メンデルスゾーンの「讃歌」

mendelssohn_2_abbado.jpg神奈川のとある大学に出講。3年生と修士1年生を対象に、履歴書やエントリーシートの書き方について講義した。夏休みのインターンシップや就職活動本番に向けて、既に3年生が動き出しているということだが、どう見ても学生たちの意志というより、大学のキャリアセンター(いわゆる就職課)がお尻を叩いているようで、職員や先生の方がどちらかというと必死になっておられる。少子化による入学者の激減という状況もさることながら、昨今の不況による影響で大卒求人倍率が1.28倍、09年度の就職内定率が8割という中、いかに卒業生の就職内定率を上げ、アピールするか皆さん頭を痛めておられるということだ。(一部の有名大学を除いて)大学が生き残っていいくに大変な時代である。

講義を進めるにあたり、一方通行の授業ではどうにもならないゆえ、必ずワークを入れる。例題を出題し、学生にチェックさせ、それを何人かに発表してもらったが、意外にポイントはしっかり突いており、理解はしているんだということがわかる。事前のインフォメーションではレベルが低いと聞かされていたが、思ったほどではない。あとは学生一人一人が学んだことを肝に銘じて自己鍛錬するかどうかが鍵だが、おそらくそういうことが今の学生にできないことなのだろう。帰りがけ、キャリアセンターの担当職員が「ゆとり世代」云々と嘆かれていたが、「ゆとり教育」というものはやっぱり何がしかの問題を含んでいたのだろうか(僕は「ゆとり世代」の教育というものが実際のところどういうものか、一般的に語られている事実くらいしか知らない。この世代の子どもを持った親御さんに彼らが受けた教育についてどうだったかいろいろと聞いてみたい)。

それにしても天候の不順は相変わらずだ。快晴かと思ったら翌日は大雨で気温も一気に下がる。先日も話題にしたが、これでは体調を崩してしまう人が多いのもよくわかる。いずれにせよ人間、健康が第一。ともかく自己管理を徹底して、風邪などひかないよう注意しよう。

ところで、メンデルスゾーンの交響曲と言うと、第3番「スコットランド」と第4番「イタリア」が圧倒的に有名だ(高校生の時FM放送で初めてイタリア交響曲を聴いた時は、一遍に虜になった。その時の音源はハイティンク指揮ロンドン・フィルによるものだったが、今でもこの録音は僕にとって宝物になっている)が、演奏機会が少なく一般的にはあまり知られていない第2番「讃歌」は、まさに「大いなるもの」を讃える名曲で、第1部冒頭の金管による旋律からぐいぐいと引き込まれる魅力を持つ。すべての存在を包み込むような大らかさ、そして開放感・・・。

メンデルスゾーン:交響曲第2番変ロ長調作品52「讃歌」
エリザベート・コネル(ソプラノ)
カリタ・マッティラ(ソプラノ)
ハンス・ペーター・ブロッホヴィッツ(テノール)
クラウディオ・アバド指揮ロンドン交響楽団&合唱団

盟友ロベルト・シューマンがやっとのことでクララとの結婚を認められ、名実ともに二人が夫婦になった記念すべき年、1840年にこの音楽は生み出されている。シューマンが「詩人の恋」や「女の愛と生涯」など一連の名作歌曲を続けざまに作曲した幸福の絶頂期に、同じく妻セシルとの幸せな結婚生活を送っていたメンデルスゾーンも一方で充実した仕事三昧の日々を送っていた。そんな「幸福感」が全身で感じられる見事な音楽だと思う。第2部の歌詞は旧約聖書からとられているようだが、所有の音盤が輸入盤で日本語訳がないのが痛い・・・。まぁ、英語訳からでも何とか理解はできるからいいのだけど、微妙なニュアンスが・・・。

