デ・ルシア コロメール指揮カダケス・オーケストラ ロドリーゴ アランフェス協奏曲ほか(1991.4Live)

嫉妬とプライド。
それこそ余分な思考、感情の最たるものだ。
しかし、世間では、それによって名を成した者も多い。足を引っ張るまではいかなくとも、その上に君臨する天才は実に多い。本当はそんなものに固執する必要はないはずなのに。

ホアキン・ロドリーゴの傑作「アランフェス協奏曲」にまつわるエピソード。
巨匠アンドレス・セゴビアは自身に献呈されなかったからという理由で演奏を拒否したという。まして、ナルシソ・イエペスがデビュー公演でこの協奏曲をとり上げ、成功するに至ってまったく興味を失ったらしい。セゴビアの弾くアランフェス協奏曲を聴いてみたかった。

パコ・デ・ルシアを聴いた。
2014年2月25日、公演先のメキシコで客死したデ・ルシアの挑戦は、当初はあまりうまくいかなかったらしい。しかし、少なくともこのライヴ音盤については、有名な第2楽章アダージョの自由自在さに、フラメンコ・ギタリストとしての本領発揮をみる。

おもしろく思うことのひとつは第2楽章で4拍のリズムを和音によって刻んでいくさい、自分がしっかりテンポを取るというよりは、イングリッシュ・ホルンの歌に注意ぶかく合わせながら、柔軟な間の取りかたで和音を鳴らしていくパコのありかただ。これは、カンテ・フラメンコ(フラメンコの歌)において、歌い手の自由な節まわしに注意を傾け、全身を耳にしながら伴奏をつけていくフラメンコ・ギタリストの呼吸とそっくり同じなのである。
(濱田滋郎)
PHCA-4250ライナーノーツ

意図を崩すというより、あえて音楽に熱狂を付加する独特の方法なのだろうと思う。いかにもスペイン的土俗的アプローチに感銘を受ける。

・ロドリーゴ:アランフェス協奏曲(1939)(1991.4.25&26Live)
パコ・デ・ルシア(ギター)
エドモン・コロメール指揮カダケス・オーケストラ
・アルベニス:組曲「イベリア」より(1991.4.25&26Live)
 第2巻第3曲「トリアーナ」(1906)
 第3巻第1曲「エル・アルバイシン」(1906)
 第1巻第2曲「エル・プエルト」(1905)
パコ・デ・ルシア(ギター)
ホセ・マリア・パンデーラ(ギター)
ファン・マヌエル・カニサーレス(ギター)

これぞナショナリズムの顕現。
インターナショナルであるにはまず自国の文化を知るべしというのはその通りだろう。
若手を起用してトリオを組んだイサーク・アルベニスの名作「イベリア」からの3曲は、ピアノ独奏を原曲とするこの作品に、一層スペイン色豊かな色彩をもたらしている。
特に、ギター1本では演奏困難な楽曲を、3挺の楽器によって完璧に再現している様子に感服する。

僕は、自分が生きてきた世界─フラメンコの世界に、何かを残したと信じて、人生を終わりたい。僕を食べさせてくれ、僕の人生の中で一番の満足を与えてくれたこの世界に。僕がここにいた、だから何かが動いた、そう感じて欲しい。フラメンコの発展の中の一つの鎖として存在したと、覚えていて欲しい。そうすれば僕はこの世界に永遠に生き続けていけるのだから。
(パコ・デ・ルシア)
二階堂尚「【パコ・デ・ルシア】新たな領野に挑戦し続けたフラメンコの巨匠─ライブ盤で聴くモントルー Vol.44」

この際、音楽のジャンル、垣根は超えてしまおう。
どんな音楽であろうと、人の心を動かせたなら、それは真実であり、そこには真理があろう。
ジャケットに見る、作曲者の面前で演奏するデ・ルシアの真摯な表情が美しい。

過去記事(2014年5月16日)
過去記事(2014年5月11日)


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