ラインスドルフ指揮ボストン響のワーグナー「ローエングリン」(1965.8録音)を聴いて思ふ

wagner_lohengrin_leinsdorf658実に盲点であった。ただただ感動した。純粋に心に響いた。
「ローエングリン」にこれほどの名演奏があったとは驚き。そして、今頃になって耳にしたことの迂闊さ。世界にはまだまだ知らない、未体験のことばかり。
とても50年以上前の録音とは思えぬ立体的生々しさ。それぞれの歌手が全力を尽くしてワーグナーの音楽に身を捧げている点、そして何よりラインスドルフの、一音たりとも無駄にせず、「ローエングリン」という作品を有機的に表現しようとする熱意、そしてそれに応えようと懸命に音楽を作り出すボストン交響楽団の力量に感嘆せざるを得ない。
ことに物語の鍵を握る第2幕が素晴らしい。中でも第5場の、息をもつかせぬ迫真に震えが止まらない。

ウィリアム・ドーリー演ずるフリードリヒ・フォン・テルラムント伯爵は問いただす。

名前と素性と名誉とを、
天下のまえで、私はこの男に、声たからかにたずねてやります。
野そだちの白鳥に曳かれて
上陸してきたこやつは誰か?
そんな魔物の鳥をつかう者が、
純潔とは、まったく狂気の沙汰。
アッティラ・チャンバイ、ティートマル・ホラント編「名作オペラブックス31 ローエングリン」(音楽之友社)P105

純潔というものに対する何という偏見。
対してシャーンドル・コーニャ扮するローエングリンはかくのごとく応酬する。

名誉を、これほども忘れはてたそなたに対しては、
いまさら、答弁する必要もない。
邪悪な者の疑念は、まっぴらだ。
疑念などで、純潔さが失われてなるものか。
~同上書P107

ただし、真に純潔者は自ら純潔とは謳わぬもの。そういうところがまたローエングリンの弱点でもあろう。
ここで、ルシーネ・アマーラ演ずるエルザ・フォン・ブラバントは気が気でない。

あのひとが隠していることが、大勢の人々がいるここで、
あの人の口から洩れたなら、あのひとの身に、危険がもたらされよう。
いま、それがうちあけられるように頼んだりして、もし私があのひとを裏切ったなら、
あのひとに救われた私としては、なんという恩知らずのことになるだろう。
~同上書P107

このあたりの心理を描写する音楽の細やかさ、あるいは幕の最後に至るアンサンブルの見事さ、音楽の崇高さはワーグナーの真骨頂。

・ワーグナー:歌劇「ローエングリン」
シャーンドル・コーニャ(ローエングリン、テノール)
ルシーネ・アマーラ(エルザ・フォン・ブラバント、ソプラノ)
ウィリアム・ドーリー(フリードリヒ・フォン・テルラムント伯爵、バリトン)
リタ・ゴール(オルトルート、メゾソプラノ)
ジェローム・ハインズ(ドイツ王ハインリヒ・デア・フォーグラー、バス)
カルヴィン・マーシュ(王の伝令、バリトン)、ほか
ボストン・コーラス・プロ・ムジカ
エーリヒ・ラインスドルフ指揮ボストン交響楽団(1965.8.23-28録音)

第1幕前奏曲から釘付け。これぞ音楽の魔法なり。こんなにも恍惚とした、聴く者の魂にまで届く音楽はそうはない。
このロマンティック・オペラに魅了され、または翻弄された人々多々。バイエルン王ルートヴィヒⅡ世然り、ドイツ第三帝国総統アドルフ・ヒトラー然り、いずれも少年期にこのオペラに触れ、衝撃を受けたのである。

それにしても、ナチスに悪用されたとはいえ、第3幕第3場のドイツの国威の発揚の音楽の目覚ましい勢いはラインスドルフならでは!ここを聴いて鼓舞されないものなどいまい。
ジェローム・ハインズ演ずるドイツ王ハインリヒは勇猛に歌う。

いまこそドイツの敵は、寄らば寄れ、
われらは勇敢に迎え討とうではないか。
荒涼たるあの東部からも、
もはや再び敵の侵入は許すまい。
ドイツの国土のため、ドイツの剣をとれ、
そうして国威の発揚につとめよ。
~同上書P125

この堂々たる威容、そして地に足のついた自信。
自らを信じることが大切だ。

 

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