「ヨーロッパ・コンサート・フロム・マドリッド2011」を観て思ふ

europe_concert_2011_rattle_bpo地域性、言葉でいうならどこの場所でも独自の訛りというものがある。たとえ近接地域でも土地によって言葉の使い方はもちろんのこと、イントネーションやニュアンスが微妙に異なるもの。音楽も同様。地つながりのヨーロッパ諸国もアルプスの北と南では民族性も文化も真逆。面白いものだ。

2011年のベルリン・フィル・ヨーロッパ・コンサートを観て、少しがっかりした。当然だが、技術的には抜群。しかし、シャブリエもロドリーゴも何だか洗練され過ぎていて、心に響かない。いや、シャブリエの「スペイン狂詩曲」などはまだ良い。さすがにフランスという国はラテン諸国の中でもちょっと違うから。ただし、「アランフエス協奏曲」に関してはソフィスティケートされ過ぎると途端に味を失う。僕の感覚では、カニサレスのギターのニュアンスとベルリン・フィルの演奏そのものが妙にアンバランスで、どうにも合わないのである。こんなに冷静で客観的な音楽だったのだろうかと思ってしまうほど。もっと野卑な、いやいや、人間感情の坩堝というようなそんな音楽だと僕は思っていたからなおさら・・・。

ヨーロッパ・コンサート2011フロム・マドリッド
・シャブリエ:狂詩曲「スペイン」
・ロドリーゴ:アランフエス協奏曲
・ラフマニノフ:交響曲第2番ホ短調作品27
カニサレス(ギター)
サー・サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(2011.5.1Live)

とはいえ、ラフマニノフはさすが。第3楽章アダージョに思わずひれ伏した。
ロシアという国は長らくヨーロッパ諸国にコンプレックスをもっていたのだろうか・・・、19世紀末にチャイコフスキーが音楽面でも西洋のそれと祖国のそれを見事に融合し、新たな「ロシア音楽」というものを創出した。そして、前世紀的で時代遅れだと揶揄されながらも自身の音楽を邁進したラフマニノフによって20世紀に一層そのことは進められた。ゆえにラフマニノフの音楽はもちろんロシア情緒溢れるのだが、それでもヨーロッパ古典音楽の系譜を直接に継ぎ、バランス良く、決して古びることのないものに僕には聴こえるのである。よって、ベルリン・フィルの機能性、ラトルの未来志向解釈が見事にツボにはまるのだ。

ドストエフスキーの「死の家の記録」の一節を想った。
獄舎におけるクリスマス後の恒例の「芝居」の中での出来事をアレクサンドルが巧みに描写する。幕前には必ずオーケストラによる演奏があったよう。

そら、音楽がはじまった・・・このオーケストラは一言する価値がある。横手の板寝床の上に、8人ほどの楽手たちが陣どっていた。ヴァイオリンが2人(一つは監獄にあったが、もう一つは要塞のだれかからの借りもので、ひく者は囚人の中から見つけた)、バラライカが3人―これはみな手製である。それにギターが2人、コントラバス代用の手太鼓が1人という編成である。ヴァイオリンはぎいぎいきしむだけで、ギターもろくでもなかったが、そのかわりバラライカはじつにすばらしかった。弦を爪びく指の早さはまったくあざやかな手品を見るようであった。舞踏曲ばかり演奏された。踊りが高潮するところへ来ると、楽手たちは拍手をとりながら指の節でバラライカの胴をたたいた。調子も、好みも、演奏も、楽器の扱いも、モチーフの伝え方も―すべてが独創的で、囚人特有のものであった。ギターひきの一人も自分の楽器をみごとにひきこなしていた。それは父親を殺した、あの貴族出の囚人だった。手太鼓にいたっては、ただもう奇蹟と言うほかはなかった。指一本の上でくるくるまわすかと思えば、親指で皮をこする、急調子な高い単調な音が聞こえているかと思うと、不意にその強い、歯切れのいい音が、豆でもまいたように、ふれあい、ぶつかりあう、無数の小さな音に砕ける。最後に、さらに手風琴が2つあらわれた。正直のところ、わたしはそれまで、単純な民衆の楽器がこのような音を出せるものだとは、考えたこともなかった。音の調和、合奏の妙、モチーフの本質を心でつかみ、それを伝える音楽性は、ただただ驚きであった。わたしはそのときはじめて、陽気で勇ましいロシアの舞踏曲の中で、底抜けに陽気で勇ましいものが何であるかを、完全に理解したのである。
P291-292

獄舎の中で囚人の有志が音楽を奏でるのである。しかも入舎まもない人間に相応の感動を与えるのだからロシア人の音楽性というのはたいしたものだ。何といってもアレクサンドルを感動させたのはバラライカや手太鼓、あるいは手風琴という民族楽器・大衆楽器による舞踏曲だということ。

何事も表面的な磨きをかけるだけではダメなんだ・・・。特に音楽というもの、テクニックも大事だが、一層重要なのは「心」だ。辺境とは言わないが、ヨーロッパ中心部とは違う地域の音楽には血がたぎり、命が漲る。そういう作品、または演奏をもっと発見したい。

 


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