メンデルスゾーン:スコットランド交響曲

最後のクライマックス場面でのリズミックなピアノによる序奏
ウルトラセブンの最終回ではリパッティ&カラヤンによるシューマンの協奏曲が使用されているのはとても有名な話で、なぜあそこでシューマンなのかと昔は思ったけれど、なるほど繰り返し観るうち、今では無条件にあれなんだと納得する自分がいる。もはや文句のつけようがない。

久しぶりにウルトラセブンを観た。歴代のシリーズの中でもおそらく最も人気のあるものだろう。子ども向けの、単なる変身ヒーローものに終わらない、現代の我々にすら警鐘を鳴らす壮大なドラマとして君臨する。それは1話1話深く考えられ、念入りにきちんと制作されていたことに依るのだと思う。
第37話「盗まれたウルトラ・アイ」。全ストーリーの中でも1,2を争う傑作!
モロボシ・ダンからウルトラ・アイを盗むという任務を完璧にこなすものの自分の故郷に裏切られる(それは最初から仕組まれていたこと)マゼラン星人マヤ。そして、彼女に対して手を差し伸べようとするダン。宇宙人同士の友情、愛・・・、そしてそこに漂う悲哀。

人気のなくなったスナック・ノアでのマヤとダンとの対話。
マヤ:この星の命、午前零時で終わりです・・・
ダン:君も死ぬのか・・・
マヤ:私は、仲間が迎えに来てくれるわ・・・
ダンはマゼラン星からの交信テープを取り出す。
ダン:誰も来ない。君ははじめから見捨てられていたんだ・・・
テープを渡され、通信内容を読み、事情の全てを悟ったマヤ。
ダン:この星で生きよう。この星で一緒に・・・
マヤ:・・・
返事の代わりに、マヤはウルトラ・アイを差し出す。

世界中至るところで諍いが起こり、争いに巻き込まれ・・・、テロや戦争というものに限らず、身近なところでも人間同士が互いにぶつかり傷つけ合う世の中。

絶望し、自ら命を絶ったマヤにダンはつぶやく。
なぜ他の星ででも生きようとしなかったんだ・・・。僕だって、同じ宇宙人じゃないか・・・

ダンとマヤとの対話シーン。テープを渡されてマヤがすべてを悟ったその時に流れるのが「哀惜のバラード」(天才冬木透の傑作!!)。何とも心震わすメロディ。

ふと思った。冬木透の音楽というのは明暗のバランスが絶妙で、完全調和だ。そして、いかに映像的(絵画的)であるかと。で、そう思ったときにあわせて浮かんだのがフェリックス・メンデルスゾーンの音楽。
ユダヤ人であったメンデルスゾーンも家族ともども幼少時から宗教的諍いや差別に巻き込まれていたせいか、その音楽は優等生的明るさを呈する反面、不思議に翳りがちらちら垣間見えるのが特長。さらに、自らも画家としての才能を発揮した彼らしくやっぱり映像的。メロディも直接心に訴えかけるほどに秀逸で(同時代に生き、交流もありながらそこはロベルト・シューマンとは決定的に違うところ。どんな作品を聴いてもメンデルスゾーンのものは決して晦渋でない)。

クレンペラーの「スコットランド」シンフォニーを聴いた。何度も。

メンデルスゾーン:
・交響曲第3番イ短調作品56「スコットランド」(1960.1録音)
・交響曲第4番イ長調作品90「イタリア」(1960.2録音)
オットー・クレンペラー指揮フィルハーモニア管弦楽団

1829年夏にスコットランドを訪れ、そこで着想を得、足掛け12年の後1842年にようやく完成された「スコットランド」交響曲。傑作。この中には自然があり、自然との一体がある。ぶつかりや争いはない。ちなみに、クレンペラーが批判的だった終楽章コーダの楽想が突如変わるところ(38’28″あたり)。僕はここにこそフェリックス・メンデルスゾーンの真髄があると思う。どんな嫌なことも、どんな辛いこともすべては無に帰す。そこにあるのは調和のみ。


9 COMMENTS

ふみ

僕の中では天才=モーツァルトではなく、天才=メンデルスゾーンです。
エリアなんてもう…

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みどり

おぉー、ふみ様に激しくご同意申し上げます!

メンデルスゾーンに対する評価は未だ不当に低いと思います。

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岡本 浩和

>ふみ君
さすがです、若いのに君は・・・。
それにしても「エリア」とは。
僕が20代の時にはそんな耳をもっていませんでした。すごいわ、君は。

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岡本 浩和

>みどり様
確かにメンデルスゾーンの評価は不当に低いですね。
これは誰かが口を酸っぱくして言って回らないといけません。
僕もがんばります。

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neoros2019

夕方、このスコットランドをフィルハーモニア盤でもハンブルク放響盤でもかけながら過しているのは、最高の贅沢ですね
クレンペラーの遺産の最高峰だと考えます

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岡本 浩和

>neoros2019様
おっしゃるとおり、黄昏時には特に最高です。
ちなみにハンブルク放送響ではなくバイエルン放送響ですよね?

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neoros2019

そうでした、バイエルン放送響ですね(笑)
話は違いますが、つい最近までヴァントのブルックナーは受け付けなかったんですが
少し前,NHK-FMでヴァントの7番ライブを聴いて、その完成された箱庭的な美に関心したものです
ミュンヘンフィルとやった5番ライブも購入しようかと考えています

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岡本 浩和

>neoros2019様
そうでしたか!
ヴァントのブルックナーは最後の来日は実演を聴いておりますが、あれ以上のものはないと今でもいえる凄演でした。彼の振る第7交響曲も好きです。
ミュンヘン・フィルとの5番は空前絶後の演奏だと思います。おすすめです。

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