An Evening with Herbie Hancock and Chick Corea “In Concert” (1978.2Live)を聴いて思ふ

hancock_corea_in_concert540宙から開かれる音楽。
そしてまた、宙によって閉じられる音楽。
マキシム・ヴェンゲーロフのバッハを聴いて、何処からか湧き出でて、そして何処かへと消え行く音楽の魔法を思った。
さらには、マキシム・ヴェンゲーロフとエレーヌ・グリモーのラヴェルを聴いて、本来音楽にジャンルなど存在せず、それらは人間が独断で拵えた枠に過ぎず、すべては祈りや信仰のためであり、あるいは自然とひとつになる舞踊のためのものであったことをあらためて思った。本当はすべて「自由」の中にあるんだと。畏まって小さくなるなかれ。
いみじくもレナード・バーンスタインは次のように語る。

多くの人はポピュラー音楽を下等だと見なしているのです。もし、ポピュラー音楽という表現で、あくまで下等な音楽が意味されているとしたら、私は絶対に同意しません。つまり交響曲はそれは交響曲であるという理由だけで良い歌より上等だということにはなりません!ハイドンやモーツァルトのメヌエットは彼らのアダージョより下等でしょうか?それらのメヌエットは田舎風のダンス以外の何物でもありませんし、それは、音楽がポピュラーな起源を持っているということを今一度証明していますよ。ですから、私は、ジャズを二流のカテゴリーに属する音楽ジャンルとして定義する人たちの考えを認めないのです。ジャズの様々な歴史的時期を見分け、新正なジャズとは何かを再認識する術をわきまえるべきです。もし私があなたに正真正銘のジャズの作曲家の名前をひとり挙げてくれと頼んだとしても、あなたはいかなる名前も確信を持って私に言えないでしょう。つまり、ジャズの違いや重要性はまさにその点にあるのです。ジャズは、即興の芸術の一形式であればこそ、真の意味での作曲家を持たないのです。そうしたわけで、ジャズは品位にかけると見なされる。けれども、モーツァルトやベートーヴェンも即興の芸術を実践したのではないでしょうか?
バーンスタイン&カスティリオーネ著/西本晃二監訳/笠羽映子訳「バーンスタイン音楽を生きる」(青土社)P86

真に当を得たり。

先日、小曽根真とチック・コリアがN響定期に招かれ、モーツァルトの協奏曲のカデンツァを即興で演奏したのだという。残念ながら僕はその日のコンサートには参戦できなかったので、どんなパフォーマンスが繰り広げられたのかは知らない。果たして尾高&N響と二人のジャズメンのテイストが一致したのかどうかは疑問だが、バーンスタインのいう古典音楽の本来の姿を垣間見ることができたであろうことを想像するに、その日その場にいた居合わせることができた聴衆を羨ましく思う。

若きチック・コリアの、盟友ハービー・ハンコックとの壮絶なるデュオ・ライブ。
音楽が弾け、魂が飛翔する。
「今ここに生きている」とはこういうことを言うのだ。

An Evening with Herbie Hancock and Chick Corea:In Concert (1978.2Live)

Personnel
Herbie Hancock (acoustic piano)
Chick Corea (acoustic piano)

ハービーとチックの、それこそ丁々発止の、時に激闘、その後調和。
水を打ったように静まり返る会場に鳴り響く2台のピアノによる、即興を織り交ぜた強烈な音楽が聴衆をその字の如く釘付けにする。
17分超の“Button Up”後半の、ピアノを打楽器的に叩き、弦を弾く(おそらくチックの)演奏と、そこにメロディアスな旋律をかぶせる(ハービーの)妙なるマジックに心動く。
また、ハービー・ハンコック作”February Moment”の静寂美。そして、たった今目の前に生まれたかのような錯覚を起こす新鮮さ。

ここで熊本マリさんの言葉を引用しよう。

大切なのは「気持ちよくなりたい」という純粋な欲。
音楽に酔う。音楽を味わう。
それは素直なアプローチから始まるものなのだ。
私はつねづね、音の持つ魅力自体にも思いを馳せる。
耳でしか聴こえない、心でしか感じられない、まったく形なきもの。
目にはとらえられない“なにか”が、これほど多くの人々の心を感動させる力を持っているとは、なんと不思議なことだろう!
ときに人の心を癒し、ときに人の心を奮い立たせる。
哀しみに寄りそってくれたり、喜びを共に祝ってくれる。
熊本マリ著「人生を幸福にしてくれるピアノの話」(講談社)P143-144

そう、大切なことは「気持ちよくなりたい」という純粋な欲なのである。

 

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