一通のメール

peter_gabriel_so.jpgバルザックはいう。

しかしただ一つのことを知っておきたまえ、そしてしっかりとあなたの柔軟な心にきざみつけておきたまえ、人間が孤独にたいする恐怖をもっているということを。すべての孤独のなかでも、精神的孤独がもっとも恐ろしいものだ。神とともに住む最初の隠者は、精霊たちの世界にびっしりととりかこまれて生活していた。癩病患者であれ、囚人であれ、罪人であれ、病人であれ、最初にうかぶ考えは、かれの運命に同伴してくれるものがほしいということである。この生命そのもののような衝動を生かすために、人間は全力を尽くす。生活のすべてのエネルギーをついやす。(バルザック「幻滅-メディア戦記」より)

自由になりたいと望みながら、いざその「自由」を手に入れると、無性に寂しくなる。何かに縛られているときは不平不満を抱えて文句ばかり言っていたのに、である。人はほどよい「縛り」があってこそ本当の力を発揮できるものなのかもしれない。

以前セミナーを受講いただいたA君からのメール。

「あれから色々と自分を見つめてみて、思い至ったことは、自分をまったく愛していなかったんだと言うこと。愛するどころか、拷問に似た強い暴力を自分で自分に毎日振るっていたということ。結局は、愛を受け取るということ。そして、愛を自由に与えること。どんな状態であっても、悲しみの状態ですらも、全てを愛するということ。ただそれだけなんだと思いました。自分が愛を自由に与え、自由に受け取ると決めたとき、全てが解決すると思いました。それを思うと、自分が光に包まれている感じがしています。ミクロな視点で言えば、仕事やライフワーク、パートナーなど、形に見える変化は一切ないですが、それは些細なこと。そこに一喜一憂するから、苦しいんだと思いました。大きな視点で見れば、全てが100%良い方向に行くと思います。だから今は、自分を完全に信頼しています。周りの目ばかり気にして、背伸びばかりしていた半年前の自分とは、まるで別人みたいですね(笑)」

等身大の自分を知り、それを認め、そして受け容れることの大切さを実感する。久しぶりにpeter gabrielを聴こう。1986年発表のアルバム。Kate Bushとのデュエット曲”Don’t Give Up”は当時の僕に大いなる勇気を与えてくれた。

In this proud land we grew up strong
We were wanted all along
I was taught to fight, taught to win
I never thought I could fail

誇り高きこの地に僕たちは強く育てられ
最初からずっと求められていた
闘って勝つよう教わってきた僕が
負けるなどとは思ってもいなかった

No fight left or so it seems
I am a man whose dreams have all deserted
I’ve changed my face, I’ve changed my name
But no one wants you when you lose

もう闘わなくていいのだと
僕は夢を失った
顔を変え、名前を変えたとしても
負け犬には誰も見向きもしない

Don’t give up
‘cos you have friends
Don’t give up
You’re not beaten yet
Don’t give up
I know you can make it good

諦めないで
友達がいるじゃない
諦めないで
まだ負けと決まったわけじゃないのよ
諦めないで
きっと乗り越えられるはずだから

僕は”So”以前のgabrielが好きだった。このアルバムが世界的に売れ、猫も杓子もgabrielを信奉するようになって少しがっかりした。しかし四半世紀の歳月を経て聴く音楽は生命力を全く失っていない。やっぱり名盤であることに違いはない。

Peter Gabriel:So

※まもなく、gabrielの久しぶりの新作が発売される。楽しみだ。


5 COMMENTS

雅之

こんばんは。
“Don’t Give Up” 生きる勇気を与えてくれる、いい歌ですね! Kate Bushも懐かしい!
Peter Gabrielといえば、2006年トリノ冬季オリンピックの開会式で、世界平和を祈念してJohn Lennonの”imagine”を歌ったのが、最近では印象に残っています。
http://www.youtube.com/watch?v=rqs138sXaNI
久しぶりの新作は「カヴァー集」のようですが、”imagine”も入れて欲しかったです。
皆さんの言葉、
>形に見える変化は一切ないですが、それは些細なこと。
>等身大の自分を知り、それを認め、そして受け容れることの大切さ
>まだ負けと決まったわけじゃないのよ
>諦めないで
>きっと乗り越えられるはずだから
「平凡は妙手に勝る」
「助からないと思っても助かっている」 
         将棋十五世名人 大山康晴の言葉より

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。
トリノ・オリンピックでのgabrielのパフォーマンスは見損ねてしまったんですが、今はYou Tubeがあり重宝しております。
>新作は「カヴァー集」のようですが、”imagine”も入れて欲しかったです。
確かにそうですね!
ところで、大山康晴氏の言葉、奥深いですねぇ!!

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