heart beat-知識拓史写真展

verdi_requiem_matacic.jpg「ひとというものは、ひとのために、何かしてあげるために生まれてきたのス」
宮澤賢治の母堂イチさんが常々息子に語って聞かせたという言葉である。横田庄一郎著「チェロと宮沢賢治~ゴーシュ余聞」を斜め読みしていて、この不世出の文学者が、そういう母親から生まれ、育てられたという事実を知り、わずか37歳で天に召されながらも彼によって創作された傑作群のもつ「内面から滲み出る温かさ」の所以がひとつ理解できたようで、うれしくなった。

北海道大雪山系トムラウシ山の遭難事故。当日の様子が明るみに出るにつれ、明らかにそれが人為的なミスによる事故だったことがわかる。生存者の証言では、ガイドの判断が場当たり的だったということで、きちんと適確なタイミングで救援を要請したり、ツアーの中止を決定していればこれだけの大事故には至らなかったのではないかと推測できるだけに残念である。
人は窮地に追い込まれたとき、ついつい「自己防衛」に走ってしまいがちだ。「まぁ、大丈夫だろう」という甘い推測もさることながら、ひょっとすると「身の保身(業務の都合とか自身の評価とか)」第一で、冷静にその時の状況を判断しきれなかったのかもしれない。決められた業務の遂行がたとえできなくなったとしても、すぐさま手を挙げて、人に助けを素直に請えるという姿勢、日々「ひとのために、何かしてあげる」という余裕こそが大切なんだとあらためて考えさせられる。

ところで、宮沢賢治お気に入りのクラシック音楽はベートーヴェンであり、中でも第6番「田園」交響曲だったという。実際に彼が愛聴していたというハンス・プフィッツナー指揮の音盤は未聴なのでコメントしかねるが、最近になってこの「田園」という音楽の偉大さがますます身に染みてわかるようになった。人智を超えた宇宙や自然への感謝の念。人間が決して忘れてはならない大切な「情感」が見事に描写されたこの音楽の持つパワーは計り知れない。ちなみに、先日ブログでも紹介した山田一雄&札幌交響楽団の全集から「田園」交響曲をようやく聴いてみたが、その時、雅之さんからコメントいただいたように確かにもうひとつ「詰めが甘い」印象を残す。実演で聴いていたらもっと感じ方は違ったのだろうが、「うーん」と腕を組んで考え込まざるを得ない瞬間が多々ある。僕の直感では、ヤマカズ先生は「我」が強く(もちろん良い意味でも悪い意味でもだが)、脂ぎったねちねちした性格だったのだろうと考えるのだが、どうも「作為的な」なあまりに(悪い意味で)人間臭い印象が拭えないのだ。氏がもう少し長生きしていたら、ある時期からそういう「我欲(のようなもの)」が抜け切り、時に、朝比奈御大やヴァント先生のような「神懸り的」な演奏を披露してくれたんじゃなかろうかと思えて今更だが残念でならない。

090720_chishiki.jpg吉祥寺にぶらりと出掛けた後、恵比寿に移動し、いつも「早わかりクラシック音楽講座」にご参加いただいている知識君が写真展を開催するというのでその初日にお邪魔した。題して「heart beat」。彼は普段は普通のサラリーマンだが、毎月のようにイベントを開催する活動家で、この人は一体何をやってるんだろうと思わせるほどの「軸」がぶれないしっかり者(頑固という意味じゃないよ・・・)。今回は、昨年9月に訪れたというクロアチアで撮影してきた写真たちが見事に額装され、バーの入口から壁面、そしてトイレにも丁寧に並べられており、その美しい写真の数々はどれもセンス満点で、とても素人の作品とは思えないほど。まぁ、アマチュアでこういう写真展まで開いてしまうくらいだから厳密にはズブの素人じゃないのだろうけど。
美味しいビールとガレット(食べ放題です!美味しかった。)をいただきながら2時間も楽しく歓談させていただいた。感謝です。写真展は8月2日(日)まで開催ということなので、お時間作ってぶらりと立ち寄られるといいと思います。詳細はこちら

