ベームの「コジ・ファン・トゥッテ」(1974Live)を聴いて思ふ

mozart_cosi_bohm_1974いつぞやも書いた。時空を超え、僕はショスタコーヴィチの音楽にモーツァルトを見出し、モーツァルトの音楽にショスタコーヴィチを感じる。とても不思議なこと。

少なくとも70年代前半までのカール・ベームの音楽には勢いがあり、物語の進行含め実にリアルで素晴らしい。特に最晩年のカール・ベームの音楽というのは基本的に愚鈍で、中には手放しで称賛できないものもあるのだが、わずか数年前の彼の音楽はこんなにもエネルギーに満ちていたんだと、時を置いて久しぶりに聴いて思った。「コジ・ファン・トゥッテ」については彼が60年代にEMIに録音したものが有名で、僕も繰り返しあれを聴いてきた。しかるに再録音盤をはじめて耳にした時まったく驚いた。序曲から第1幕と聴き進むにつれ、あまりに熱い音楽が繰り広げられるものだから。しかし、全曲聴き終えてわかった。なるほど、これはザルツブルク音楽祭の実況録音だったんだ(そんなことはすっかり忘れていた)。

モーツァルトとショスタコーヴィチの共通項と言えば・・・。
もちろんいずれもその時代の類を見ない天才音楽家であることは間違いないのだけれど、僕が思うに、時代や体制(父親だったり国家君主だったり)に反発したり迎合したりしながらもオリジナリティあふれる作品を生み出し続けたということではないのか。

モーツァルトは晩年に、恋人の貞節を試すという不実な主題によるオペラを書いた。当然周囲からはよく思われなかったようだし、歴史的にも長い間認められなかった。しかしながら、音楽は非常によくできており、聴けば聴くほど味わいのあるもの。当時貧困の極みにあったとは思えない、いかにもモーツァルトらしい愉悦的でありながら深遠な音楽が様々な重唱によって紡がれる。まさに「恋愛ゲーム」、つまり偽の恋愛を主題にしつつ、本物の音楽を書いてやったというモーツァルトの真意、企みが目に見えるよう。

そういえば、ショスタコーヴィチの「マクベス夫人(カテリーナ・イズマイロヴァ)」も内容が不倫あり、殺人ありと、とんでもないものだ。暗澹たるストーリーでありながら、音楽は実に滑稽で挑戦的、妙に明るい。何だかこの辺りの手法もモーツァルト的。興味深い。

モーツァルト:歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」K.588
グンドゥラ・ヤノヴィッツ(フィオルディリージ、ソプラノ)
ブリギッテ・ファスベンダー(ドラベッラ、メゾソプラノ)
ペーター・シュライヤー(フェランド、テノール)
ヘルマン・プライ(グリエルモ、バス)
レリ・グリスト(デスピーナ、ソプラノ)
ローランド・パネライ(ドン・アルフォンゾ、バリトン)
ウィーン国立歌劇場合唱団
カール・ベーム指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1974.8Live)

「コジ・ファン・トゥッテ(女はみんなこうしたもの)」というタイトルは、歌劇「フィガロの結婚」第1幕第7番のスザンナ、バジリオ、伯爵の三重唱から採られる。

伯爵「君の従妹のところで、きのう出口が閉まっていたので叩いたら、バルバリーナが開けたのだが、いつになくおどおどしているんだ。私はおかしいと思って、そこらじゅう捜し回り、机にかけてあった覆いを静かに上げてみると、あの小姓がいたんだ・・・(動作で説明し部屋着をとろうとすると、小姓を見つける)(伯爵は驚いて)ああ、何たることか!」
スザンナ(恐れをなして)「ああ、運の悪いこと!」
バジリオ(笑って)「ああ、これはまた、もっと上出来だ」
伯爵「正直なご婦人、事態はどんな具合かわかったよ」
スザンナ「これより悪いことなんてありえないわ、神様、どうなるんでしょう」
バジリオ「美しい女はみんなこうです。べつに新しいことではありませんよ」
名作オペラブックス1「フィガロの結婚」P73-75

女はみんなこうなのだと・・・(つまり心変わりしやすいということ)。さすがに18世紀のオペラには血なまぐさい事件は起こらないけれど、単なるドタバタ喜劇だとは僕には思えない。規範とか常識はいかにも人間が拵えた偽物だといわんがばかりの主題。人間というのは女も男も本来はもっと自由なものなんだと・・・。
なるほど、「カテリーナ・イズマイロヴァ」についても根底に流れるのは同様の思想なのかも(あまりに強烈だけど)。このあたりは一考の余地あり。ゆっくり考え耽ってみたいところ。

それにしても「コジ・ファン・トゥッテ」は名作だ。何より音楽の深み・・・。

 


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2 COMMENTS

畑山千恵子

これは素晴しいライヴ録音です。多くの人々に聴いてもらいたいものです。

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