グールド&ゴルシュマンのベートーヴェン協奏曲第1番ほか(1958録音)を聴いて思ふ

beethoven_1_bach_5_gould_golschmann730ウラディーミル・ゴルシュマンの音は、レナード・バーンスタインの音に比して、グレン・グールドのピアノに寄り添い、柔らかいように僕には聴こえる。何事にも相性はあるようだ。
そして、コンサート・ドロップ以前のグールドの音楽は概ね優しい。
聴衆をいまだ拒絶しないピアニストは、あくまで愛好者に喜んでいただくために音楽を創造、再生しようと努力したのだろう。何より自身の作曲したカデンツァを採用し、しかもそれが彼の愛するバッハのフーガ風の様式と20世紀的前衛の折衷様式なのだから、いかにも出血大サービス(?)。

彼のレコードをきいている時、私は、ある時は必死になって、その音をおいかけ、できる限りの力でもって、「この」音楽について、また「音楽」について、考えようとする。私は、そのために音におぼれず、音に酔わず、自分をできる限り透徹した意識で目ざめた状態においたまま、考えようとする。ところが、そういう努力をしているその時間こそ、音楽が終わってふりかえってみると、私は一番深く音に酔い、音に没頭し、音楽に憑かれていたのである。グレン・グールドの演奏は、そういう性質をもっている。彼は私たちをたえず目覚ましつづけることによって、私たちを音楽で酔わす。それを、しかも、彼は、バッハだけでするのでなくて、驚くべきことには、ブラームスの小品でもやる力をもっている。
吉田秀和「グールド讃」
文芸別冊「グレン・グールド―バッハ没後250年記念」(河出書房新社)P73

グールドが録音したブラームスの「間奏曲集」は吉田さんの評を取り出すまでもなく確かに素晴らしい。しかし、ブラームスに限らずベートーヴェンにだって彼は驚嘆に価する力を秘める。そのことは、独奏曲はもちろんのこと、協奏曲においてもそうなのだ。

・ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番ハ長調作品15(1958.4.29, 30 &7.1録音)
・J.S.バッハ:ピアノ協奏曲第5番ヘ短調BWV1056(1958.5.1録音)
グレン・グールド(ピアノ)
ウラディーミル・ゴルシュマン指揮コロンビア交響楽団

ハ長調協奏曲第1楽章アレグロ・コン・ブリオの理想的テンポ。呼吸は乱れず、深く、ゴルシュマンは慈しみを込めてグールドのピアノを包む。また、グールドも強烈な自己主張をなるべく控え、ベートーヴェンの音楽にひたすら奉仕する。
特筆すべきは第2楽章ラルゴ。音楽は静謐で、その上愛情いっぱい。こんなに優雅で晴朗なベートーヴェンが他にあるものか?
ちなみに、バッハのヘ短調協奏曲は実に厳格でありながらどこか哀しく短い音楽。第1楽章アレグロは歌い、第2楽章ラルゴはぽつりぽつりと独り言のようにピアノが囁く。続く終楽章プレストは喜びの爆発。ここでのグールドのバッハへの思い入れは並大抵でない。

かつて吉田秀和さんを驚嘆させたグレン・グールドの音楽はその死から35年を経ても色褪せない。何という普遍性。

 

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4 COMMENTS

雅之

音盤ではグールドの名伴奏指揮者で有名なウラディーミル・ゴルシュマン

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%83%A9%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%9F%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%B4%E3%83%AB%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%9E%E3%83%B3

ですが、彼自身、知る人ぞ知る大変な名指揮者だったことが窺がえる録音をいくつか残していて、過去にはそういったLPを愛聴していた時期がありました。

ドヴォルザーク 「新世界より」 ウラディミール・ゴルシュマン & ウィーン国立歌劇 Orc. 

http://straight-records.jp/?pid=104254872

(指摘している人をまだ知りませんが)じつは彼が生まれた1893年12月16日 こそ、交響曲 「新世界より」の記念すべき初演日(ニューヨーク カーネギー・ホール)なのですが、彼は果たしてそのことを知っていたのか、あるいは知っていて意識しながら充実した音楽家人生を過ごしていたのか、気になるところです。

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岡本 浩和

>雅之様

>じつは彼が生まれた1893年12月16日 こそ、交響曲 「新世界より」の記念すべき初演日

そうだったんですね!知りませんでした。
しかも、ゴルシュマンが残したLPなどは聴いたことがございませんでした。
それにしてもこの「新世界より」は興味深いですね。(番号が5番になってますし)
まさかCD化されてないですよね・・・。
さすがは雅之さん、貴重な情報をありがとうございます。

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