まさに質実剛健な職人芸。
遊びを極力排し、職人魂炸裂で楽譜を丁寧に音化する様。
マレク・ヤノフスキの方法はとても手堅い。
パウル・ヒンデミットの作品には、アイロニカルな側面があると思えば、実にシリアスな瞬間もあり、一筋縄ではいかない。音楽は常に躍動し、いつも喜びに満ちている。
何より引用の多彩さ。
そういえば、午後、トリフォニーホールのロビーコンサートで聴いた金管五重奏によるバッハやモーツァルトのパラフレーズ(?)は何だかヒンデミットの方法を模範としているかのようだった。
「ウェーバーの主題による交響的変容」にある、第二次大戦の愚かさを嘲笑うかのような軽快さが、ヤノフスキの手により、とても明快に、わかりやすく聴衆の前に表現された。何より音楽が常に楽しいのである。果たしてそこにあったのは逃避なのかどうなのか?いや、(少なくとも僕には)実に現実的な響きがした。作曲家は当然平和を求め、そして、やはり希望に満ちる音楽を書こうとしたのだ。
そして、編成を小さくしての「木管楽器とハープのための協奏曲」は、ヒンデミットらしい見事な狂騒音楽。N響独奏陣の巧みさ、そしてアンサンブルの絶妙さの際立つ名演奏。ちなみに、この作品は作曲家夫妻の25回目の結婚記念日に初演されたそうだが、そのせいもあり終楽章にはメンデルスゾーンの「結婚行進曲」のモチーフが散りばめられているのがミソ(初演時にそれを聴いた奥様は相当感激したそうだが)。
NHK交響楽団第1870回定期演奏会
2017年11月11日(土)18時開演
NHKホール
甲斐雅之(フルート)
茂木大輔(オーボエ)
松本健司(クラリネット)
宇賀神広宣(ファゴット)
早川りさこ(ハープ)
伊藤亮太郎(コンサートマスター)
マレク・ヤノフスキ指揮NHK交響楽団
・ヒンデミット:ウェーバーの主題による交響的変容
・ヒンデミット:木管楽器とハープと管弦楽のための協奏曲
休憩
・ベートーヴェン:交響曲第3番変ホ長調作品55「英雄」
颯爽たる理想的なテンポで、かつ推進力抜群のベートーヴェン。
外面を磨きあげ、余計な感情を入れないアポロン的解釈は午後の上岡敏之の方法とはある意味正反対。特に、第2楽章「葬送行進曲」の素晴らしさ。トリオの夢見るような憧れの旋律に涙し、コーダの哀し気な表情に僕は歓喜した。ここでも「死」とは祝祭であることが謳われているように思われてならない(上岡指揮新日本フィルの「ジークフリートの葬送行進曲」にも希望と浄化が感じられた)。そして、第3楽章スケルツォのホルン三重奏は危なげなし、さすがである。さらに、終楽章アレグロ・モルトは一層解放的で、生きることへの意志が強く感じられた演奏。ヤノフスキの楽譜の読みの鋭さが伝わる。
偶然か必然か、今日聴いた2つのコンサートは連関し、生と死を軸に見事な環を描くよう。
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