ブリテン指揮コヴェント・ガーデン王立歌劇場管の「4つの海の間奏曲」(1958録音)ほかを聴いて思ふ

britten_young_persons_sea_preludes526歌劇「ピーター・グライムズ」からの「4つの海の間奏曲」は、自然の情景を見事に捉えた、ベンジャミン・ブリテンのセンス満点の傑作だ。洗練された音響のうちに激情眠る土俗性。まるでピーターの闇なる深層と同期するように、時に静かな祈りに溢れ、時に暴発する感情の如く火花散る音楽が展開される。
大自然を描く音詩の客観と、主人公の内面を抉り出す主観の錯綜するドラマ。
この先駆的響きはモデスト・ムソルグスキーのそれに近い。
国家の歴史に素材を見出し、その上で人間の未来を予知したムソルグスキーの天才。
ムソルグスキーの歌劇「ボリス・ゴドゥノフ」最後の聖愚者の言葉を思った。

流れ出よ、流れ出よ、血の涙よ
泣き叫べ、泣き叫べ、正教徒の魂よ!
まもなく敵がやって来て、闇が訪れるだろう!
暗い、何ひとつ見えない闇が!
悲しみ、ロシアの悲しみ!
泣き叫べ、泣き叫べ、ロシアの民よ、飢えに苦しむ人々よ!
アッティラ・チャンパイ&ティートマル・ホラント編/小山内邦子・園部四郎訳「名作オペラブックス24 ボリス・ゴドゥノフ」(音楽之友社)

長い歴史上、無慈悲な戦いを通じ、人間たちは人間たちを葬って来た。
ピーター・グライムズは自ら命を絶ち、自身の無実を訴えようとしたのか。
否、大自然とひとつになることで、人間の、世間の愚かさを無言で示そうとしたのではなかったか・・・。
少なくともその音楽を聴く限りにおいて物言わぬ海は(無慈悲のようで実は)慈悲深い。

ブリテン:
・青少年のための管弦楽入門~パーセルの主題による変奏曲とフーガ作品34
ベンジャミン・ブリテン指揮ロンドン交響楽団(1963録音)
・「4つの海の間奏曲」作品33aと「パッサカリア」作品33b
ベンジャミン・ブリテン指揮コヴェントガーデン王立歌劇場管弦楽団(1958録音)
ブリテン=ロッシーニ:
・ソワレ・ミュージカル
・マチネ・ミュージカル
リチャード・ボニング指揮ナショナル・フィルハーモニー管弦楽団(1981録音)

第1曲「夜明け」の、海の穏やかさを表現する中にある不気味な響き。
第2曲「日曜の朝」における冒頭ホルンの希望に満ちる和音を伴奏に細かい旋律を奏でる木管群の色彩が素晴らしい。
また、第3曲「月の光」の大らかさ、その癒し。低弦のシンコペーションが脳みそを刺激する。あまりに美しい。そして、第4曲「嵐」は、これこそピーターの内なる激情であり、ここにまた僕はボリスの聖愚者の心を垣間見る。
とはいえ、一層すごいのは「パッサカリア」!
極めつけの不安感を醸す低弦をベースに、あらゆる情景やあらゆる感情が金管の咆哮、弦のうねりを伴って見事に描かれる。

 

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2 COMMENTS

雅之

>国家の歴史に素材を見出し、その上で人間の未来を予知したムソルグスキーの天才。

マーラーの第6交響曲などもそうですが、優れた芸術家だけが持つ予知能力には本当に怖くなりますね。先日久々にタルコフスキー作品をBDで纏めて鑑賞した話を書きましたが、「サクリファイス」に出てくる枯れた松の木は、陸前高田市高田松原の「奇跡の一本松 」

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A5%87%E8%B7%A1%E3%81%AE%E4%B8%80%E6%9C%AC%E6%9D%BE

そのものだと改めて確信しました。喉の手術をした息子も原発事故汚染による影響をいやが上にも連想させます。旧ソ連時代の最高傑作「ストーカー」はチェルノブイリ原発事故の予言的作品ともいわれていますしね。

しかし、岡本様のブログも昨今はかなりの予感能力を発揮されていますね。一流芸術家の域になってこられたのでは?

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岡本 浩和

>雅之様

>優れた芸術家だけが持つ予知能力には本当に怖くなりますね。

おっしゃるとおりですね。タルコフスキーなんかは完璧に未来が見えていたのではないかと思いますね。

>一流芸術家の域になってこられたのでは?

いやいや、そんな!!(笑)
しかしながら、かれこれ3200投稿にもなると「石の上にも3年」で、かなりいい線行くのかも知れません・・・。
冗談ですが。
とはいえ、お世辞であってもお言葉ありがたく頂戴いたします。

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