レオポルト・ウラッハ独奏モーツァルトのクラリネット協奏曲を聴いて思ふ

mozart_clarinet_wlachヴォルフガングは正直者だ。
妻コンスタンツェに対しても、晩年に借金を重ねた盟友プフベルクに対しても一切包み隠さずすべてをさらけ出した。それゆえに当時の彼の生み出す音楽は深く重い。
中でも最晩年のクラリネット協奏曲の類稀な透明さ。これほど明朗でありながらどこか暗澹たる不安と悲しみに溢れる音楽はない。陰陽を受け容れる透明さがここに在る。

なるほど人は誰しも自分の運命を信じるもの。まさか明日自分の命が終わろうとは思わない。しかしながら、そんなことは神のみぞ知ること。だからこそ人間同士のふれあいにおいて、一期一会の感覚は重要。

死のわずか数週間前に完成した彼岸の協奏曲。とはいえ、当の作曲者本人はまさかあと3週間足らずで死を迎えるとは思ってもいなかった。それでも魂は悟っているよう。この明るさの内に在る「翳」がモーツァルトという天才のすべてなんだ。

モーツァルト:
・クラリネット協奏曲イ長調K.622
・ファゴット協奏曲変ロ長調K.191(186e)
レオポルト・ウラッハ(クラリネット)
カール・エールベルガー(ファゴット)
アルトゥール・ロジンスキー指揮ウィーン国立歌劇場管弦楽団(1954録音)

当時の名クラリネット奏者アントン・シュタードラーのために書かれた協奏曲。筆舌に尽くし難い古のウィーンのクラリネットの音。ウラッハの柔らかく、それでいて深みのある音色に感謝の念を覚える。特に第2楽章アダージョは、モーツァルトの書いた音楽の中でも出色のもの。これほど愛と慈しみに満ちた旋律はない。
そして、終楽章ロンド(アレグロ)に垣間見る愉悦と諦念。何とも言えぬ音楽の完璧さに、モーツァルトが35歳にして旅立たねばならなかった理由がよくわかるというもの。

あなたの演奏ほど、クラリネットが巧みに人の声に近づくことができるとは思ったことがありませんでした。あなたの音は柔らかく繊細で、心ある者は抗うことができません。
(シュタードラー宛手紙)

いかにモーツァルトがシュタードラーの繰り出す音楽に惚れていたか。快活な第1楽章アレグロのいぶし銀の響きにモーツァルトがこの奏者に思った感激が刻まれる。その音楽のあまりの美しさに跪く。等身大のモーツァルトにあらためて感謝。

 

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