The Beatles “Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band” (1967)を聴いて思ふ

beatles_sgt_peppers731すべてには表があり、裏がある。何事にも利点があり、欠点があるのだ。
どんなときも、どんなことにも感謝しよう。ただし、依存してはならない。

1960年代は、ただ黙って、かれらの音楽の渦のなかにあれば、十分だった。ビートルズは、ある距りから語られるべきものではない。
「『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』を聴く―今更ビートルズについて」
「武満徹著作集3」(新潮社)P103

ビートルズは同時代に生きてこそだと武満徹は訴える。彼らがいなくなった未来に彼らを語るのはナンセンスだと。20世紀を代表する現代音楽作曲家が1986年に発表したビートルズに関するこのエッセイは頗る面白い。

「サージェント・ペパーズ―」のアルバムが発表された時、私はニューヨークにいた。それまでも、「プリーズ・プリーズ・ミー」や「リボルバー」を聴いて、その並ならぬ才能に賛嘆の念を抱いていた。だが、1967年のアルバム「サージェント・ペパーズ―」には、格別の驚きと感動をもった。それは私の個人的体験と結びついて、いっそう強固なものになった。
~同上書P103-104

おそらく彼が「ノヴェンバー・ステップス」初演の準備のために彼の地にいた頃だろう。
新進の作曲家が驚きと感動をもって迎えた稀代のアルバムの奇蹟。
続いて武満はその「その個人的体験」を次のように語る。

1967年秋、私はニューヨーク・フィルが演奏する新作の総譜(スコア)を手に、アメリカへ渡った。マンハッタンに降りて、最初に耳にしたのが、「サージェント・ペパーズ―」だった。初演を前に、私は、どうしようもない不安と緊張に悩まされた。それで、暇さえあれば、小澤征爾が需めた、「サージェント・ペパーズ―」のアルバムを聴いていた。驚いたことに、そこには、聴く度に何かしら新しい発見があった。消費を目的にしている大衆音楽にあって、こんなことはまれだ。私は勇気づけられた。
~同上書P104

グレン・グールド同様、1965年を最後に聴衆の前にしての舞台に立たなくなったビートルズはメディアの申し子だ。スタジオでの作業に集中したからこそ可能になった彼らの音楽の革新と普遍。僕たちはまずそのことに感謝せねばならない。

ところで、同じ頃、一世を風靡したマーシャル・マクルーハンの「人間拡張の原理」には、ウィリアム・ブレイクの詩を引用しての次の言葉がある。

     知覚する器官が変化すれば
   知覚の対象も変化しよう
   知覚する器官が閉じれば
   その対象も閉じるだろう

技術の形態の中に、われわれ自身のなんらかの拡張を視ること、使用すること、認識することは、不可避的にそれを抱擁することをも意味する。ラジオを聞いたり、印刷物を読むことは、そうしたわれわれの拡張を、われわれ個人の体系の中に受け入れることであり、それに自動的につづく知覚の「閉鎖」や排除を体験することである。
マーシャル・マクルーハン著/後藤和彦・高儀進訳「人間拡張の原理」(竹内書店新社)P61-62

「道具に恋をする人―麻酔にかかったナルシサス」という章にあるこの言葉は決してポジティブな意味で語られたものではない。この著作から50余年を経た現代、確かに僕たちはあらゆるメディアを手放せなくなっており、また、それを失ったときにある閉鎖や排除をまさに経験している。なるほど、ビートルズがいなくなった今や、武満徹の言うとおり、「聴く度に新しい発見をもたらす」という同時代の熱いエネルギーを追体験することはもはや不可能だ。

間違いなくメディアの発明があり、それにひもづく人間の感覚の拡張があったからこそ、「サージェント・ペパーズ―」が登場した。今もって僕たちがその感動を享受できるというのもメディアあってのこと。何よりすべてに感謝しよう。

The Beatles:Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band (1967)

Personnel
John Lennon (lead, harmony and background vocals; rhythm, acoustic and lead guitars; Hammond organ and final piano E chord; harmonica, tape loops, sound effects, and comb and tissue paper; handclaps, tambourine and maracas)
Paul McCartney (lead, harmony and background vocals; bass and lead guitars; electric and acoustic pianos, Lowrey and Hammond organs; handclaps; vocalisations, tape loops, sound effects, and comb and tissue paper)
George Harrison (lead, harmony and background vocals; lead, rhythm and acoustic guitars; sitar; tamboura; harmonica and kazoo; handclaps and maracas)
Ringo Starr (lead vocals, drums, congas, tambourine, maracas, handclaps and tubular bells; harmonica; final piano E chord)

電気メディアによってわれわれは、自分の身体を、拡張した神経組織の中に入れて、一つの原動力をつくり上げる。その原動力によって、手、足、歯、体温調節器官の単なる拡張であった従来の技術(都市も含めてみんな身体の拡張であった)は、すべて情報組織に移しかえられることになるだろう。
~同上書P75

情報組織に移しかえられた音楽はこれまでもたくさんの人々を救ってきただろう。しかし、悲しいかな、今や「音の缶詰」の時代は終わりを告げ、あらゆるものが「情報」に移しかえられた時代に突入した。マクルーハンの予言はある意味正しかった。ただし、たとえそれでもビートルズの音楽は永遠不滅(だと僕は思う)。
武満徹や小澤征爾を唸らせた「サージェント・ペパーズ―」は間違いなく音楽史の奇蹟。そして、以降のポピュラー音楽の在り方を変えた、またこれからも影響を与え続けるだろう傑作だ。

 

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3 COMMENTS

雅之

>どんなときも、どんなことにも感謝しよう。ただし、依存してはならない。

岡本様を第三者から見ると、れっきとした「音楽依存症」だと思いますよ(笑)。

>「サージェント・ペパーズ―」は間違いなく音楽史の奇蹟。

同感です!!

返信する
岡本 浩和

>雅之様

>第三者から見ると、れっきとした「音楽依存症」だと思いますよ

確かに!でも、音楽には良いんです。(笑)

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