5番ほかを聴いて思ふ

stanford_5_handley546コンサート通いが続くと、脳みそが飽和状態になる。
一音も聴き漏らすまいと集中し、またあれこれ感じ、考えるからだろうか・・・。完全な静寂を持たない人間には、意図した沈黙は必要なのだと思う。

ブリテン同様、大自然の大らかさ、そして大宇宙の神秘。
どこかメンデルスゾーンの作風を思わせる第1楽章アレグロ・モデラート。金管の咆哮に始まる清澄かつ明朗で叙景的な歌。
また、第2楽章アレグレット・グラツィオーソにおける不思議な透明感。ここで音楽は抑制を効かせながら踊り弾ける。何という快さ。
そして、第3楽章アンダンテ・モルト・トランクィロの、涙腺を刺激する感傷。大河の如く滔々とかつ静かに音楽が流れる音。クライマックスでのほんのわずかな爆発が、一層悲しみを助長する。
終楽章アレグロ・モルトの憂愁。後半に現れるオルガンの音色に荘厳な祈りの心情を垣間見る。嗚呼、美しい。
なるほど、ジョン・ミルトンの田園詩に触発されただけある。明暗、愉悦と悲哀・・・、二元の中で交互に入り交じる抒情。息の長い旋律が聴く者の感性に働きかける。

スタンフォード:
・交響曲第5番ニ長調作品56
・アイルランド狂詩曲第4番イ短調作品141「ネイ湖の漁師と彼が見たもの」
ドナルド・デイヴィソン(オルガン)
ヴァーノン・ハンドリー指揮アルスター管弦楽団

ハンドリーの、企みのない自然さが素敵だ。何より音楽は気を衒うことなく真っ直ぐに流れる。

朝の静けさのなかで、階段口からみつめる海のほうへ森の影が音もなくただよい移っていった。岸の近くから沖にかけて、鏡のような水面が白くなった。軽い靴をはいて走る足が蹴ちらかしたかのように。暗い海の白い胸。からまりあう強勢音節が、二つずつ。竪琴の弦をかき鳴らす手がもつれる和音をまぜあわす。白い波頭に組みこまれた言葉たちが暗い潮にほの光る。
ジェイムズ・ジョイス作/丸谷才一・永川玲二・高松雄一訳「ユリシーズⅠ」(集英社)P27

「ユリシーズ」から第1部「テレマコス」の一節が蘇る。ジョイスの描写は本当に素敵。同様に、スタンフォードの情景を音で描く力も。

光差す森の木々がざわめく。そして、湖は静かに凪ぐ。
鳥は囀り、虫は鳴く。すべてがそこに生きているのだ。
そんな風趣のアイルランド狂詩曲第4番には、ブラームスのピアノ協奏曲第2番の冒頭ホルンの主題が木魂する。ただし、その旋律は一層明るく躍動的。
興味深いのは、時折見せる悲壮な音調。これこそ聖なるサー・チャールズ・ヴィリアーズ・スタンフォードの天才。あるいは、ヴァーノン・ハンドリーの真骨頂。

 

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