ゲルギエフ指揮ロンドン響のプロコフィエフ交響曲第7番を聴いて思ふ

prokofiev_symphony_2_3_gergievかつて僕はヨハネス・ブラームスの音楽が苦手だった。あまりに内向的に過ぎ、鬱積するエゴイズムに自分自身を投影したからなのかどうなのか、いつまでも解放されないくよくよした音調にいつも辟易し、抵抗を覚えていた。
それが、何がきっかけなのか一向に記憶にないのだが、ある日突然ブラームスに開眼した。以来、ブラームスは愛好する作曲家のひとりとなった。

セルゲイ・プロコフィエフの音楽についても同様。同時代のソヴィエト連邦を代表するもうひとりの天才、ドミトリー・ショスタコーヴィチの音楽は一般的には「ネクラ」だといわれるが、本来は実に明快で解放的、エネルギッシュな音調に溢れており、一度ツボにはまると一生の宝になるもの。プロコフィエフの作品こそ僕にはずっと暗く聴こえ、内側に沈み込んでゆく。それでもモダニズムの時代はまだ良かった。亡命から帰国後、体制に迎合するかのようにいわゆる「社会主義リアリズム」に則った音楽を書くようになってからの彼の音楽は、わかりやすくなったのは良いものの、実に内向的で時に鬱陶しさを感じさせるほどじめじめとしたものに変わっていった。

第7交響曲初演後、ショスタコーヴィチはプロコフィエフに宛て手紙を送り、大いなるエールを贈っている。

プロコフィエフの晩年の諸作品は構成がはっきりしていなかったが、いまなお生き生きとした叙情的な力を持っていて、自らの音楽に新しい方向を見いだそうとしていたショスタコーヴィチを惹きつけた。1952年10月、穏やかでもの思いに沈むような抑制された作品であるプロコフィエフの第7交響曲の初演のあと、ショスタコーヴィチは胸を打つ、ひじょうに率直なお祝いの手紙を送った。「貴兄にはあと100年生きて、作品を書いてほしいと思います。貴兄の第7交響曲のような作品を聴くと、生きることがより容易にまた喜びに満ちたものになります」。
アレックス・ロス著/柿沼敏江訳「20世紀を語る音楽」(みすず書房)P272

陽の天才が陰の天才を褒め称えるような手紙。
最晩年の、「青春」と呼ばれるこの平明な最後の交響曲ですら僕にとっては陰鬱に聴こえるのだから、真の意味でプロコフィエフを享受できるのはまだまだ先のことなのかもしれない。

プロコフィエフ:
・交響曲第6番変ホ短調作品111
・交響曲第7番嬰ハ短調作品131
・交響曲第7番第4楽章(終結部改訂版)
ワレリー・ゲルギエフ指揮ロンドン交響楽団(2004.5.5&8Live)

とはいえ、ゲルギエフの音楽作りは有機的で素晴らしい。プロコフィエフを表現する上で肝となる打楽器の意味深い炸裂に感動。そして、何より興味深いのが、初演者サモスードの忠告により20小節ほどの終結部が追加された終楽章改訂版をあわせて収めている点。
ちなみに、作曲者はなぜロンド主題を回帰させ、歓喜のうちに音楽を閉じるように改変したのだろう?

プロコフィエフの「自伝/随想集」から「ソヴィエト音楽の道」と題するエッセーをひもとく。

真剣で意味をもつ音楽を書くことに注意を向けると同時に、作曲家はそれがソヴィエト連邦の何百万もの人々に演奏され、しかもその人たちは以前にほとんど、もしくはまったく音楽に接したことのない人たちなのだ、ということを念頭に置かなければならない。これが現代のソヴィエト作曲家が近づくことができるよう努力しなければならない、新しい大多数の聴衆なのである。
わたしが思うには、必要とされるタイプの音楽はいわゆる「軽―真面目音楽」、もしくは「真面目―軽音楽」である。こういった音楽のための正しい音楽言語を見つけることは決して簡単ではない。まずメロディが旋律的でなければならず、そのメロディは繰り返しが多かったり、つまらなかったりすることなく、明確でシンプルでなければならない。
セルゲイ・プロコフィエフ著/田代薫訳「自伝/随想集」(音楽之友社)P163

自身の信条通り「真面目―軽音楽」を狙ったのかどうなのか。
それならば、どうして最初は弱奏で消え入るように終わるパターンにしたのか?
とにかくどこか迷いがあるのである。プロコフィエフの「社会主義リアリズム路線」はやっぱり無理があったのでは?

ショスタコーヴィチが聴いた初演はおそらく夢見るような弱奏で終わるオリジナル版だったのだろう。

 

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1 COMMENT

畑山千恵子

ゲルギエフは、あちこちのオーケストラの主席を兼任しているようですが、マリインスキーに腰を落ち着けた方がいいのではないかと感じています。

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