追悼グスタフ・レオンハルト

僕は、バッハの鍵盤作品の中でも「平均律」「ゴルトベルク」を差し置いて実に最高傑作なんじゃなかろうかと思ったことが幾度もあるほど「フランス組曲」が殊の外好きで、時にチェンバロで、時にピアノでというようにその時の気分に合わせて様々取り出して聴く。何だろう、解釈の幅が非常に広いというか、どんな演奏でも受容してしまう器の大きさと、そして多種多様な舞曲によってウキウキしたり、悲しくなったり、いろいろな感情がその中に聴いてとれるところがお気に入りの理由かもしれない。

追悼の意を込めて、レオンハルトが1975年に録音した音盤を取り出して何度か繰り返して聴いてみた。
「前に前に」という疾走感と、生気に満ちたバッハの姿がこの中にはある。
それは、グレン・グールドが若き日にピアノ演奏で挑戦したものとは明らかに風貌を異にしながらも、どこかに共通項が感じられる類稀な演奏。あくまで既成の型に収まりながら常に「新しきこと」を追究し、チャレンジするレオンハルトの姿勢、もっというなら人格がバッハのそれと二重写しになる。
そもそもフランス組曲という作品自体が挑戦的だ。

J.S.バッハ:フランス組曲(全曲)BWV812~BWV817
グスタフ・レオンハルト(チェンバロ)(1975.2&12録音)

先妻マリア・バルバラを亡くした後遺症で、意気消沈した時期でありながらも、希望に満ちた音調がその内に聴いてとれるのは、やはり15歳年下のアンナ・マグダレーナの存在あってのことだろうか(何と半年後には再婚しているのだからその身の代わりの早さよ)。
僕は、ピアノ演奏ではグールドのそれよりもブーニンのそれを愛する。決して機械的でない人間っぽさと真摯な愛情が感じられるから。その意味では、チェンバロにおけるレオンハルトのこの演奏も同様。実際にバッハの演奏を聴いたわけではないので想像にすぎないが、本当にバッハ本人が弾いているような自然体の音楽がここにはある。

ところで、昨晩、瞑想前の入浴時にグスタフ・レオンハルトを追悼し、彼の弾くバッハの「ゴルトベルク変奏曲」を聴いた。もともとゴルトベルク伯爵の睡眠導入剤のつもりで書かれた作品だといわれるが、温かいお湯に浸かって汗を出しながら耳にするこの音楽というのも乙なもの。正味50分ほどお湯の中にいた計算になるが、第26変奏あたりになるともはや昇天気分で、幻想、幻聴だと思うが、実際にレオンハルトが眼前でチェンバロを弾いてくれているような錯覚を起こし、倒れそうになった(少し上せただけかもしれないけれど・・・笑)。お蔭で睡眠は快調、目覚めもスムーズで朝稽古がいつも以上にすっきりこなせた。レオンハルト先生ありがとう。


3 COMMENTS

雅之

こんばんは。

>先妻マリア・バルバラを亡くした後遺症で、意気消沈した時期でありながらも、希望に満ちた音調がその内に聴いてとれるのは、やはり15歳年下のアンナ・マグダレーナの存在あってのことだろうか(何と半年後には再婚しているのだからその身の代わりの早さよ)。

私はテレマンの絶倫人生もバッハの絶倫人生に負けず劣らず好きです。

・・・・・・音楽の成功とは裏腹に、彼の結婚は失敗続きであった。最初の妻とは15ヶ月で死別し、二番目の妻とは1714年に結婚し、9人の子供たち(誰も音楽家にならなかった)を授かる。この二番目の妻マリア・カテリーナはスウェーデンの将校と関係を持っているとの噂だったため、結婚は1720年代前半までにすでに問題を抱えていた。マリア・カテリーナはギャンブルでテレマンの年収を超える4400ライヒスターラーにも上る莫大な負債をこしらえたが、ハンブルクの商人達の助けで、彼は破産から救われた。1736年までにマリアはテレマンの家を出た。彼女は約8年、夫より長生きして、フランクフルトの修道院で、1775年に亡くなった。・・・・・・ウィキペディアより

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B2%E3%82%AA%E3%83%AB%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%AA%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%BB%E3%83%86%E3%83%AC%E3%83%9E%E3%83%B3

明日が晴れても雨でも雪でも何があっても元気に頑張ろう!バロックってそんな感じ。

というわけで、往年の名盤で、私も昨日に引き続きレオンハルトを偲びましょう。

テレマン:パリ四重奏曲(全曲)
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%86%E3%83%AC%E3%83%9E%E3%83%B3-%E3%83%91%E3%83%AA%E5%9B%9B%E9%87%8D%E5%A5%8F%E6%9B%B2-%E5%85%A8%E6%9B%B2-%E3%83%AC%E3%82%AA%E3%83%B3%E3%83%8F%E3%83%AB%E3%83%88-%E3%82%B0%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%95/dp/B00005G7XG/ref=pd_cp_m_3

レオンハルトのチェンバロには存在感があり、アンサンブルの要としてじつに見事です。

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雅之

もうひとつ、レオンハルトがチェンバロで加わっている歴史的名盤では、ブリュッヘン指揮アムステルダム合奏団によるターフェルムジーク全曲(1964年、1〜3月、6月、10月、12月、1965年1月録音)があるのですが、
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%86%E3%83%AC%E3%83%9E%E3%83%B3-%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%AB%E3%83%A0%E3%82%B8%E3%83%BC%E3%82%AF-%E9%A3%9F%E5%8D%93%E3%81%AE%E9%9F%B3%E6%A5%BD-%E3%83%96%E3%83%AA%E3%83%A5%E3%83%83%E3%83%98%E3%83%B3-%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B9/dp/B00006GJMY/ref=sr_1_4?s=music&ie=UTF8&qid=1327061088&sr=1-4
ヤープ・シュレーダー、アンドレ、ビルスマとか、そうそうたるメンバーが集まっており、温かみのある演奏で、とても素晴らしいです。録音当時は、今のようなピリオド奏法がまだ開発、徹底されていなかったのもじつに私好みで、昔からの愛聴盤です。

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。

>テレマンの絶倫人生もバッハの絶倫人生に負けず劣らず好きです。

テレマン、いいですねぇ。
しかし、その生涯については勉強不足であまりよく知りません。少し勉強してみたいと思います。
ご紹介いただいた音盤もどれも未聴ですので、あわせて聴いてみようと思います。
ありがとうございます。

>録音当時は、今のようなピリオド奏法がまだ開発、徹底されていなかった

それにしてもおっしゃるとおり、60年代のレオンハルト周辺というのは熱いですね!
ありがとうございます。

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