秋晴れにフランク

franck_gitlis_argerich.jpg前にも書いたアランの弾くフランクのオルガン曲を聴いていると、何とも不思議な気分になる。それはJ.S.バッハのオルガン曲とは違って、問答無用の宗教臭さが微塵も感じられない音楽であり、母なる大地を連想させる温かみと静けさをあわせもつ「幸福な調べ」なのである。
「過去と未来を鳥のように俯瞰しながら見渡せたら・・・」
そう、タイムマシーンに乗るような錯覚を催させるのだからこれはもう「麻薬」である。
そのフランクがその名声を確固としたものにした名曲がヴァイオリン・ソナタ。これは敬虔なカトリック信者であったフランクが世に送り出した突然変異的な傑作で、この音楽の中にもはや「フランク」という人間は存在していない。ただ妙なる音楽が鳴り響くのみ。おそらくこの音楽を感動的に表現するには相応の経験と年季が必要だろうことは楽器のできない僕にも手にとるようにわかる。
とはいえ、この音楽には数多の名盤が存在する。古くはティボーとコルトーのデュオ。そしてチョン・キョン・ファとルプーが録音したもの。さらにはマイスキー&アルゲリッチのチェロ版によるもの。ゴールウェイのフルートによる版での演奏(アルゲリッチのピアノ)というものもある。いずれの音盤で聴いてみても当然感動的だが、今日はギトリスがアルゲリッチの伴奏で演奏した別府でのライブ録音を取り出そう。

フランク:ヴァイオリン・ソナタイ長調
イヴリー・ギトリス(ヴァイオリン)
マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)

1998年、第1回別府アルゲリッチ音楽祭が催されたときのライブ録音。この年に僕はアルゲリッチを追っかけて別府まで小旅行を強行した。目当てはチョン・ミョンフンとのプロコフィエフの第3協奏曲。もうメロメロになるほど感動的な演奏だった。

そして、それから2年後。ミケランジェリを追悼し、遂にアルゲリッチの独奏リサイタルが東京で1回のみ開催されることになった。一旦ご破算になったものの、その企画は9ヶ月後(2000年11月)いよいよ我々ファンの前に現実となる。そのことについてもいつだったか書いたと思うが、ともかく言葉に言い表せない至高の体験であった(リサイタル後半にギトリスが登場して確か「クロイツェル」ソナタを演奏したと記憶するが、この演奏も素晴らしかった)。何とこの月は、11月上旬に朝比奈隆指揮NHK交響楽団によるブルックナーの「ロマンティック」、そして中旬にギュンター・ヴァント指揮北ドイツ放送響の伝説の来日公演、さらにアルゲリッチのこの公演とクラシック音楽ファンの間でいまだに語り草となっているコンサートが続く。その全てを実演で聴けているわけだから、何と幸運だったことか!

昨日とはうって変って快晴。心地よい秋晴れといっていいのかどうかはわからないが、窓を開けると冷たい空気に頭も冴え、雑用が進む。昨日のリサイタルにご来場くださった方々へのお礼メール。そして週末は久しぶりに名古屋でのセミナーなのでその準備など。

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