シャイー指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管のヴァレーズ作品全集(1992-98録音)を聴いて思ふ

varese_chailly_rco659エドガーの夢を見た。
それは途轍もなく恐ろしい夢だった。
とはいえ、夢は現実でもあり、もともと自分の中にあった想念がヴィジョンとなって現れただけ。内なる憎悪を形にすることは、その裏側にある愛というものを一層強調する。

ポーの「黒猫」からの一節。

そして決定的な取り返しのつかない破滅がやってきた。
理性や倫理に対する反発だ。
これは説明のしようがない。しかし自信を持っていうが、これこそ人間の根元的な衝動のひとつ―不可分で根源的な機能、あるいは感情のひとつで、人間というものの本性を形作っているものなのだ。われわれはしてはいけないと知っているからこそ、つい悪いことや愚かなことをしてしまう。
エドガー・アラン・ポー作/金原瑞人訳「ポー怪奇幻想集2―黒の恐怖」(原書房)P73

悪魔のささやきに耳を貸すことは狂気の沙汰だが、しかしそういうものは誰しもの中に本来あるものなのかもしれぬ。禁止されればされるほど天邪鬼がうずく。
そんな恐怖を見事に音化したのが、もうひとりのエドガーではあるまいか。
ポーの怪奇小説に似合う、まるで特撮映画のための音楽のような風趣。
僕はこれまで随分誤解していたのだと思う。エドガー・ヴァレーズの作品は、その後の(ポピュラー音楽も含めた)音楽イディオムの源泉のひとつに違いない。もちろん単なる前衛ではない。ベートーヴェンやストラヴィンスキーや、過去の巨匠たちの方法を吸収し、独自に表現開花した傑作たち。どの音楽のどの瞬間もワーグナー張りの音楽的色気に溢れ、聴きながら我を忘れるほど。

ヴァレーズ:作品全集
・チューニング・アップ(チョウ・ウェンチェン復元・校訂版)(1998.5録音)
・アメリカ(自筆譜に基づくチョウ・ウェンチェン校訂オリジナル版)(1996.12録音)
・ポエム・エレクトロニク
・アルカナ(1992.4録音)
・ノクターナル(チョウ・ウェンチェン補筆校訂版)(1996.12録音)
・暗く深い眠り(アントニー・ボーモン編曲管弦楽版)(1998.5録音)
・暗く深い眠り(オリジナル版)(1998.5録音)
・オフランド(1996.4録音)
・ハイパープリズム(リチャード・サクス改訂版)(1997.5録音)
・オクタンドル(チョウ・ウェンチェン改訂・校訂版)(1997.5録音)
・アンテグラル(チョウ・ウェンチェン改訂・校訂版)(1996.4録音)
・エクアトリアル(手稿譜に基づくチョウ・ウェンチェン校訂版)(1997.5録音)
・イオニザシオン(1997.5録音)
・密度21.5(1997.6録音)
・砂漠(1997.5録音)
・バージスの踊り(チョウ・ウェンチェン校訂版)(1998.5録音)
サラ・レナード(ソプラノ)
ミレイユ・ドランシュ(ソプラノ)
ケヴィン・ディーズ(バス)
フランソワ・ケルドンキュフ(ピアノ)
ジャック・ズーン(フルート)
プラハ・フィルハーモニー合唱団
ASKOアンサンブル
リッカルド・シャイー指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

カオスの中の跳躍と咆哮。「チューニング・アップ」のエネルギーの凄まじさ。また、25分近くに及ぶ名作「アメリカ」に聴こえるストラヴィンスキーの木魂。そして、電子音楽の先駆たる「ポエム・エレクトロニク」のパルスの衝撃。存在のすべてを音で表現しようと試みたエドガー・ヴァレーズの奇蹟。
中でも、「暗く深い眠り」におけるドランシュの歌の暗い美しさ!!
さらには、「密度21.5」でのズーンの尺八の響きにも似たフルートの音色は深く、哀しみを湛える。

またひとりのエドガーを思った。

僕がこの地球にやってくる目的は、魂が成長して「創造の力である神」の随伴者になるためである。
(エドガー・ケイシー1641-1)

ポーにも、そしてヴァレーズにも共鳴する言葉。
いずれにも共通するのは拡大した未来視野。あるいはまた、予知の能力。3人は愛の化身だ。
名曲「アンテグラル」がうなる。シャイー&コンセルトヘボウ管は本当に良い仕事をする。

 

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