ブーランジェ、ヒンデミット&ドビュッシー室内楽作品集(2012.6Live)を聴いて思ふ

boulanger_hindemith_debussy477とはいえ、彼女の精神力は強く、リリの作品を、一部をデュラン社、一部をニューヨークのシャーマー社から出版することに忙しかった。最後の契約は1979年に結ばれた。彼女が心底やりたかった仕事を貫徹できたことは、大きな慰めとなった。人生の最後の最後まで、リリは彼女にとって必要不可欠な象徴的存在だったのである。1979年3月15日、衰弱が激しかったにも関わらず、彼女の記憶の中で一つになった妹と母のミサに出席するため、自分をトリニティー教会に車椅子に乗せて連れて行かせた。
ジェローム・スピケ著/大西穣訳「ナディア・ブーランジェ」(彩流社)P208

93歳になったナディア・ブーランジェの意地というか愛情というか・・・。
「私の人生は教育に費やされた」と言う彼女の信念の火は、最期まで消えることがなかったということでもあろう。
ナディアが自身の教授法について語った言葉が重い。

学生たちは個人的に面倒を見ないと、取り返しのつかない過ちを犯すことになる。しかし、一方で、彼らに、集団の雰囲気を知り、賛成や反対意見を促し、他人の考えを知らせることは、音楽的な意味合いではないにしても、人間的に必要不可欠である。
~同上書P159-160

個性を伸ばすことを重要視すると同時に、他との調和を学ぶことの大切さをこの人はわかっていたということだ。おそらくこのポリシーこそが、多くの音楽家たちを惹きつけた点なのだろうと僕は思う。

シュパヌンゲン音楽祭ライブ・シリーズ2012
・リリ・ブーランジェ:悲しみの夜に(2012.6.10Live)
・リリ・ブーランジェ:春の朝に(2012.6.10Live)
リ・ワンゼン(ヴァイオリン)
ターニャ・テツラフ(チェロ)
グニッラ・シュスマン(ピアノ)
・ドビュッシー:ヴァイオリン・ソナタト短調(2012.6.5Live)
アリーナ・イブラギモヴァ(ヴァイオリン)
ラルス・フォークト(ピアノ)
・ナディア・ブーランジェ:チェロとピアノのための3つの小品(2012.6.10Live)
・ドビュッシー:夜想曲とスケルツォ(2012.6.10Live)
グスタフ・リヴィニウス(チェロ)
アンナ・リタ・ヒタチ(ピアノ)
・ヒンデミット:弦楽三重奏曲第2番(2012.6.10Live)
クリスティアン・テツラフ(ヴァイオリン)
フォルケル・ヤコブセン(ヴィオラ)
バーソロミュー・ラフォレット(チェロ)

何より選曲の妙。
冒頭2曲のリリ・ブーランジェのトリオの美しさ。
「悲しみの夜に」のピアノによる前奏の、葬送の鐘を思わせる悲しみに金縛り。そして、チェロによる慟哭の主題提示に早くも落涙。続くヴァイオリンによって繰り返される主題の儚さ・・・。どの瞬間をとってもリリの天才が垣間見える。
また、細かい活発な動きの「春の朝に」における喜びと清らかさ。これほど生命力に満ちる音楽があろうか。

さらには、作曲家としても完全であったナディア・ブーランジェの「チェロとピアノのための3つの小品」の素晴らしさ!!明らかにフォーレの影響下にあり、それでいてリリの愉悦とも似た音楽は、ナディアの神髄。

翌年の1901年には、ガブリエル・フォーレの作曲クラスを受講することにした。フォーレはナディアを自らの庇護のもとにおいた(1903年、ナディアはまだ16歳だったが、フォーレは彼女の能力に絶大な信頼を寄せていて、自身の代理としてマドレーヌ寺院のオルガンを任せた)。彼女はフォーレの教授法から多大な影響を受けた。何年も経ってから彼女はよく述懐したものだ、「授業中、彼は一度だって自分自身の音楽については語らなかった」と。
~同上書P26

ドビュッシーのソナタも、ヒンデミットのトリオももちろん素敵。
しかし、今日はやっぱりブーランジェ姉妹の作品を推す。
ちなみに、ナディアはリリが亡くなって以来、毎年3月15日には私的な喪と公的な儀式、その両方の特別な礼拝を執り行ったという。
リリ・ブーランジェ、98回目の忌日に。

 

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2 COMMENTS

雅之

>リリ・ブーランジェ、98回目の忌日に。

そして彼女は星になったのでした・・・。その名は、 1181 Lilith 。

・・・・・・The minor planet was named by the discoverer in honor of French composer Marie-Juliette Olga Lili Boulanger (1893–1918), sister of the better-known conductor and composer Nadia Boulanger.・・・・・・From Wikipedia, the free encyclopedia

https://en.wikipedia.org/wiki/1181_Lilith

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岡本 浩和

>雅之様

>彼女は星になったのでした・・・。

嗚呼、美し過ぎます・・・。
リリの病床に寄り添うナディアとミキ・ピレの写真があるのですが、この時のリリの何とも愛らしい美しさ、まるで天使のような美しさが堪りません。
(こちらも写真をお見せできないのが残念です)

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