カラヤン指揮ウィーン国立歌劇場管のワーグナー「パルジファル」(1961.4.1Live)を聴いて思ふ

wagner_parsifal_karajan_vpo_1961656カラヤンの実演は実に主観的で感情移入が激しい。
冷静沈着な素振りを見せながら、音楽は絶えず動き、咆える。
「パルジファル」第2幕の序奏など歴然。この動的な響きは、「パルジファル」が神聖でありながら人間の主宰する祝典劇であることを如実に表す。
ヴァルター・ベリー扮するクリングゾルの確信に溢れる深き情熱。

そうか、そうだな。罪滅ぼしというわけだ。
奴らをえらい目に会わせたのは、お前だからな。
だが、連中は助けにならぬぞ。
どいつもこいつも誘惑には弱い
それなりの餌で、どうにでもなる。
どんな堅物といえども
お前の腕に抱かれたが最後
槍の穂先にかかるのさ。
日本ワーグナー協会監修/三宅幸夫・池上純一編訳「パルジファル」(白水社)P49

人間というもの目先の利には弱い。
それに応えるクンドリも同調する。

あの人も、弱かった。だれもかも、みんな弱かった。
私にかけられた呪いに
私もろとも搦め取られてしまう。
ああ、永遠の眠りこそ
唯一の救い!
~同上書P51

死が決して終わりでないことが暗示される。
クンドリはまさに汚れのない聖愚者の登場を待ちわびる。
人間の強さというのは純粋さ、素直さにあることをクンドリは知っていた。
カラヤンの棒がうなる。これほどまでに凛として、そしてこれほどまでに明確に主張する演奏はなかなかない。これこそ一世一代、一期一会の「パルジファル」。

・ワーグナー:舞台神聖祝典劇「パルジファル」
エーべルハルト・ヴェヒター(アムフォルタス、バリトン)
トゥゴミル・フランク(ティトゥレル、バス)
ハンス・ホッター(グルネマンツ、バス)
フリッツ・ウール(パルシファル、テノール)
ヴァルター・ベリー(クリングゾル、バス)
エリーザべト・ヘンゲン(クンドリ、ソプラノ、第1幕、第2幕第1場、第3幕)
クリスタ・ルートヴィヒ(クンドリ、ソプラノ、第2幕第2場)
グンドゥラ・ヤノヴィッツ(花の乙女たち、ソプラノ)
ヒルデ・ギューデン(花の乙女たち、ソプラノ)
アンネリーゼ・ローテンベルガー(花の乙女たち、ソプラノ)
ゲルダ・シャイラー(花の乙女たち、ソプラノ)
マルガレータ・ショーステッド(花の乙女たち、ソプラノ)
ヒルデ・レッセル=マイダン(天上の声、メゾソプラノ)、ほか
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ウィーン国立歌劇場管弦楽団&合唱団(1961.4.1Live)

物語が動く第2幕こそカラヤンの真骨頂。
管弦楽に多少の瑕があろうともそれぞれの歌手の熱唱が最晩年のワーグナーの静謐でありながら劇的な音楽を見事に支え、聴く者に圧倒的感銘を与えてくれる。
ことに、クンドリがパルジファルを目覚めに導くシーンが美しい。

罪の告白は
悔いを残すだけ
ひとたび目覚めれば
愚かさも知に転じる。
さあ、愛を知るのよ
ガムレットを抱きしめた愛を。
ヘルツェライデの燃え立つ思いが勇者を焼き尽くし
情熱の奔流に侵した、あのときの愛を。
~同上書P69

第2場、ルートヴィヒの絶唱はあまりにすごい。
壮絶なティンパニの音。無機的な響きに陥りがちなカラヤンといえど、ここでの轟音は聴く者の肺腑を抉る。カラヤンも実演の人だったのだと思う。

 

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