アバドのメンデルスゾーンはどれも素晴らしい。


3 COMMENTS

雅之

おはようございます。
2年前の岡本さんの講座を契機に、それまで軽んじてきたメンデルスゾーンの楽曲の奥深さに気付くことができました。ありがとうございました。
この2番「賛歌」につきましても、ご紹介のアバド盤を含め、何種類かのCDを所有しておりましたが、歌詞を気にしながらじっくりと聴くことは、それまではありませんでした。「賛歌」は、5番「宗教改革」よりも前に作曲されているのですが、そうしたことも「講座」の前までは知りませんでした。
メンデルスゾーンは再評価されるべき作曲家ですし、実際近年は相当研究も進んでいるようですね。例えば3番「スコットランド」(実際には彼最後の交響曲)は、改訂や緻密な校正を含め作曲に14年もかかっていて、これは完成までの長い年月で有名なブラームスの交響曲第1番の作曲年数とほぼ同じなんですよね。意外でした。この曲の作曲過程についても、最近は詳細が明らかになりつつありますよね。
なお、先日も話題にしました、《無言歌》第5巻作品62-3〈葬送行進曲〉や〈結婚行進曲〉とマーラーの交響曲第5番第1楽章との関連(結婚は人生の墓場というアイロニーか?・・・何か暗号が隠されているような気がしてならないです)や、「賛歌」や「宗教改革」「エリヤ」などの、マーラーの交響曲第2番や第8番などへの影響等、ユダヤ人つながりの二人の関係についての研究課題は、まだ数多く残されているのだと思っています。
>第2部の歌詞は旧約聖書からとられているようだが、所有の音盤が輸入盤で日本語訳がないのが痛い・・・。まぁ、英語訳からでも何とか理解はできるからいいのだけど、微妙なニュアンスが・・・。
その件につきましては、東京シティ・フィルの専属合唱団「東京シティ・フィル・コーア」のサイト内の逐語訳・対訳(RTF文書ファイル)を、とても重宝して使っています。
http://www.geocities.jp/tcpo_chor/shiryou.htm
東京シティ・フィルの常任指揮者 飯守泰次郎さんは、メンデルスゾーンに造詣が深いですよね。
また古いところでは、第10番の対訳が欠けているのが残念ですが、湘フィルによる次のようなサイトもあります。
http://www.onyx.dti.ne.jp/~e-okura/tuusin/tuushin0401.htm
ご紹介のアバド盤、高水準ですよね。アバドのことは、いつまでも「朝シャンをする新人類のようなベートーヴェン演奏」などと、低レベルな、好き嫌いだけの感想もけっこうですが、もう少しまともに評価してあげるべきだと思います。
本当は、アバド、プレヴィン、ベーム、ヨッフム、チェリビダッケ、ショルティなど、其々まったく違う個性の錚々たる顔ぶれの指揮者たちと、各指揮者の音色に染まりきり(驚異的なカメレオン・オケ)、伝説的名演や、名盤を数多く残した、1970年代~1980年代中頃までのロンドン交響楽団についても書きたいのですが、長くなりましたのでまた後日に・・・。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
雅之さんの素晴らしいところは、知的好奇心の高さもさることながら、実際に具体的に行動を起こされるところだと思います。2年前の講座を契機にさぞかし奥深く学ばれたことと推測します。ぜひ知識や情報の共有をお願いします。m(__)m
>《無言歌》第5巻作品62-3〈葬送行進曲〉や〈結婚行進曲〉とマーラーの交響曲第5番第1楽章との関連(結婚は人生の墓場というアイロニーか?・・・何か暗号が隠されているような気がしてならないです)
そう、先日ご指摘いただいた《無言歌》とマーラー5番の類似については、確かに暗号が隠されているようですね。おっしゃるとおり、「結婚は人生の墓場というアイロニー」というのもあながち間違っていないかもです(ちょっと深読みかもしれませんが・・・)。
>ユダヤ人つながりの二人の関係についての研究課題は、まだ数多く残されているのだと思っています。
同感です。そういう観点で研究していくのは興味深いですね。音楽における「ユダヤ性」というテーマは奥深いと思います。
ところで、対訳サイトの紹介もありがとうございます。とても参考になります。
アバドについては僕も同じ考えです。彼の演奏はメンデルスゾーンに限らず一般的な評価よりもだいぶ高水準にあると思っています。
ところで、「伝説的名演や、名盤を数多く残した、1970年代~1980年代中頃までのロンドン交響楽団について」・・・。
これは意外に盲点でした。さすがはヴィオリスト雅之さん!
オケの観点からみると当時のロンドン響というのは確かに興味深いですね!またの機会にいろいろ教えてください!(近いうちにあえてロンドン響の録音を採り上げますから・・・笑)。

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