シューリヒトのシューマン第2交響曲

シューベルトの大ハ長調交響曲に触発される。
「この交響曲は1845年12月に半病人の状態で作曲されました」
「フィナーレで初めて我に返り、全体が完成したのちに気分が良くなりました」
(1849年、ゲオルク・フリードリヒ・オッテン宛手紙)

1845年12月12日から28日の間にスケッチが作られ、翌46年に完成したロベルト・シューマンの交響曲第2番。この作品は、43年初め頃から起こったロベルトの精神疾患が小康状態だった時期に着想を得て一気に書かれたものの、オーケストレーションを施す際に再び病が悪化、幻聴に悩まされ、発作が繰り返される中、結局数ヶ月を要したものだと聞く。確かに冒頭から仄暗い雰囲気と不安定な音調に溢れるところが精神を病んだロベルトの心をそのまま表すようにも思えるが、何ともこの「重さ」が僕には魅力的でロベルト・シューマンの作品の中でも好きなひとつに数えられる。

この作品、フィナーレ冒頭の行進曲風の主題が、僕の耳にはメンデルスゾーンの「イタリア」交響曲第1楽章の主題の焼写しのように聴こえてならない。そのことに言及している人や記事に今まで出逢ったことがないのでひょっとすると気のせいかもしれないけれど。

ちなみに、第2交響曲は1846年11月5日にライプツィヒ・ゲヴァントハウスにてフェリックス・メンデルスゾーンによって初演されている。当時のドイツ音楽界を担った2人の天才はお互いに尊敬しあっていたということだが、上記2つのシンフォニーを比較するまでもなく性格はまったく異なる。評論活動や新しい才能を発見することに長けていたロベルトはもともと文学的素養に優れていてその作品は極めて「言語的」であるのに対し、様々な学問に通じマルチな才能を秘めていたフェリックスの方は彼が描いた絵画を見てもわかるように「映像的」なものだった。お互いに持っていないものに対しておそらく互いが尊敬しあっていたのだろう。実際のところ、ロベルトが発見したシューベルトの大ハ長調のシンフォニーはフェリックスが初演しているし、ロベルトの管弦楽作品も多くがフェリックスによって初演されていることを考えると、少なくともシューマンのメンデルスゾーンへの尊敬の念と信頼は相当に大きかったように想像する。

とはいえ、ロベルトが精神疾患に陥ったことや、あるいはクララとの結婚に際して「関白宣言」的な申し出を行ったこと、ピアニストとしてヨーロッパ中で既に名を馳せていた妻の影に隠れて自信をいつまでも持てなかったことなど、どこかコンプレックスも強かったのではとも考えられる。それこそ僕の勝手な独断的見解ではあるけれど、フェリックスに対しても「超えることができない」自己不信や相手への嫉妬なんてものもあったのではと想像できなくもない。

・ベートーヴェン:交響曲第7番イ長調作品92(1952.10.24Live)
・シューマン:交響曲第2番ハ長調作品61(1959.10.31Live)
カール・シューリヒト指揮シュトゥットガルト放送交響楽団

シューリヒトのシューマンは不健康なロベルトを正常な世界に無理矢理引き戻し、それを聴く我々をとても魅了する。ある意味、精神疾患すらも彼の芸術創作において大きな力になっているのであり、「それがどうした!」と開き直るかのような(笑)・・・。否、開き直りなんかではない、確信と自信に満ちた演奏が繰り広げられるのである。その印象はデッカヘのスタジオ録音を聴いてもこの実況録音を聴いても基本的に変わらない。

シューリヒトのこの演奏を聴いていて少し妄想が膨らんだ・・・。
精神疾患を抱える自分自身を鼓舞するように生み出された音楽にはフェリックスへの憧れと信頼が投影される。
嫉妬なんてあるはずなかろうが、いやしかし、精神に異常を来している人間の思考はわからぬもの。ひょっとすると、「フェリックスを超えてみたい」という欲望と憧れから生じる裏返しのジェラシーなんてあったかも・・・。


10 COMMENTS

岡本 浩和

>みどり様
「死の舞踏」の際は失礼しました(笑)
自ら貼っていただきありがとうございます。
いいですねぇ、サヴァリッシュ。名演です!!

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ふみ

お、ちょうどオススメしようとしたサヴァリッシュ版が!みどり様、ありがとうございます。

僕にシューマンの交響曲の素晴らしさを教えてくれたのはサヴァリッシュでした。

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みどり

岡本さん、あの「ふみ様」もサヴァリッシュのシューマン、おススメなの
ですよ!
私が無茶言ってるのではないのですからね?(笑)
ちゃんと評価してくださいね、サヴァリッシュのシューマン!!

4番も貼っておいていいですか?(と事後承諾で恐縮です…笑)
http://www.youtube.com/watch?v=M3kmE250i2A

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ふみ

みどり様
そんなとんでもないです。こちらこそ僕のシューマン交響曲の原点であるサヴァリッシュ版をオススメして下さっている方がいらっしゃって嬉しい限りです!
というわけで、岡本さん、今すぐタワレコかユニオンへ!(笑)

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岡本 浩和

>みどり様
4番の冒頭一発目の和音から惹き込まれました。やばいです。
ありがとうございます。買いに走ります。

>ふみ君
タワレコかユニオンね。中古で買います(笑)

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岡本 浩和

>みどり様
「ミサ・サクラ」は持ってますが、「レクイエム」があるのは知りませんでした。
ありがとうございます。

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