甘いわかりやすいメロディをもつ音楽、一般的に人気を博す音楽に対してどうも玄人は厳しい。いや、真の玄人はそんな差別はしないと思うのだが、中途半端な玄人気取りが一番いただけない。大作曲家の傑作に真摯に向かい、一音漏らさず耳を澄ませば必ずや眼を開かれる、そういう瞬間があるものだ。一昨日の「くるみ割り人形」然り、昨日の「オネーギン」然り。そう、モーツァルトを心より敬愛していたチャイコフスキーだけあり、彼の作曲家としての真価は実に舞台作品にあるように思う。
チャイコフスキー:バレエ音楽「白鳥の湖」作品20
シャルル・デュトワ指揮モントリオール交響楽団
いつだったかマシュー・ボーンの「白鳥の湖」が話題になったとき、何人もの友人から絶対に観ろという忠告を受けた。本来女性が踊る白鳥を男性が踊るという奇抜なパフォーマンスも、ひとつの芸術作品としてしっかり昇華されており、音楽が録音によるものだったものの、しっかり記憶に残る、そういう素晴らしい体験だった。
「白鳥の湖」など、チャイコフスキーの作品の最右翼に挙げられるものだろうから、かつてはこの音楽を真面目に聴くことを放棄していた。しかしながら、もともとバレエ音楽であるゆえ、どんな演出であれ実際に舞台に触れながらの体験は、チャイコフスキーの音楽家としての株を大いに上げる(偉そうな言い方だが)、それくらいに貴重な経験だったと今更ながら思う。そういえば、20年以上前20世紀バレエ団がベジャール・バレエ団に改名し、確か初めて来日した折、「レニングラードの思い出」という舞台を観たが(ジョルジュ・ドンも健在だった)、そこにもチャイコフスキーの音楽が使用されており、やっぱり重要な役割を果たしていた。
デュトワ&モントリオール響の全盛期の録音はどれも最高だが、この「白鳥」はラテン的明るさが全面に押し出されており、荒涼としたロシアの大地を照らす太陽のごとく素晴らしい。
こんばんは。
遠い昔、まだ高校生のころ、チャイコフスキーの交響曲は誰の演奏がいいだの、ドヴォルザークの「新世界」交響曲、ホルストの「惑星」、ムソルグスキー&ラヴェル「展覧会の絵」は、それぞれこの指揮者とオケのLPが最高だの、音楽好きの友人といつ終わるともなく議論していたあのころの自分が、一番純真だったのかも知れないと思う時があります。
クラシック通になるに従い、趣味が偏食になり、人間まで偏屈になる副作用があるなら、音楽鑑賞の情操教育って何の意味があるのでしょうか? 音楽は人の心を豊かにするはずなのに、クラヲタになるほど心が貧しくなっていくばかりではないのか?、このパラドックスに自問自答することがよくあります。
高校生のころの初心者の気持ちに戻って、本日のおススメ盤を・・・。
まず「白鳥の湖」ですが、デュトワ盤の「水彩画路線」がお好きでしたら、アンセルメ&スイス・ロマンド管による往年の名演もぜひ聴いてみてください。デュトワより、さらに味わい深いと感じられるでしょう。大切なのはオケの技術だけではないことにも、気付かされます。LP時代から大好きな演奏です。
http://www.hmv.co.jp/product/detail/3576326
※こちらの最新録音SACDも初心に戻って聴いてみてください!!
チャイコフスキー 交響曲第4番 小林研一郎&アーネム・フィル http://www.hmv.co.jp/product/detail/3793756
チャイ4はチャイ5より、指揮者もオケも造形が難しく、コバケンも過去思考錯誤、苦労していたようですが、ついにここに超名演の録音が生まれました。
第4楽章後半まで落ち着いて歩みを進め、それまで我慢していた最後の最後での猛アッチェレランドでの歓喜の感情の大爆発は、まさに鳥肌ものです! ブラボー!! 高校時代の自分が聴いたら、おそらく大絶賛するであろう嬉しい名演です。ご紹介したくて堪りません!!
>雅之様
おはようございます。
本当におっしゃるとおりですよね。
ご紹介のアンセルメの音盤は昔から有名なものですよね。しかし、例によって若い頃チャイコフスキーの音楽、特にバレエ音楽なんて・・・と馬鹿にしていて聴きそびれているのです。
オススメありがとうございます。この機会に意識を切り替えて真面目に聴いてみます。
コバケンの4番は魅力的ですね!こちらも未聴なのでそこまでおっしゃるなら聴いてみなきゃ、と思います。コーダの猛アッチェレランドなんて想像するだけで鳥肌が立ちます。