ルイージのモーツァルト「イドメネオ」(R.シュトラウス版)を聴いて思ふ

mozart_strauss_idomeneo_luisiモーツァルトのオペラ・セリア「イドメネオ」は名作だと思うが、紆余曲折の成立事情含め全貌をものにするのがなかなか骨の折れる作業。何はともあれ繰り返し耳にすることだ。

作曲の最中、ヴォルフガングは父レオポルトに宛てて作品にまつわる懇願を何度も書く。

ヴァレスコ師(台本作者)に正式に答えなくてはなりません。第1幕8場で、国王がまったくひとりで船に乗っているのはふさわしくないということです。
1780年11月13日付、モーツァルトからレオポルト宛
「モーツァルトの手紙」P262

ヴァレスコ師にただひとつお願いがあります。2幕2場のイーリアのアリアを、ぼくが使えるように、少し変えてほしいのです。
「たとえ父上を失っても、あなたの中に父上を見出すでしょう」―この語句はこの上なく立派ですが、アリアの中では、ぼくには不自然に見えます。
1780年11月8日付、モーツァルトからレオポルト宛
~同上P265

ねえどうですか?地底の声の語り(第2幕合唱「海は穏やかに」)が、あまりにも長すぎると思いませんか?―その場を想像してください。―その声は度肝を抜くようなものでなくてはいけません。―心にしみ入るようなものであるべきです。
1780年11月29日付、モーツァルトからレオポルト宛
~同上P266

言葉と音楽との統合への執念というか感性というか、そして舞台として物語として不自然でないかを常に意識する審美眼。24歳にして作品に対して厳しい姿勢を見せるモーツァルトの心情が垣間見える。

1781年1月29日、ミュンヘンにて無事初演。幾度かの再演も含め聴衆には概ね好評だったらしい。それから150年を経て、今度はウィーンにて新たな版による上演が行われた。クレメンス・クラウスの助言から生まれたリヒャルト・シュトラウス編曲のバージョンである。歌詞もドイツ語に改められ、イタリア風番号オペラの態からドイツ風に生まれ変わったこの「イドメネオ」は、いわばシュトラウス風モーツァルト音楽であり、随所にモーツァルトらしくない重厚すぎる場面が散見するものの、不要なシーンはカットされ、しかもシュトラウスによる新しいフレーズも挿入され、実に興味深い作品へと変貌している。

例えば、第2幕合唱「海は穏やかに」のところ。シュトラウスはイーリアの独唱に続けて無限旋律的に音楽を再構成する。結果、モーツァルトが願うように長すぎず、そして度肝を抜くような音楽が・・・。直後に続く新たに挿入された「間奏曲」はシュトラウスの音楽そのもの!!これがまた実に素晴らしいのである。

モーツァルト:歌劇「イドメネオ」(リヒャルト・シュトラウス編曲版作品117)
ロバート・ギャンビル(イドメネオ、テノール)
ブリッタ・シュタルマイスター(イーリア、ソプラノ)
カミッラ・ニールント(イズメーネ、ソプラノ)
イリス・フェルミリオン(イダマンテ、メゾ・ソプラノ)
クリストフ・ポール(アルバーチェ、バリトン)、ほか
ドレスデン国立歌劇場合唱団
ファビオ・ルイージ指揮シュターツカペレ・ドレスデン(2006.8.25Live)

そして、第3幕フィナーレ。モーツァルトの大切だと思われる音楽を思い切ってカットし、シュトラウスならではのコンパクトで引き締まった大団円が演出される。ここでの主役はルイージだ。過日聴いた「カルミナ・ブラーナ」を髣髴とさせる勢いのある前進的解釈に拍手喝采。

 


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3 COMMENTS

畑山千恵子

リヒャルト・シュトラウスが「イドメネオ」を編曲していたとは初耳です。この初演の後、モーツァルトはヴィーンにいたザルツブルク大司教ヒエロニュムス・フォン・コロレド侯爵から、ヴィーンに来いと言う命令を受け取り、ヴィーンに向かったものの、大司教と大喧嘩の末、ザルツブルクを離れ、ヴィーンに定住することとなりました。そこには、父レオポルトから自立し、自分の道を歩まんとするモーツァルトそのものがあります。
「イドメネオ」には、ザルツブルクとの別れ、父からの自立という、モーツァルトの人生の転換点を読み取ることができます。それが「後宮からの誘拐」、「フィガロの結婚」、「ドン・ジョヴァンニ」、「コジ・ファン・トゥッテ」、「魔笛」、「皇帝ティトゥスの慈悲」へとつながっていくことになりました。

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岡本 浩和

>畑山千恵子様
シュトラウス版とは比較をして聴いてみると面白いですね。
時にシュトラウスの音楽を聴いている錯覚に陥るほど変貌しており、面白いです。

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オフマン シュライアー マティス ヴァラディ ベーム指揮シュターツカペレ・ドレスデン モーツァルト:歌劇「イドメネオ」(1977.9録音) | アレグロ・コン・ブリオ

[…] と子の葛藤の物語。モーツァルトの天才を刺激したジョヴァンニ・バッティスタ・ヴァレスコの台本は、後に(同じく葛藤を抱えていた)リヒャルト・シュトラウスの感性をも刺激した。 […]

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