優しい旋律。
光たなびき、風薫るあまりに美しい音楽。ここには生きる喜びがある。
トスカーナでは、素材中心主義であることと、食べる人の都合や好みがなにより優先される。極端に言えば「塩味もスパイスも、あなたの好みで好きなようにおつけください、なにも味をつけないでこしらえておきました、素材はとびきりの鮮度を誇る、どれも採れたてですから、なにもかけずにそのままでもおいしいですが、お好みで塩でもハーブでもどうぞ。お代わりも自由ですからね、さ、熱いうちに召しあがれ!」といったところが、ルールと言えばルールか。
~宮本美智子・文/永沢まこと・絵「イタリア・トスカーナの優雅な食卓」(草思社)P165
イタリアはトスカーナ州ルッカに生を得たルイジ・ボッケリーニの作品も、さしずめそういったところか。例えば、生涯に百数十曲を書いたといわれる弦楽五重奏曲は、どこをどうひもといても素敵だ。同時代の空気を分かちあったハイドンにも、あるいはモーツァルトにもない透明感と虚ろな哀感。
梅雨時の曇天も湿気も吹き飛ばす明朗で快活な音楽は、それこそ「とびきりの鮮度を誇る」。
何より心が落ち着く。
変ホ長調作品13-1(G.277)の第1楽章マエストーソの弾ける快活な音楽。また、第2楽章ラルゲット・コン・エスプレッシオーネの涙が出るほどの静かな温かさ。
そして、第3楽章メヌエットは踊り、終楽章プレストは焦らず急くことなく歌いに歌う。文句なしに全編美しさの極み。
ボッケリーニ:弦楽五重奏曲作品13
・第1番変ホ長調G.277
・第2番ハ長調G.278
・第3番ヘ長調G.279
・第4番ニ短調G.280
・第5番イ長調G.281
・第6番ホ長調G.282
ラ・マニフィカ・コムニタ
エンリコ・カサッツァ(ヴァイオリン)
イザベラ・ロンゴ(ヴァイオリン)
ダニエル・フォルメンテッリ(ヴィオラ)
ルイジ・プクセドゥ(チェロ)
レオナルド・サペーレ(チェロ)(2005.12録音)
あるいは、ニ短調作品13-4(G.280)第1楽章アレグロの憂愁。そして、第2楽章アンダンテ・ソステヌートの可憐な主題に涙こぼれる。
ちなみに、第3楽章は、バッハの緊密なそれ、モーツァルトの天才的なそれにも負けじ劣らじ、素晴らしいフーガ。
イタリアではリンゴがおいしい、というと首をかしげる人がいるかもしれないが、ほんとうにおいしいのだ(トスカーナのリンゴと言うべきなのかもしれないが)。イギリスやアメリカにもある、色が黄緑で実が固くしまっているグラニー・スミスも悪くないが、このあたりの農家が自分の家で栽培している小粒のリンゴがいちばんおいしい。色は緑色に少し赤みがさし、ゴルフボールをひとまわり大きくした程度の小粒だ。かじると酸味が口中に広がり、水分が多く、パリンとした歯触りがなんともいえない。
~同上書P140
トスカーナの小粒のリンゴの瑞々しさとほどよい酸味は、まるでボッケリーニの音楽を表すよう。トスカーナのそのリンゴを食べてみたい。
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私もボッケリーニの作品は格別好きです。弦楽五重奏曲は特に優れていると感じています。またおじゃまします。
>リベルテ様
コメントをありがとうございます。
おっしゃるように弦楽五重奏曲は格別ですね。
今後ともよろしくお願いいたします。