Steve Hackett:The Unauthorised Biography

音楽の発祥を考えると崇高な「人の声」の重要性を避けて通ることはできぬ。
にもかかわらず、特にクラシック音楽において、僕は長い間「歌」というものを無視し続けてきた。正直いまひとつわからなかった。いや、というより、高飛車であることを承知で述べるなら「人の声」ほどその力量に依って音楽が良い方にも悪い方にも転ぶものはない。楽器の乱れより歌の不安定さというのは一層気になる。
しかしながら、不安定な調性に依りながら途轍もない名曲を創作した「歌」の作曲家も在る。フーゴー・ヴォルフその人。残念ながらこの人の音楽を随分の間僕は受け容れなかった。否、わからなかったと言った方が正しい。
今朝、出かける前にイアン・ボストリッジの歌う「アイヒェンドルフ歌曲集(抜粋)」を聴いた。ついでに「メーリケ歌曲集(抜粋)」もだ。朝っぱらからのけ反るほど感動した。アントニオ・パッパーノのピアノ伴奏がやけに巧かった。

夜、帰宅するや夕刊を見て驚いた。何とリッチー・ヘヴンスが亡くなったと。
かれこれ30年ほど前、僕はスティーブ・ハケットのアルバムを聴いて、その深みのある、ニュアンス豊かな歌声に惚れた。とにかく美しかった。ウッドストックのオープニングは彼だったが、そのことは後々知った。以来、時折耳にするものの深追いしていなかったこともあり、最近の活動状況を知らなかった。72歳だったのか・・・。相応の年齢と言えばそうだし、いやまだまだ歌えたはずだと言えばその通りだ。これからももっと聴きたかった、彼の歌声を・・・。

20年余り前に発表されたハケットのベスト盤。実に粒揃い。
1曲目は名作”Narnia”。イアン・マクドナルドにインスパイアされて書かれたこの音楽は「ナルニア物語」を題材とする。

Things they taught you at school
Can sometimes disappear
Why do you disbelieve
The things I said were true
Of a land nothing planned
It’s just happens
Girls and boys who shout come out to play

スティーヴ・ウォルシュのヴォーカルが冴える。

Steve Hackett:The Unauthorised Biography

嗚呼、いかにもハケットの音楽!!
大英帝国のどちらかというと明朗かつ幻想的なシーンを想像させる傑作が連綿と綴られる。
冒頭で「人の声」を推しておきながら、ハケットの創作するインスト・ナンバーは「歌」以上に素敵(笑)。この人は隠れた天才だと僕は信ずる。
“Icarus Ascending”はリッチー・ヘヴンスのリード・ヴォーカル。心に沁みわたる旋律美と意味深い詩。

There are many things that I would rather do
Many many places I would rather be
Splendour wings of ambition
Melted by the sun
To the sea of remorse
Graveyard come

そして、旧友フィル・コリンズがヴォーカルをとる”Star Of Sirius”。感動の名曲。

Again renewed by the vessels of Isis
You’re ready to fly
Although the journey is still far from ended
You gaze at the sky
Above the cloudless night
Nebulous bright

古くはグレゴリオ聖歌。いや、古代ギリシャの音楽やらヒルデガルトの音楽などもある。そして、新しきは現代のポピュラー音楽。「人の声」が「人の感性」に訴えかける深度は計り知れない。


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