キャリアの180度転換が、その人にもたらす効用というものはいかばかりか。それは、人生をチャレンジングに歩む上で真に大きい。たとえ今、好きなことを仕事にしていなかったとしても諦めることなかれ。幾つになってもチャレンジは可能ということ。人生に早い遅いはないのだから。
53歳で亡くなったエマニュエル・シャブリエの前半生は公務員。それが40歳近くになってから作曲家デビューを果たすのだから大したもの(もちろん若い頃から独学で作曲を勉強し、仕事の傍らも音楽という趣味に勤しんでいたわけだけれど)。
何より大切なのは好奇心、そしてそれにまつわる具体的な行動。公務員時代からフォーレやダンディと親交を持ち、マネやセザンヌら当代一流の画家とも親しかったというのだからその知的エネルギーと行動力とやらは並大抵でない。
音楽にはその人の人柄が反映される。
シャブリエの音楽は、いかにも実用的な匂いがする。さすがにサラリーマンだっただけのことはある。どんな音楽もどこか舞踏的であったり、軽いBGM的であったり、とても軽快なのである。ある意味、ここには特別な哲学などはない(良い意味で)。あくまで自身が楽しむために創造されたような作品群。真に興味深い。
シャブリエ:
・絵画的小曲集(1881)
―風景
―憂鬱
―つむじ風
―木陰で
―ムーア風舞曲
―牧歌
―村の踊り
―即興曲
―華やかなメヌエット
―スケルツォ=ヴァルス
・即興曲ハ長調(1873)
・5曲の遺作(1891)
―田舎風のロンド
―オーバード
―バラビル
―奇想曲
―アルバムの一葉
・気まぐれなブーレ(1891)
ラヴェル:
・シャブリエ風に(1913)
エマニュエル・ストロッサー(ピアノ)(2009.11録音)
そういえば、ムソルグスキーも前半生は公務員であった。土俗的魅力は圧倒的にムソルグスキーだが、洗練さという意味ではシャブリエ。しかし、ソフィスティケートされているようでどこか素朴なシャブリエの音楽はやっぱりこの人が現実的性質の持ち主であることを示す。
例えば同じ「絵画」を題材にしながら哲学的イデー的であるムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」に対し、シャブリエの「絵画的小曲集」は、一流画家との交流がもたらした超絵画的な手法が顕著であり、実にわかりやすい。ストロッサーの健康的なピアノがそれに拍車をかける。
また、32歳のときの「即興曲」の開放的な響きは、聴く者に喜びを与える。
そして、「5曲の遺作」も、遺作とは名が付くものの極めて生命力に富む音楽たちだ。
ここでもストロッサーの堅実なピアノがものを言う。
ところで、ラヴェルの「シャブリエ風に」が素晴らしい。熟練の作曲家の筆によるグノーやシャブリエを模した音楽の妙なる響き。時に優しく、時に可憐に。
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