ブリュッヘン指揮18世紀オーケストラ団員のモーツァルト「グラン・パルティータ」を聴いて思ふ

mozart_gran_partita_bruggen128引く手数多の、人気の高い絶頂の時期においてもモーツァルトの作品はどこか哀しい。
クラリネットの物憂げな表情と、低音域から高音域に至るまで網羅する万能さこそ楽器の王様。モーツァルトの時代にはまだまだ珍しかったが、天才はいち早くその機能に着眼し、自身の作品に使った。

1783年のザルツブルク滞在中、モーツァルトは、病気のミヒャエル・ハイドンのために「ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲」2曲を書いた(オイストラフ父子の演奏が最美)。

同じ頃、彼は13本の管楽器のためにセレナーデを生み出す。「グラン・パルティータ」と呼ばれるそれである。その数ヶ月前に愛する妻コンスタンツェが男児を出産。あるいはその喜びも反映されているのかも。

おめでとう、お父さんはお祖父ちゃんになりました!昨日17日の朝6時半に愛する妻は無事、大きな、肥った、まんまるい男の児を産みました。義母は自分の娘に、結婚前、あんなにひどい仕打ちをしたのを、今度はとてもよくしてすっかり埋め合わせをしてくれ、一日中つきそっていてくれました。
1783年6月18日付、モーツァルトからレーオポルト宛
高橋英郎著「モーツァルトの手紙」(小学館)P335

公私ともに飛ぶ鳥を落とす勢いのヴォルフガング。どういうわけかこの頃、管楽器のための作品を彼は多く創出する。

自分では、このクインテットは、これまで書いた最高のものだと思っています。オーボエ、クラリネット、ホルン、ファゴット、そしてピアノです。お父さんに聴いてもらえたらなあ!それに演奏がまたどんなに美しかったことか!
1784年4月10日付、モーツァルトからレーオポルト宛
~同上書P334

ここでも主役は哀しげな音色のクラリネット。

モーツァルト:セレナーデ第10番変ロ長調K.361「グラン・パルティータ」(1988.6.9-11録音)
フランス・ブリュッヘン指揮18世紀オーケストラ団員
ク・エビンヘ、アレイン・レスリー(オーボエ)
エリック・ヘプリック、ギ・ファン・ワース(クラリネット)
アルフ・ヘルベルイ、カルレス・リエラ(バセットホルン)
アブ・コスター、ステファン・ブロンク、クロード・モリー、トゥーニス・ファン・デル・ズワルト(ホルン)
ダニー・ボンド、ドンナ・アグレル(バスーン)
アンソニー・ウッドロー(コントラバス)

古楽器の魅力的な色合いの変化に比べれば、現代楽器による演奏はシンセサイザーのようなもの、というのはブリュッヘンその人の言葉であるが、その言葉通りまさに色彩の妙味に溢れる屈指の名演奏。

音は直接的でありながら極めて柔らかく、清楚。
モーツァルトが宙を舞い、笑い、泣く。空前絶後の感情吐露がここには在る。
そして聴く者は、そのことに心動かされ、感謝せざるを得ない。

 

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2 COMMENTS

畑山千恵子

ブリュツヘン逝去の報に際し、18世紀オーケストラとの最後の来日公演に行ってきてよかったと思います。また、ユリアンナ・アヴデーエヴァのリサイタルも聴けました。
最後の来日の時、ブリュッヘンが車いす姿で出てきた光景が痛々しく感じられましたね。

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