僕がビートルズを真面に聴いたのは1983年のこと。当然ジョンやポールのソロ・ワークスを聴いたのもその頃。すでにジョン・レノンなく、ポール・マッカートニーも3年前の麻薬所持による強制送還で二度と日本の舞台に立てないだろうといわれていたあの頃。
ビートルズの音楽は当時クラシック音楽一辺倒だった僕の心を鷲掴みにした。ほぼ毎日繰り返し聴いた。ああいう感動はもはや今となっては味わえない。感性は随分古く萎びてしまったものだ。
僕が初めて聴いたマッカートニーのアルバムはどういうわけか”Wings Over America”という、1976年の全米ツアーを収録したライブ盤。ポピュラー音楽の場合、きちんとスタジオ盤で捉えてからライブをというのが僕の持論だが、3枚組というヴォリュームに圧倒されたこともあり、そしてビートルズの作品を久しぶりにステージで披露してそれが素晴らしいという評判もあって迷わず手に取った。
“Lady Madonna”や”The Long And Winding Road”のほか、何と”I’ve Just Seen A Face”(この曲はスタジオ録音より乗りが良く、しかも勢いがあり素晴らしい)や”Blackbird”という珍しい作品が演奏されているのだからこれだけでも大いに価値があるかと・・・。実際にビートルズ・ソングが始まった瞬間の聴衆の熱狂や歓声はすごい。一気に熱量が上がる感じ。”Yesterday”なんて泣いている女性がいるのではと思われるほど。確かにビートルズがライブを止めて10年、解散して6年が経過していたわけで(今から考えるとたったそれだけの期間のブランクなのだ)、待ちに待ったということなのかしら。
何ヶ月か前、リマスター紙ジャケ盤がリリースされた。
残念なことに、あの時に感じたほど心は動かされなかった。
Paul McCartney & Wings:Wings Over America
Personnel
Paul McCartney (vocals, bass guitar, piano, acoustic guitar)
Linda McCartney (vocals, keyboard)
Denny Laine (vocals, electric guitar, acoustic guitar, piano, bass, gob iron)
Jimmy McCulloch (vocals, electric guitar, acoustic guitar, bass)
Joe English (drums, vocals)
Tony Dorsey (trombone)
Howie Casey (saxophone)
Steve Howard (trumpet, flugelhorn)
Thaddeus Richard (saxophone, clarinet, flute)
ライブ・アルバムとしての出来は最高のレベルにあるともちろん思う。
しかし、少なくともポール・マッカートニーはこの目で確かめながら、すなわち空間を共有して聴かないことには話にならない、真髄は絶対にわからない。あらためてそのことがわかったことが大きい。
それと、昔から薄々感じていた、ポールの音楽がどうにも能天気で(失礼)、ビートルズの時に生み出した作品群に比して一段も二段も低いのではという評価が誤解に過ぎないということがわかったことも。このアメリカ・ツアーにおいて、それまでの5年間のベスト楽曲が万遍なく演奏されるが、どの音楽にも光と翳があり、高度な作曲技術も駆使されており、さらにウィングスの面々のテクニック・レベルも相当なもので、何よりポールを中心にアンサンブルが見事だということに驚きを隠せない(スタジオ・バージョンをきちんと再現している点から見ても)。
ビートルズの4人のあの奇跡と、以降の4人のソロの奇跡というのは比較してはいけないということ、否、単純にそれはできないということ。
嗚呼、どうしても11月の来日公演には行かねば。あらためてその想いを強める。
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