悲劇の中の悲劇。救いようのないドラマ。複数の登場人物が錯綜し、これほどまでに複雑怪奇な(?)オペラはほかにあまり見当たらない。
「ジョコンダ」。強いて言うなら、第3幕のバレエ音楽「時の踊り」だけが突出して有名。物語の流れにはそぐわない、不思議に明朗で可憐な旋律が、聴く者に一時の安息を与える。
そして、母を亡くし、同時に失恋の痛手を味わうジョコンダの悲痛な叫び。
ジョコンダに扮するマリア・カラスの、第4幕のアリア「自殺!」の例えようのない見事さ。これほどまでの悲哀と慟哭を歌で表現し得るのはカラスならでは。
自殺!
この恐ろしいときに
おまえだけが私とともにいてくれるのね。
そして、お前だけが私の心を誘ってくれるのね。
最後の声、運命の。
最後の十字路、旅路の。
ここでのポンキエッリの音楽も重く壮絶で限りなく美しい。マリア・カラスの歌は常に見事だったが、その生き方はもっと素晴らしかった。
夕方、私はその日一日を振り返り、よいことは忘れて、悪かったことを考えます。どう改善するかを考えるのです。最善を尽くしたと思える時、私は幸せを感じ、明日はもっとよくやろうと思います。私は悲観論者で、自分にはよい仕事はできないと思っているので、必死になってよりよい仕事をしようと努めるのです。時には自分でコントロールできなくなるほどです。私は栄光を手に入れましたが、私のプライドは、もっと上を目指すようにと命じるので、終わりはないのです。
~MOOK21「マリア・カラス」(共同通信社)P59
・ポンキエッリ:歌劇「ジョコンダ」
マリア・カラス(ジョコンダ、ソプラノ)
フィオレンツァ・コッソット(ラウラ・アドルノ、メゾ・ソプラノ)
ピエル・ミランダ・フェッラーロ(エンツォ・グリマルド、テノール)
イレーネ・コンパネーズ(チエカ、アルト)
イーヴォ・ヴィンコ(アルヴィーゼ・バドエーロ、バス)
ピエロ・カプッチッリ(バルナバ、バリトン)
レオナルド・モンレアーレ(ツァーネ、バス)
ボナルド・ジャオッティ(バルナボット、バス)、ほか
ミラノ・スカラ座合唱団
アントニーノ・ヴォットー指揮ミラノ・スカラ座管弦楽団(1959.9.4-11録音)
この頃、夫であったジョヴァンニ・バッティスタ・メネギーニとの関係が突然破局を迎え、11年間にわたる結婚生活にピリオドが打たれたが、直後のこの録音でのカラスの内側に在る哀しみがそのまま刻印されるかのような絶唱に感動。人生で様々な浮沈のあった彼女ならではのまさに「負の美学」の結晶。この終幕のあまりの壮絶さに卒倒・・・。
すべての音、すべてのフレーズに意味があります。作曲家がそこに込めた特別な感情や心の表現を尊重して演奏しなくてはなりません・・・。
~同上書P63
マリア・カラスは不世出のソプラノなり。
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