聴衆の反応を見ると、ショパンやドビュッシーが白眉ということだ。ベートーヴェンと同じ誕生日であり、ドイツ系の血を持ちながら、根底にはラテンの血が流れるのかどうなのか・・・。
ドビュッシーの音楽にジャズ・ミュージックの萌芽があることは以前からわかっていたが、ドビュッシーの「理想」でもあったショパンにもその原型があるのだとこの演奏を聴いて初めて僕は感じたかも。
何という自由で開放的な音楽!!齢90近い(この当時88歳)、いわば「好々爺」が譜面を見ながらも矍鑠とした姿勢でピアノを操る様は、いかにも厳格かつ整然とした音楽を生み出さんが様に見え、実に型にはまらない創造的なもの!!
しかしながら、ショパンを聴いて思うのは、彼の類稀なる音楽が録音に入り切っていないということ。この人の真髄を見るには実演に触れる以外にない。
幸運にも、僕は先日彼のショパンを聴いた。その時、何より驚いたのはピアノの音ではなかったこと。つまり、まったく機械から発せられる音でなく、人生のすべてが詰まった「純粋音楽」以外の何者でもなかったということだ(その点、このBlu-rayの演奏は、美しいながらやはりあくまでピアノの音でしかない)。
メナヘム・プレスラー・イン・リサイタル(Blu-ray)
・ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第31番変イ長調作品110
・ショパン:マズルカ変ロ長調作品7-1、ヘ短調作品7-3&イ短調作品17-4
・ドビュッシー:版画
・シューベルト:ピアノ・ソナタ第21番変ロ長調D.960
・ショパン:ノクターン第20番嬰ハ短調(遺作)
メナヘム・プレスラー(ピアノ)(2011.3.23Live)
3年前のパリ、シテ・ドゥ・ラ・ミュジークでのライブ。
プログラムの両端に配置されたベートーヴェンとシューベルトという独墺系音楽はさすがにお手のものだけあり、きっちりと、しかも悠然とし、聴衆を沸かす。いずれも作曲者晩年の孤高の作品だが、静謐な祈りと躍動的な旋律に身も心も蕩けるほど。ベートーヴェンの終楽章フーガなど、この堅牢な構成を老練の極みで弾き切る様は見事としか言いようがなく、他の誰も敵うとは思えない。とにかく美しく、感動的なんだ。ちなみに、ベートーヴェンの最後の和音を弾き終えた後のおそらく思わず出たガッツ・ポーズの何というお茶目さ・・・(笑)。
マズルカは哀しい。僕はマズルカこそショパンの最高傑作だと考えるのだが、ショパンが生涯にわたって書き続けたこのポーランド舞曲は、やはりある程度の年齢を重ねない限り本質を言い当てるのは難しいのでは?その点、プレスラーの演奏はどれもが堂に入る。まるでこの人のために作曲された作品のよう。中でも作品17-4は最高(この前のサントリーホールでの実演には及ばぬが)。
ドビュッシーの「版画」も、まるで描かれた風景が眼前に開けるようで素晴らしい。何と煌びやかで、何と優しく、そして何と大らかなドビュッシーであることか!この演奏会におけるクライマックスがここにある!!そういえば、ボザール・トリオを主宰したのはピアニストのプレスラーであるゆえ、その意味では、キース・ジャレットなどと何らかの音楽的共通項があるのかもしれない。やっぱりドビュッシーはジャズだ。
そして、シューベルト。実に健康的な演奏。愛聴する内田光子の青白い病的なシューベルトとは異なり、あるいは、先月実演を聴いたピリスの厳しいシューベルトとも違い、柔らかで明快なのである。これもまた老境の至りが許す業なのだろうか・・・。
恐らくアンコールであったショパンのノクターン(遺作)は素晴らしい。
あらためて僕は思った。どうしてもメナヘム・プレスラーのソロ・リサイタルに触れてみたいと。年齢が年齢だけに難しいか・・・。
人気ブログランキングに参加しています。クリックのご協力よろしくお願いします。