アルメイダ指揮モスクワ響のマリピエロ交響曲第3番&第4番(1993録音)を聴いて思ふ

malipiero_3_4_almeida433人の魂はやっぱり「歌」を求めるのかもしれぬ。
それが古臭い浪漫の装いであったとしても、その内に眠る癒しや愛情や、そういう感情と同期できるなら魂は満たされるのだ。

夕暮れになると、どんな町でも美しく見えるものだ。しかし、なかには、他所と比べてとり分け美しくなる町がある。すなわち、浮彫りはよりしなやかに、円柱はいっそう円みを帯び、柱頭はもっと身をくねらせ、蛇腹はさらにしっかり屋根を支え、

尖塔はますます決然と聳えたち、壁龕はいっそう深みを帯び、使徒の服はさらに優雅に流れ、天使たちはさらに軽やかに宙に浮かぶのだ。通りはすでに闇につつまれていても、河岸はまだ日中。巨大な水の鏡には、「まるでばらまかれた古靴のような」モーターボート、水上バス、ゴンドラ、遊覧用小舟、荷船などが、水に映ったバロックやゴシックのファザードを飽きずにふみつけている。きみの姿や水に映る雲もその例外ではない。「さあ、描いてみて!」冬の光が囁く、病院のレンガ塀にせきとめられ、あるいは宇宙の長旅をすませて、やっとのことで聖ザッカーリア教会の切妻壁前のパラダイスという故郷に辿りついた時に。
ヨシフ・ブロツキー著/金関寿夫訳「ヴェネツィア―水の迷宮の夢」(集英社)P83-84

イタリアはヴェネツィアに生まれ育ったジャン・フランチェスコ・マリピエロは、それこそヨシフ・ブロツキーが描くような光と翳のコントラストの美を音楽で表現する。何よりすべてが軽やかで、僕たちの心に一条の光を照らす。
第二次世界大戦中に生み出された「鐘による」と題する交響曲第3番は、戦争で犠牲になった人々への哀悼の意を表するのか、全曲を通じ特別な想念がこもる。例えば、第2楽章アンダンテ・モルト・モデラートにおける人々をまるで催眠にかけるような恍惚感、そして第3楽章ヴィヴァーチェの金管のファンファーレ風パッセージの雄渾さは見事だが、終楽章レントに内在するバーバーの「弦楽のためのアダージョ」にも通じる深い慟哭は、聴く者の涙を誘う。

マリピエロ:交響曲集第1巻
・シンフォニア「海」(1906)
・交響曲第3番「鐘による」(1944)
・交響曲第4番「イン・メモリアム」(1946)
アントニオ・デ・アルメイダ指揮モスクワ交響楽団(1993.5&6録音)

また、セルゲイ・クーセヴィツキー夫人であるナタリーを悼んで書かれた第4番「イン・メモリアム」は、第2楽章に悲嘆の感情が恐ろしいほどに反映する葬送の歌を持つ極めつけの音楽。静かに消えゆくような終結がまた素晴らしい。
短い第3楽章アレグロ(重く低い打楽器の打撃の上に高鳴る金管群が不安との闘いを示す壮絶な音楽)を挟み、終楽章レントで作曲者は再びナタリーを思い、涙を流す。
あまりに澄んで透明な水のごとし。

時こそが神なのではないかという考えに、ぼくは常に執着していた。少なくとも神の霊とは、そのようなものではないだろうか。もしかしたらこの考えは、ぼく自身が考え出したものだったかもしれないのだ。しかし今はよく覚えていない。それはともかく、もしも神の霊が水面を動いたとしたら、水はそれを映しだしたはずだ、とぼくはいつも思っていた。そのためかぼくは水に対して、ある特別な感情を持っている。水の作り出す襞、しわ、さざなみに対して―そして、これは北国生まれのせいか―灰色に対して、ぼくはただ、水は時のイメージだと思っている。
~同上書P46-47

ブロツキーは水こそが神の印象だと。
ジャン・フランチェスコ・マリピエロの音楽は、単に表面的な美を追求したものでなく、様々な人間感情が投影され深い祈りに溢れ、深層に神が宿る。

 

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4 COMMENTS

雅之

ご紹介の曲は未聴なので、ブログ本文から、わかっていながら誘導されてしまうのは、今夜もタルコフスキーじゃないですか!

私は「ストーカー」

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が最高傑作だと信じていますが、「時」と「神」と「水」とくれば、何といっても「惑星ソラリス」

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でしょう(笑)。

一連のタルコフスキーBlu-rayは画面が美しくなっているので、どれもおすすめです(少し色彩温度がオリジナルと違うかもしれませんが)。

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岡本 浩和

>雅之様

あ、確かに!(笑)まったく無意識でした・・・。
ただし、初期タルコフスキーではなく、亡命後のタルコフスキー作品に近いように思います。
それこそ「ノスタルジア」でしょうか。

ちなみに、僕も「ストーカー」は最高傑作だと思います。
Blu-rayは全部欲しいところなのですが、今のところ手が回っておりません・・・。
僕的にはRUSCICOの5.1chバージョンDVDが気に入っていたのですが、BDは2chですよね?
画面が美しくなっているのは捨て難いですけど・・・。

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雅之

そうそう、タルコフスキーの場合、旧DVDにもそれぞれのBDと比較する楽しみがありますし、特に「サクリファイス」のBDには貴重な特典映像が無かったりで、DVDも捨てられないです。

「ノスタルジア」のBDでも、デジタル修復の方針について、少し異論はあります。

RUSCICOの5.1chバージョンはおっしゃるとおりですが、個人的には2chで充分だと思っています。

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