杉浦誠司、堀明子、バッハ、そしてニコレ

bach_flute_nicolet.jpg8日(月)の夜、とある校長先生を訪問した。昨年の9月に初めてお会いして以来僕にとっては2度目となるが、気さくな人柄や、学校長とは思えない謙虚で丁寧な姿勢に毎々感心させられつつ、校内を案内いただいたり、例によって音楽室にて得意のリコーダーをご披露いただいたり、楽しい時間を過ごさせていただいた。

先生からはとても新鮮な刺激を受ける。今回もいろいろなご本や人をご紹介いただいた。例えば、多治見市出身の文字職人、杉浦誠司氏のこと。ご本人のサイトのトップページを見ていただいてもわかるとおり、「夢」という字に「ありがとう」という文字が隠されている。いや、というより「ありがとう」という5文字で「夢」という漢字が創作されていると言った方が正しい。彼の著書である「夢・ありがとう」を少しばかり拝見させていただいたが、素晴らしい作品集になっている(これは「買い」だろう)。それと、16歳で不慮の水難事故で夭折した堀明子さんのこと。彼女の子どもの頃の詩をご両親が自費出版したという「四季の色」という詩集。こちらも少しばかり読ませていただいたが、金子みすゞの再来ではなかろうかと思わせるほどその瑞々しい感性と、とても少女とは思えない文体に思わず引き込まれてしまった。

その後、近所の居酒屋に移動し、皆で歓談。いつものように音楽談義に花が咲く中、会社名である「オーパス・スリー」の由来についての話になった。この「作品3」という名称には様々な想いをこめている。ひとつは「僕自身が3つ目のキャリア、すなわち第3段階であるということ」、またひとつは「僕が3月生まれであること」、さらにひとつが「3という数字の持つ意味、すなわち調和こそが僕が仕事を通して目指しているものだということ」などなどである。その「調和」のことからからバッハの数秘術に話が及び、コルボの指揮する「ロ短調ミサ曲」の素晴らしさについて目を輝かせて語られる先生の眼にこれまた吸い込まれるようだった。リコーダー吹きである先生は、ミシェル・コルボ率いるローザンヌ声楽アンサンブルにおいてフルートを受け持っていたオーレル・ニコレの音色について大絶賛されていた。僕はコルボの新盤についてはよく知っているものの、残念ながら旧盤は未聴である。ニコレやモーリス・アンドレが参加しているとなるとさぞかしと思わせられた。機会があったらともかく聴いてみたい。

翌朝、先生から嬉しいプレゼントを妻が受け取った。オーレル・ニコレによるバッハのフルート・ソナタ全集(DENON盤)である。ニコレらしい、これまた熟成した中に瑞々しさの感じ取れるふくよかな響きをもつ絶品である。先述の瑞々しさの中にも不思議な老練さを秘めた堀さんの詩と相似形のように感じられるバッハである。

そう、バッハの音楽にもニコレの演奏にも、そして堀さんの詩や杉浦さんの文字にも共通するのが「調和」なのである。すべての出逢う人たち、すべての経験に感謝。ありがとうございます。

J.S.バッハ:フルート・ソナタ全集
オーレル・ニコレ(フルート)
クリスティアーヌ・ジャコテ(ハープシコード)
藤原真理(チェロ)
(録音:1984年5月10日~12日、スイス、ローテンフルー教会)


4 COMMENTS

雅之

おはようございます。
まずは、今回も滋賀県でのコンサートのご成功、お慶び申し上げます。
校長先生お薦めの、コルボの指揮「ロ短調ミサ曲」旧盤は、1980年代初頭、レコ芸で特選になっているのを見て国内盤新譜LPで買い、対訳を見ながら擦り切れるくらい聴きました。この盤で同曲を覚えたようなものなので非常に愛着があるのですが、うかつにもニコレやモーリス・アンドレが参加しているとは、今の今まで気付きませんでした。
なお、同時期に買って愛聴したスイスのバッハでは、フランス語圏のローザンヌとは違いドイツ語圏ですが、有名なバウムガルトナー指揮ルツェルン弦楽合奏団他による「ブランデンブルク協奏曲全曲」再録音盤
http://www.hmv.co.jp/product/detail/1215938
があり、この新譜LPを買ったきっかけも、当時レコ芸やステレオ芸術(懐かしい!)月評で、宇野さん他多くの評論家に絶賛されているのを読んだからでした。スークのヴァイオリンやヴィオラに魅かれていましたが、ここでのニコレも最高だと思います。なお、モーリス・アンドレは1973年、パイヤールの「ブランデンブルク協奏曲全曲」録音
http://www.hmv.co.jp/product/detail/3696874
に参加していますよね。こちらの管楽器の協演も素晴らしいの一語ですが、弦楽器の魅力はバウムガルトナー盤が上だと思っています。
ニコレのバッハ、本当にいいですよね。ランパルのフルートは金、ゴールウェイのフルートは金やプラチナを連想しますが、ニコレは銀、それも「いぶし銀」というイメージです。深い演奏ですね。
「調和」はハーモニーですが、一方で西洋音楽には「対位法」という「対立」させる美学がありますよね。バッハは単なる「仲良しグループの調和」ではなく、「和声法」と「対位法」、つまり「協調」と「個の尊重」が高い次元で「調和」しているところがいいです。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
何だか久しぶりのような気分です(笑)。
バウムガルトナー&ルツェルンの「ブランデンブルク」、いいですよねぇ。パイヤールの方は残念ながら未聴なのでコメントいたしかねます。
>ニコレは銀、それも「いぶし銀」というイメージです。
確かに!!
>バッハは単なる「仲良しグループの調和」ではなく、「和声法」と「対位法」、つまり「協調」と「個の尊重」が高い次元で「調和」しているところがいいです。
本当にその通りですね。個々がそれぞれ独立しつつ、しかも共生しているという意味においては、バッハはまさに僕が追い求めている世界に近いです。

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