ボックス・セットを周回していると、時にとんでもなくツボにはまる音盤に出くわす。単独でなら絶対に買っていないだろう、目にも留めていなかっただろうもの。
マリア・カラスの声はいつ聴いてもマリア・カラスその人だ。あの、いかにもドスの利いた図太い(?)声によるアリアを聴いていると、いつの間にか時が経つのを忘れてしまう。
今朝、宮崎駿監督作「風立ちぬ」を観た。とても良かった。実在の人物、堀越二郎の半生を、堀辰雄の小説「風立ちぬ」と「菜穂子」をモチーフにして一気に描き切る様はやっぱり見事。あの不穏な時代に、いずれはかの戦争の武器として使われる飛行機を作るという夢を追った青年の、仕事と恋愛を縦横に紡ぎつつ、善悪、陰陽、すべてが裏腹であることのメッセージを託す力量。時間の経過とともにこちらもジワジワと感動が大きくなってゆく。
堀越二郎は、トーマス・マンとヘルマン・ヘッセを愛読し、フランツ・シューベルトを愛聴したらしい(あくまで脚本上)。でも僕は、結核を病む菜穂子の献身と、2人の愛の形を見届けるうち、マリア・カラスの、何とも切ないあの声を思い出した。先日、タワーのセール・ワゴンで見つけた13枚組のセットから(The Studio Recitals)。ここには真に美しく透明な世界が広がる・・・。
風立ちぬ、いざ生きめやも。
といふ詩句が、それきりずつと忘れてゐたのに、又ひよつくりと私達に蘇つてきたほどの、―云はば人生に先立つた、人生そのものよりかもつと生き生きと、もつと切ないまでに愉しい日々であつた。
~現代日本文學大系64堀辰雄・三好達治集P68
若きプレートル振る、匂い立つ、薫るオーケストラの芳香。そこに沈み込むカラスの暗い声。このコントラストが何とも・・・。ベルリオーズの「ロマンス」などは、想いが秘められるお蔭で余計に恋の熱さが感じられるほど。それと「ウェルテル」からの「手紙の歌」!シャルロットの切ない想いと、カラスの切ない声が見事に同化して感動的なアリアとなる。
「サムソン」からのアリアも・・・、嗚呼・・・。
人気ブログランキングに参加しています。クリックのご協力よろしくお願いします。
にほんブログ村