リヒテル&ブリテンのモーツァルトK.595を聴いて思ふ

mozart_britten_the_performerモーツァルトが晩年なぜ貧困に喘いだのか、彼の手紙類をひもとくととてもよく理解できる。そもそもは決して「嘘をつけない」性格であったこと、極めて純粋で本質を見極める目を持っており、決して妥協を許さなかったことが災いした。その意味で彼は世渡りが下手だった。

いまの人は何事についても、中庸のもの、真実なものは、けっして知りもしなければ尊重もしません。喝采を浴びるためには、辻馬車の御者でも真似して歌えるようなわかりやすいものか、さもなければ、良識ある人間には誰にも理解されないので、却ってみんなに喜ばれるような、そんなわかりにくいものを書かなくてはなりません。
1782年12月28日付、ウィーンより父レオポルト宛(「モーツァルトの手紙」P327)

それであるがゆえ、彼の創造物は小人の欲を超え、自然とひとつになることが可能な真の芸術なのである。「いまの人」と彼は言うが、そのことは今の時代だって何ら変わらない。

母ドリを見なさい。母ドリは自分が空腹でもヒヨコたちがお腹いっぱいになるまで待っている。その後で母ドリは桶のエサをつつく。それに、たくさんのメンドリの中心にいるオスをごらん。この後メスが先にエサを食べる番で、オスはその間待っている。オスは優位であってもメスを押しのけたりしない。
ペーテル・バルトーク著・村上泰裕訳「父・バルトーク」)P105

バルトークが息子ペーテルに語ったことにも通じる。鋭敏な感性を失いつつある僕たちはもっと動物や自然に学ぶべきなのだろう。
古の音楽、あるいは作曲家から学ぶことはとても多い。

ところで、ベンジャミン・ブリテンはパフォーマーとしても優れた能力を持った人だった。彼のモーツァルトを聴いて、「真実」を抉り出す力量に長けていた人であることを痛感する。ここには慈しみがあり、哀しみがある。これがモーツァルトの悲劇であり、また喜劇なのだ。

ブリテン・ザ・パフォーマー
モーツァルト:
・モテット「踊れ、喜べ、幸いなる魂よ」ヘ長調K.165(158a)
エリー・アメリング(ソプラノ)
ベンジャミン・ブリテン指揮イギリス室内管弦楽団(1969.6.22Live)
・ピアノ四重奏曲1番ト短調K.478
ケネス・シリト(ヴァイオリン)
セシル・アロノヴィッツ(ヴィオラ)
ケネス・ヒース(チェロ)
ベンジャミン・ブリテン(ピアノ)(1971.9.26Live)
・ピアノ協奏曲第27番変ロ長調K.595
スヴャトスラフ・リヒテル(ピアノ)
ベンジャミン・ブリテン指揮イギリス室内管弦楽団(1965.6.16Live)

ブリテンは、ピアニストとしても指揮者としても(もちろん作曲家としても)超一流。リヒテルを独奏に据えたK.595の何たる美しさ!!何より絶妙なテンポ。まずは第2楽章ラルゲットに耳を傾けてほしい。リヒテルのそっと静かに語りかける透明なピアノに寄り添うように奏される管弦楽の響きに思わず金縛り。ピアノが人間の哀感を表すとするなら管弦楽はそれを包み込む大自然の恩寵のよう。第3楽章アレグロの愉悦も見事。

そして、K.165においてアメリングの可憐な歌唱を巧みにサポートし、モーツァルトのいう「中庸」を体現する棒は絶品。第3楽章「ハレルヤ」の喜び!!極めつけはK.478におけるピアノ!ウィーン時代絶頂期に生み出された、おそらく当時としては難解であったであろう熱に浮かされたような暗い弦の響きにいかにも軽やかに応えるピアノの極意。それでいて主張し過ぎず、あくまで4者が渾然一体となり、モーツァルトの喜怒哀楽を奏でるのである。

 


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2 COMMENTS

畑山千恵子

モーツァルトが貧困に喘いだまま亡くなったという通説は、今日では否定されています。簡素な葬儀で済ませてほしかったこと、サリエリ、アルブレヒツベルガーといった当時の作曲家たちも葬儀に出席していたことがわかっています。暮らしぶりも派手でした。それが借金の原因だった可能性がありますね。

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岡本 浩和

>畑山千恵子様
なるほど、そうなんですね。ありがとうございます。
性格的にもワーグナーに似ていたのでしょうか。
ワーグナーにはパトロンが現れたけれど、モーツァルトにはいなかった。
そのことが晩年の悲劇につながったのですかね?ワーグナーの半分しか生きられなかったということもありましょうが。

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