青柳いづみこさんのピアノ演奏はもちろんだが、それ以上に彼女の書くエッセーなどが好きで、新刊が発売されるたびに楽しく読ませていただいている。特に、ドビュッシーにまつわる文章は彼女の独壇場で、ほとんど論文に近い重いものから軽い作品論までどこの部分をどういう風に切り取っても勉強になることばかり。本当にこの人はドビュッシーと共に歩み、ドビュッシーと共に死するほどに彼の音楽がお好きなんだろうなと感動する。どんなことにでものめり込むことができ、その道の玄人に登り詰める人の生き様は素敵だ。
つい先頃刊行された「ドビュッシーとの散歩」も無類の面白さ。ドビュッシーが作曲したピアノ曲から40曲を選び、その作品に寄せて彼女が思いを綴る。知らないエピソードも数多く・・・。
例えば、ドビュッシーが「髪フェチ」だったこと(笑)。
あるいは、「沈める寺」のモチーフになった伝説の町イスは、花の都パリの語源にもなっているということ。
ここ数日ドビュッシーから遠ざかっていたが、やっぱり記念年ということもあり、再びドビュッシーに戻る。昨日、これも久しぶりにプーランクの「ぞうのババール」を聴いて、物語も当然素晴らしいのだけれど、プーランクの音楽の魅力について再認識し、20世紀前半の文化の発信拠点だったフランス・パリの音楽的センスの高さをますます思い知った。こういう道筋はドビュッシーから始まるのか・・・(いや、前世紀のショパンやリストからすでに始まっていたか)。
何年か前、エリック・ハイドシェックが若い頃に録音した音盤がカシオペ・レーベルから一気にリリースされた。彼の音楽に対する忠誠度が昔より少しばかり落ちていたせいか、僕はそれらを手にしなかった。ところが、先日たまたま490円で売られているのを見つけ、迷わず購入した。これがとにかく素晴らしい。
うーん、滅茶苦茶上手い!!たった今生れたような音楽・・・。音の強弱もテンポも縦横無尽で、まったく想像のつかない解釈に心を奪われる。きらきらと輝く「グラナダの夕暮れ」。これまで何度もハイドシェックの実演には触れているが、ドビュッシーこそまさに自家薬籠中のもので、青柳さん同様、彼こそはドビュッシーを弾くために生まれてきた人なのではないかと思うほど。それにしては録音が多くないので、今後のリリースに期待するが、彼にはぜひともドビュッシー全集を拵えてもらいたい。
それと、この演奏を聴いてドビュッシーがジャズにつながること、中でもビル・エヴァンスのそれに極めて近いニュアンスだと思った。ビル・エヴァンスはキース・エマーソンなんかにも影響を与えてそうだから、結局プログレにもつながることになる。
それにしても「かわいい黒人の子供」のこういう解釈は聴いたことがない。ずらして、はずして、伸縮自在・・・、すごいわ。