クロアチアの写真に刺激を受け、今夜はまたヴェルディの「レクイエム」を。

ヴェルディ:レクイエム
マーガレット・プライス(ソプラノ)
リュージャ・ポスピス=バルダーニ(メゾソプラノ)
ニコライ・ゲッダ(テノール)
ルイジ・ローニ(バリトン)
ロヴロ・フォン・マタチッチ指揮ザグレブ・フィルハーモニー管弦楽団ほか(1979.7.13Live)

珍しいマタチッチのヴェルディ。ちょうど30年前の第30回ドブロヴニク夏の音楽祭における実況録音。10年近く前に買ったままほとんど聴かず、棚の奥に眠っていたもの。演奏はもちろん、豪放磊落、マタチッチ節炸裂・・・・最高です。


4 COMMENTS

chishiki

本日はお越しいただきありがとうございました。
おかげさまでいい時間にできました。
お知らせもありがとうございます。
ちょこっとリンク&引用させていただきます。

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雅之

おはようございます。
>宮澤賢治の母堂イチさんが常々息子に語って聞かせたという言葉
まさにお母さんも「雨ニモマケズ」の精神ですね。
http://www.mm-labo.com/culture/WiseSaying/a/amenimomakezu.html
先日の話題、政治評論家 森田 実氏の「日本社会のなかに公共精神の急激な衰退が起きている。社会全体の利益をはかろうという公共精神が、あたかも悪いことのように扱われている」という言葉を、もう一度思い出します。
http://classic.opus-3.net/blog/cat29/post-175/#comments
もし現代の日本に宮澤賢治青年や松下幸之助青年が生きていたら、「ウザイ」とか「ダサイ」とか「キモイ」とか言われ、爪弾きにされて世に出ることが出来ないかも知れません。日本人の真の美徳とは何か、民族の誇りとは何かをということを絶えず考え、肝に銘じて生きていきたいです。
>「田園」という音楽の偉大さがますます身に染みてわかるようになった。人智を超えた宇宙や自然への感謝の念。人間が決して忘れてはならない大切な「情感」が見事に描写されたこの音楽の持つパワーは計り知れない。
同感です。演奏する側は、指揮者もオケも、九つの交響曲で「田園」が最も難しいというのは常識になっていますし(技術的な問題とは別次元!)、私がアマオケで演奏に参加した経験でもそう思いました。指揮者にとっては実力の試金石にされる曲のひとつだと思います。
なおヤマカズ先生は、お人柄や、指揮法のメソッドに縛られなかったという意味では好感を持っていましたし、何回かに一回ツボにハマった時には、超爆演もあったようですね(笑)。残念ながら何回か私が聴いた時は、そういう演奏ではありませんでした。もっといろいろ聴いてみたかったです。
マタチッチのヴェルディの「レクイエム」は未聴です。朝比奈先生もこの曲の録音を残されていますよね。最近はリヒターのCDも話題になりました。すべて未聴ですが、みんな気になりますが(笑)。

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岡本 浩和

>chishiki君
おはよう。こちらこそありがとう。
もっと大勢のワイワイがやがやしたパーティだと思っていたので、逆にとてもよかったです。たっぷりみなさんと会話など楽しませていただきました。
それに、ほんとにいい写真ばっかりで。
リンク&引用もどうぞどうぞ。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
そう、「雨ニモマケズ」です。まさにあの親にしてこの子ありですね。
>日本人の真の美徳とは何か、民族の誇りとは何かをということを絶えず考え、肝に銘じて生きていきたいです。
同感です。
>お人柄や、指揮法のメソッドに縛られなかったという意味では好感を持っていましたし、何回かに一回ツボにハマった時には、超爆演もあったようですね(笑)。
そうそう、人柄はとても素晴らしかったらしいですね。一度お会いしてみたかったです。ツボにはまった時の超爆演!!それはぜひ聴いてみたかったです。
ちなみに「ヴェルレク」、朝比奈先生のも持っておりますが、これも名演奏だと思います(しばらく聴いておりませんが)。リヒターのは未聴ですが、面白そうですね。

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