アラン・ギルバート指揮都響第829回定期演奏会Bシリーズ

同時代の作品に「いまここ」で触れることのできる幸せ。
ジャンルを問わない様々なイディオムが炸裂する。
ジョン・アダムズの「シェヘラザード.2」は、それぞれの楽章に標題こそ付されているものの、それらはあくまで作曲家の心象風景に過ぎず、むしろ絶対的な交響曲として、しかもヴァイオリンとツィンバロンの二重奏を伴う交響曲として対峙した方が、一層その音楽の面白みというか素晴らしさが享受できるのではないかと僕は思った。

さすがに2014年の初演から何十回と独奏を担うリーラ・ジョセフォウィッツのヴァイオリンは、音楽の最中を縦横無尽に飛翔し、時に感慨深く、時に怒号を発する如く音色を使い分け、アダムズの創造した美しくも悲しい物語を見事に歌い切っていた。
それと、この作品の鍵になるのはやっぱり(指揮者の真正面、オーケストラのど真ん中に位置する)ツィンバロンだろう。あの、何ともオリエンタルな響きに心動かされ、第2楽章「はるかなる欲望(愛の場面)」では、レッド・ツェッペリンの語法が木霊した。なるほど、確かにジョン・アダムズの方法は、ミニマルなどの現代音楽的なものに限らず、ロック音楽やジャズ音楽のそれが嬉しくなるほどに取り込まれており、それゆえか、音楽は第1楽章「若く聡明な女性の物語―狂信者たちに追われて」から終楽章「脱出、飛翔、聖域」まで驚くほど聴き易く、また一方で、手に汗握るほどの熱狂があった(例えば、ショスタコーヴィチを髣髴とさせる打楽器の轟音や魑魅魍魎たる金管群の阿鼻叫喚は聴衆の肺腑を抉り、思わぬ金縛りに遭遇する)。

それは前半のラヴェルの時にも明らかだったが、何より東京都交響楽団の木管群の技量の素晴らしさ。不安定なところが一切なく、どの瞬間も有機的で美しく、弦楽器との絶妙なアンサンブルは狂おしいほど色香に溢れていた。もちろんそれは、正確なバトン・テクニック、創造の細部から全体に及ぶ見通しの良さを生み出す音楽性など、指揮するアラン・ギルバートの才覚が大きい。

東京都交響楽団第829回定期演奏会Bシリーズ
2017年4月18日(火)19:00開演
東京オペラシティコンサートホール
リーラ・ジョセフォウィッツ(ヴァイオリン)
生頼まゆみ(ツィンバロン)
四方恭子(コンサートマスター)
アラン・ギルバート指揮東京都交響楽団
・ラヴェル:バレエ音楽「マ・メール・ロワ」
休憩
・ジョン・アダムズ:シェヘラザード.2―ヴァイオリンと管弦楽のための劇的交響曲(2014)(日本初演)〈ジョン・アダムズ70歳記念〉

そして、「マ・メール・ロワ」のめくるめく管弦楽の色彩に僕はやっぱり興奮した。
特に、第5場「パゴダの女王レドロネット」から終曲「妖精の園」にかけての、愛くるしさと躍動感と、喜びの表情と温かさと、言葉の限りを尽くしても表現し得ない幸福感が聴く者を襲うシーンは、何とも絶品だった。
ちなみに、僕の一番のお気に入りは鷹栖美恵子さんのオーボエ!!
とにかくあれほど存在感のあるソロはなかなか聴けるものではない。

音楽の持つ力の凄さをあらためて痛感させられた一夜。
マザー・グースは極めてカラフルに歌われ、アラビアン・ナイトは実に勇猛に、そして切なく奏でられた。
現れては消え、消えては現れる泡の如しの音楽の儚さに僕はいつも惹かれる。

 

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4 COMMENTS

雅之

現在の都響は、紛れもなく世界で超一流といってよいオケになっていますよね。

・・・・・・注文に応えるのは一流の仕事。ベストを尽くすのは二流の仕事。我々のような三流は明るく楽しくお仕事をすればいいの。

志のある三流は 四流だからね。・・・・・・ドラマ「カルテット」から、音楽プロデューサー朝木の台詞より

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%AB%E3%83%86%E3%83%83%E3%83%88_(2017%E5%B9%B4%E3%81%AE%E3%83%86%E3%83%AC%E3%83%93%E3%83%89%E3%83%A9%E3%83%9E)

返信する
岡本 浩和

>雅之様

>現在の都響は、紛れもなく世界で超一流といってよいオケになっています

同感です。
昨日の演奏も驚くべき水準で、ラヴェルの美しさなんかは堪りませんでした。
それにしても雅之さんはドラマもきちんと観られているんですね。
音楽に費やしていた時間を削ってそちらに回しておられるということですかね・・・。

返信する
雅之

>それにしても雅之さんはドラマもきちんと観られているんですね。

いえ、手持ちのカードはそんなに多くありません。

ケミストリーを合わさずとも相互作用は可能かもと、試みているだけです(笑)。

ストレンジャー・ザン・パラダイス

https://www.amazon.co.jp/%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%B6%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%91%E3%83%A9%E3%83%80%E3%82%A4%E3%82%B9-Blu-ray-%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%AA%E3%83%BC/dp/B00J2GGYRQ/ref=sr_1_1?s=dvd&ie=UTF8&qid=1492607487&sr=1-1&keywords=%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%BC+%E3%82%B6%E3%83%B3+%E3%83%91%E3%83%A9%E3%83%80%E3%82%A4%E3%82%B9

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岡本 浩和

>雅之様

>ケミストリーを合わさずとも相互作用は可能かもと、試みているだけ

なるほど!そういうことですね・・・(笑)
とはいえ、まるでドラえもんの4次元ポケットのような引き出しです。
お陰で大変勉強させていただいております。

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