まぁいいじゃないか・・・ヴィヴァルディ

vivaldi_imusici_armonico.jpgつい先日も書いたが、世の中、精神的に参っている人が多い。ほとんど表沙汰にならないだけで、大企業のどこでも「病」で休職状態におかれている職員は相当数に及ぶという。真面目な人に限ってそうなってしまいがち。ひとりで抱え込んでしまうのでなく、時には気を抜いて「適当に」やる習慣をもたないとだめ。「まぁ、いいじゃないか」という鷹揚な態度が必要。

「心が疲れた人はヴァネツィアに行くのがいい。それが叶わぬのなら、この本をゆっくり読むのがいい。毎晩少しずつ服用して、心が倦怠の波に揺れるのに任せる。数日後には、疲れが心地よいものに思えてくるだろう。」という池澤夏樹氏による推薦文入りの帯。
10年以上前に書店で見かけ、気になって購入していたもの。
『ヴェネツィア~水の迷宮の夢』(ヨシフ・ブロツキー著、金関寿夫訳)

なるほど、イタリアか・・・。モーツァルトもメンデルスゾーンも、そしてブラームスやワーグナーも避寒のために訪れた国。気が滅入るようなときには、おおらかで開放的な場所に身を置くだけで随分緩和される。中でも特に、晩年のリヒャルト・ワーグナーが愛したヴェネツィアは幻想的な印象の中に不思議な魅力をたたえた都。残念ながらかつて一度も足を踏み入れていない僕にとってのこの都は、ルキノ・ヴィスコンティ監督の「ヴェニスに死す」(あるいは、モーリス・ベジャールのドキュメンタリー映画「Le temps d’un ballet」の舞台となった鮮烈な印象が生きるのみ。

17年前に、どこへ行くという当てもなく、ただ広場から広場を水に浸りながらぼくは歩いていた。僕の緑色のゴムのブーツが、なぜか小さなピンクめいた色の、建物の入口でぴたりと止まった。壁には小さなプレートがかかっていて、そこには「早産で生まれたアントニオ・ヴィヴァルディ この教会で洗礼を受ける」とあった。その頃、ぼくはまだかなり赤毛だったから、偶然とはいえ、あの「赤毛の聖職者」が洗礼を受けた教会にぶつかったということで、少しセンチな気分になっていた。ヴィヴァルディは、それまでいろいろな機会に、この荒涼とした世の中のいろんな所で、言いようのない喜びをぼくに与えてくれていたからだ。

ヴィヴァルディの音楽はいつの時代も、そして誰に対しても区別することなく「愛」を与えてくれる。そして、いかにも「まぁいいじゃないか」と声を掛けてくれそうな「気楽さ」がとても良い。
毎年アニバーサリー・イヤーの作曲家は多いが(2008年は、プッチーニ(生誕150年)、メシアン(生誕100年)、リムスキー=コルサコフ(没後100年)、サラサーテ(没後100年)、ドビュッシー(没後90年)などが目ぼしいところ)、今年はヴィヴァルディの生誕330年でもあったらしい。ヴィヴァルディといえば「四季」というのが王道(もちろん名曲に違いない)だが、あえて今日は「調和の霊感」作品3を取り出す。

ヴィヴァルディ:12のヴァイオリン協奏曲集「調和の霊感」作品3
イ・ムジチ合奏団
ソリスト
ピーナ・カルミレッリ、アンナ・マリア・コトーニ、パスクァーレ・ペレグリーノ、クラウディオ・ブッカレッラ(ヴァイオリン)
フランチェスコ・ストラーノ(チェロ)

バロック期の作曲家は誰も多作だが、ヴィヴァルディの旺盛な創作力には舌を巻く。ただし、どの楽曲を聴いても同じような印象を受けるのは否めない。しかし、時に心の琴線に触れる美しい音楽が現れ、そのときばかりは金縛りにあったかのごとく微動だにできないほどの感動に襲われる。

3 COMMENTS

雅之

こんばんは。
私はご承知のように古楽が苦手分野なのですが、このブログにコメントさせていただいているうちに、何故そうなのか理由がわかりました。人生や人柄などの知識がない作曲家の曲については、まるで愛着が湧かないのです。ただ純粋に音楽が優れていればよいという気持ちには、どうしてもなれません。ほとんどの場合、たとえバロック音楽であっても、作曲家の人生とオーバーラップさせながら聴いてしまいます。その点で、ヴィヴァルディ、テレマン、ヘンデルなどについては、作曲家のいろんな面白い逸話を知っていることもあり、作品も大好きです(本当はバロックは、バッハ以外ではテレマンが一番好き、彼の人生は実に面白いです)。
※ここから先、ブログ本文からコメント内容が全く逸れまして恐縮です。
雑誌「レコ芸」の「レコード・アカデミー賞」の受賞結果については、毎年反発し続けているのですが、今年度の受賞ディスクは、私が購入し、とても高く評価していたものが珍しく多く(70%以上!)、驚きました。こんな経験は私の何十年もの盤歴で初めてです。なかでも「大賞」にブーレーズ他のバルトークの協奏曲集が選ばれたこと、特にその中にティボール・シェルイによる補筆完成版の「ヴィオラ協奏曲 遺作」の超名演奏(バシュメトのソロ)が入っていることが単純にうれしいです。これは、メジャー・レーベルのCDでは、非常に地味ではありますが、本当に今年一番のおすすめです。

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おかちゃん

>雅之様
こんばんは。
>人生や人柄などの知識がない作曲家の曲については、まるで愛着が湧かないのです。
あぁ、わかります、わかります。その作曲家のバックグラウンドが手に取るようにわかればわかるほど愛着が湧きますよね。なるほどです。しかし、テレマンが一番好きだというのはいけてますねぇ。通です。
>なかでも「大賞」にブーレーズ他のバルトークの協奏曲集が選ばれたこと、特にその中にティボール・シェルイによる補筆完成版の「ヴィオラ協奏曲 遺作」の超名演奏(バシュメトのソロ)が入っていることが単純にうれしいです。
そうそう、これが大賞ですよね。実はまだ聴いていないんです。
早々買って聴かなきゃ・・・。

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