アルゲリッチ フレイレ ラフマニノフ 組曲第2番ほか(1982.8録音)

初めてそのジャケットを見たとき、僕は火花散らす二人のピアニストの鋭い眼光に恐れをなした。まして何と地味な選曲なんだろうと当時の僕には思われた。レコードに針を降ろして、僕は飛び上がった。冒頭のラフマニノフから勢いが並大抵でない。実に生命力満ちる音楽が終始劇的に、しかしあくまで優しく鳴り響いていた。

・ラフマニノフ:組曲第2番作品17(2台のピアノのための)
・ラヴェル:ラ・ヴァルス(2台のピアノのための編曲版)
・ルトスワフスキ:パガニーニの主題による変奏曲(2台のピアノのための)
マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)
ネルソン・フレイレ(ピアノ)(1982.8.18-20録音)

何といってもラフマニノフが素晴らしい。いや、もちろんラヴェルもルトスワフスキも絶品なのだが、ラフマニノフに通常ある暗澹たる酷寒の大地を思わせる趣きが見事に消し去られ、南米さながらサンバのような明朗さに彩られているのだから驚きだ。

半年ほど前、ピアニストのネルソン・フレイレが亡くなった。
僕は幾度か彼の実演を聴いているが、印象的なのはやはりマルタ・アルゲリッチとのデュオ公演だ。息詰まるような緊張感が徐々に和らぎ、プログラム後半からは何とも柔和で美しい連弾が披露され、4曲も奏されたアンコールでは、何と喜びに溢れた、心からの感謝の念を喚起する音楽だったか、まるで昨日のことのように思い出される。

2003年10月20日(月)19時開演
サントリーホール
・ブラームス:ハイドンの主題による変奏曲作品56(2台ピアノ)
・ラフマニノフ:組曲第2番作品17(2台ピアノ)
休憩
・ルトスワフスキ:パガニーニの主題による変奏曲(2台ピアノ)
・シューベルト:ロンドイ長調D951(連弾)
・ラヴェル:ラ・ヴァルス(2台ピアノ)
~アンコール
・ラヴェル:マ・メール・ロワ(連弾)~第3曲「パゴダの女王レドロネット」
・ミヨー:スカラームーシュ~ブライジレイラ
・チャイコフスキー(エコノム編曲):組曲「くるみ割り人形」作品71a~こんぺい糖の踊り
・ラフマニノフ:(4手のための)6つの小品作品11~ワルツ
マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)
ネルソン・フレイレ(ピアノ)

共に南米出身の二人のピアニストは18歳の頃から友人であり、音楽的にも切磋琢磨し合った仲なのだそうだ。ほとんど夫婦のような息の合ったパフォーマンスの理由がよくわかった気がした。濱田滋郎さんは次のように書く。

アルゲリッチにせよフレイレにせよ、魂のうちに新大陸生まれの人らしい、ある根本的な「自由」への希求と信仰とを持ち合わせているということである。また同時に、「人間的であること、そしてロマンティックであること」への本能的な共感をも、人一倍豊かに具えていることである。
したがって、二人のデュオからは、技術上の周到さ—もちろん、両名手はそれも持っている—を超え、音楽的な“完全さ”をも超えて、言葉には尽くせない、ある「限りない豊かさ」がにじみ出る。「・・・これが音楽、人間のする音楽というものだ」と、私たちは理屈ぬきで、そのとき思うことができるだろう。

(濱田滋郎「アルゲリッチとフレイレ、稀代のデュオが告げる『真に人間的な音楽』」)

「自由」への希求と信仰という言葉に膝を打つ。
二人のピアニストの内にある「自由さ」は信仰に裏打ちされたものだったのか。そして、彼らが奏でる音楽の喜びには、自由と信仰があったからなんだと納得した。

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