キング・クリムゾン「ディシプリン」

king_crimson_discipline.jpgDisciplineという名のバンドがKing Crimsonと名を変え、1980年代初頭に突如表舞台に現れたとき、世のプログレ・ファンは一瞬驚喜したものの、次の瞬間「果たして本当に大丈夫なのか?」という不安に駆られた。

ちょうど僕が大学に入学した頃、そのバンドの初来日公演が行われたが、かつてのへヴィーなファンももちろんその来日を子どものように喜び、楽しみにした。当時の映像はVTRやLDで残っているが、時折、ギタリストが古い楽曲を弾く瞬間も捉えられており、その一瞬だけが妙に神々しいオーラに覆われていることが逆に滑稽に映って、そうそう何度も繰り返し観ていられなかったことを思い出す。

僕の周辺でもほとんどのKing Crimsonフリークはこのバンドを「Crimsonに非ず」と否定した。当然ながら僕も、ほとんど自身の率直な、あるいは直感的な見解を横に置き、そういう風潮に完璧に同調していた(とはいえ、セカンド・アルバムもサード・アルバムもオンタイムにしっかりと聴いているのだが)。

しかしながら、実際には90年代に、かのバンドがダブル・トリオ編成で復活した時、最初のアルバムを聴いた時はもちろんのこと、中野サンプラザでの来日公演に触れ、背筋が凍りつくほどの感動を覚え、やはりこの哲学者然としたギタリストの底知れないリーダーシップに尊敬の念がこみ上げてきた。と同時に、かつて自分自身が「理解できなかった」80年代Crimsonの「音」が、実は時代を随分先取りしており、まさに10数年を経た今こそこの不世出のバンドの全てを再評価すべきなのではないかという思いが脳裏に過った。

今になって思う。久しぶりに聴いてみて一層その感が強くなる。彼らの音はまったく古くなっていない。

King Crimson:Discipline

Personnel
Adrian Belew(Guitar, lead vocal)
Robert Fripp(Guitar and devices)
Tony Levin(Stick, bass guitar, support vocal)
Bill Brufford(Batterie)

Adrian Belewのヴォーカルは、かつてのGreg LakeやJohn Wettonに比べ、能天気で軽く聴こえた。あの象が泣くようなギターも上手いとは思いながら、Crimsonの世界からは浮いているように感じた。

でも、上手いことには違いない。30年の時を経て、僕が単に歳をとっただけなのか、ようやく彼の存在の意味を認識できるようになった。前記とは少し矛盾するが、King Crimsonの真骨頂はインストゥルメンタル演奏、それも限りなく計算され尽くした即興演奏にあると思う。やっぱりThe Sheltering SkyとDisciplineの流れがかっこいい。

今夜、先日の愛知とし子コンサートの荻窪パトロン組の打ち上げに参加させていただいた。ご馳走様でした。ありがとうございます。カラオケ歌いました・・・(汗)。


5 COMMENTS

雅之

おはようございます。
80年代のKing Crimsonは、通り一遍聴いているだけで、全くの無知・不勉強です。そこでこの分野、知識ほとんどゼロからの私が、岡本さんのブログ本文をきっかけに、ネットを使い、どれだけ今の自分に興味があるテーマについての思考が深まる学習ができるかをやってみました。しつこいようですが、80年代のKing Crimsonについては聴いたことは何度かありますが、ほぼ無知のままです。
今朝、興味がある研究テーマは、「ポリリズムについて」です。
《思考の経路》
まず手始めにKing Crimsonの「Discipline」を、『ウィキペディア』で調べよっと。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%B7%E3%83%97%E3%83%AA%E3%83%B3_(%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%90%E3%83%A0)
「サウンドにアフリカの民族音楽を基調としたポリリズムや、当時流行の兆しを見せていたディスコサウンドを導入するなど、以前の同バンドとは様変わりしたスタイルは賛否両論を招いた」
なるほど、確かにそんな感じの音楽に変化していたよな・・・。
「ポリリズム」、正確な言葉の定義についても『ウィキペディア』で押さえておこっと。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9D%E3%83%AA%E3%83%AA%E3%82%BA%E3%83%A0
ポリリズムが使われた曲の例、組曲『惑星』第4曲「木星」(グスターヴ・ホルスト)などもそうなんだな・・・。
でも、アフリカの民族音楽を基調としたポリリズムか・・・。

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雅之

アフリカの民族音楽を基調とした「ポリリズム」から関連付けたくなったのは、先日話題にされた、晩年のコルトレーンについてです。
http://classic.opus-3.net/blog/cat40/post-361/
「M/D マイルス・デューイ・デイヴィスIII世研究」(菊地 成孔 ・ 大谷 能生 (著) エスクアイア マガジン ジャパン)
http://www.amazon.co.jp/M-D-%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%87%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%A4%E3%83%BB%E3%83%87%E3%82%A4%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%82%B9III%E4%B8%96%E7%A0%94%E7%A9%B6-%E8%8F%8A%E5%9C%B0-%E6%88%90%E5%AD%94/dp/487295114X/ref=sr_1_19?ie=UTF8&s=books&qid=1267300984&sr=1-19
という力作本、引越し用のダンボール箱に1週間くらい前から仕舞い込んだままだったのですが、出してきました。255~256ページを引用します(大変勉強になる超おススメ本です)。
・・・・・・読む者に無限の物語を生みだすであろう5声以上の対位法の中で、とくに筆者が抽出したい点は「インド音楽とアフリカ音楽のモーダリティの違い→モダン・ジャズというフォーム/フィギアにとって、どちらが親和性が高いか」という、ブラインドされがちな、しかし非常にシンプルな問題である。
北インド古典音楽の、とくに整数的なリズム構造は、旋律構造として名高いラーガに対し「ターラ」と言い、こちらは名称すらあまり知られていない。ターラの構造は積分的。つまり「基礎単位を最小の2と3に設定し、それの積によってあらゆる偶/奇数の整数秩序を生み出す」傾向が強く、アフリカ民族音楽のリズム構造に一貫してみられる微分的、つまり「基礎単位を最大の1と設定し、それを細分化しつつ複数の整数秩序を併存(ポリリズム)させる」ものとは対称関係にあると言って良い。(もちろん厳密に区別されるものではないが)前者は都市音楽としてのロック、とくにプログレと呼ばれる緊張系/非弾性的な変拍子音楽を生み、後者はジャズ~ファンクという弛緩系/弾性的なポリリズム音楽を生んだ。リズムの構造にもコーダリティ/モーダリティは存在するというのが筆者の説だが、これも稿を改めるとしても、こうした視点からも、晩年のコルトレーンがどれだけの倒錯/分裂を生きたかが浮き彫りになる。
コルトレーンは(主にエルビン・ジョーンズとの音楽的な共鳴というかたちで)シャンカールに傾倒する以前からすでに、高いアフリカ性を獲得しており、アフロ・アメリカン芸術としてのモダン・ジャズ、とくにモード・ジャズの完成形を見ていたのにもかかわらず、飽くなきモーダリティの追求の果ての「錯視」としてのシャンカールに傾倒「してしまった」ことで、死に至るまでの統合できなかった分裂を背負い込んだ、と言うことができる。アフリカのリズム構造に対しては、宗教を介さずに都市音楽の中で獲得する、つまりジャズとして抽象化/記号化することができたのにかかわらず、インドの旋律構造(ラーガ)に対しては具象として丸抱えで取り込もうとし、そのまま雪崩れるようにしてインドとアフリカ両者の具象の混沌に突っ込んで67年に果てる。・・・・・・
この本、ジャズとロックの歴史的な流れが、論理的にもとてもよく理解できます。

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雅之

そういえば、「ポリリズム」、Perfumeのヒット曲にもあったな。
http://www.youtube.com/watch?v=1vCcmeiFTHM
『ウィキペディア』
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9D%E3%83%AA%E3%83%AA%E3%82%BA%E3%83%A0_(Perfume%E3%81%AE%E6%9B%B2)
・・・・・・「ポリリズム」の歌唱部では音楽的ポリリズム(複合拍子)はまったく使用されていないが、間奏部ではいままでの4拍子の流れに「ポ・リ・リ・ズ・ム」という日本語発声の5つの音韻をそのまま5拍でのせて繰り返すことにより(もっとも基本的な)複合拍子をつくり楽曲名と楽曲構造が重なる部分を作り出している。さらに、ベースは3拍、高域のシンセによるシーケンスは6拍で組まれており、決して4拍子の流れに5拍の音韻を乗せただけの基本的な複合拍子ではなく複雑な構造となっている(この間奏部には少なくとも4種類の異なるリズムが重ねられている)。サンプリングベースの音楽製作ではこのような2つの異なる拍子をもつループを合わせたものを「ポリループ」と呼ぶ。ただし、このループはサンプリング的なつくりではあるがこの曲のために作られたオリジナルである。・・・・・・
いろんな「ポリリズム」、研究すると面白いですね。
とにかく岡本さんのブログをきっかけにして、「Discipline」、真剣に聴きなおしてみようと思いました。ギターのテクニック面でも、とてもチェックしたいですし。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
雅之さんの「思考の流れ」の片鱗を見せていただきありがとうございます。
僕が何も考えずに何となく書いている文章に対して、これほどまでに深く追求していただけて本当に感謝します。勉強になります。
「ポリリズム」についてはもちろんのこと「マイルス・デューイ・デイヴィスIII世研究」という本も興味深いですね。アマゾンでは高額で取引されているようですが、絶版なんですかね?これは何としても読んでみたいです。
作曲家の吉松隆氏もシベリウスとドビュッシーの流れから、20世紀音楽の歴史についてよく言及されていますが、「ジャズとロックの歴史的な流れが、論理的にもとてもよく理解」できるという点が魅力的です。ご紹介ありがとうございます。
さすがにPerfumeというユニットについては初めて知ったのですが、何だかこれも面白そうです。

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