鏡の中の鏡

part_spiegel_im_spiegel.jpg今日は新月だという。要らないものを処分し、願掛ければ願事が叶うという定説がある。

振り返ってみると、僕の周りは要らないものだらけだった。少なくともこの4月に住居を別にしようと引越作業をする前は、昔の「思い出」として取り置いていたものがたくさんあった。何かをするために意識的に残していたわけではない。「思い出」が詰まっている以上、単に捨てられなかったのである。

「思い出」って何なのだろう?思い残しのこだわり、すなわち「未練」なのか、それとも「過去への固執」なのか・・・?そんなものは頭の片隅にとっておけばいいものじゃなかろうか。「物」として残しておく意味(少なくとも身近に置いておく意味)はあまりないのではないかと思い、そういうものの一切合財捨てた。

そういえば、時折、過去の栄光にすがってばかりいる人がいる。する話はいつも昔話、それも自慢話。明らかに自身の成長を止めているんですよと発表しているようなものなのに気づかない。

アンテナを立て、情報をすばやくキャッチし、なるべく多く本は読み、良いといわれる音楽は一つ残らず聴いてみて、自分の感性で取捨選択、常に新しいものを捕らえていたい、そんな人間でいつもいたいと思う。今や、「安定」とか「安住」とか、そういう言葉が全く似合わないご時勢だ。安定的な(ように見える)大企業もいつ潰れるか誰にもわからない。一日一日を謳歌し、かつ人様のためになるような(みんなが幸せであるような)人生を送る。それが本日の僕の「願事」である。

一昨日の朝、いつものようにNHK-FMを聴いた。アルヴォ・ペルトの静かで聖なる音楽が流れていた。「8つのチェロのためのフラトレス」。ちょうどチベット体操の後の軽い瞑想中だったこともあってか、初めて耳にした音楽だが、すぐさま引き込まれた。

ここのところ、ロック音楽を聴きながら、(特にプログレなどの)ミニマル・ミュージックをはじめミュージック・コンクレートといわれる前衛的な音楽との関係性について考える。もっとも彼らは同時代の音楽家たちなのだから、ジャンルの垣根を越えて相互に親交はあるだろうし、たとえないにしても、「音楽」について影響を及ぼし合っているだろうことは間違いない。奥深く手強い世界だが、これまで以上にコンテンポラリー・ミュージック(現代音楽)を意識して聴いてみようという気になっている。

ペルト:シュピーゲル・イン・シュピーゲル(鏡の中の鏡)
ベンジャミン・ハドソン(ヴァイオリン、ヴィオラ)
セバスティアン・クリンガー(チェロ)
ユルゲン・クルーゼ(ピアノ)

これは一般的に認知されるいわゆる「現代音楽」ではなかろう。アルヴォ・ペルトの音楽に共通する、人間の心の隅々にまで行き届く、まるで「水」のような音楽である。人間にとってなくてはならない、そんなような錯覚まで起こさせてしまうほどの(軽い)刺激と調和がある。新月に相応しい・・・。


6 COMMENTS

雅之

おはようございます。
ペルトの1970年代後半以降は、いわゆる3和音を生かした作曲が多く、現代音楽としては聴きやすいですよね。
相変わらず吉松隆先生ホームページ、過去の文章を読んでいますが、面白いです。《月刊クラシック音楽探偵事務所》「作曲家はどうやって「調性」を選ぶのか?」(2009/07/10)なども、勉強になりました。
http://yoshim.cocolog-nifty.com/office/2009/07/post-68e5.html
・・・・・・音階(の12音)というのは、まあ、例えれば1年の12ヶ月のようなもの。12の月が1年365日を単純に12に割った…というだけでないのは、御存知の通りで、30日の月と31日の月があり、4年に一度は閏年がある。
 同じように、「音階」も、単純にオクターヴ(振動比が1:2)を12で均等に割る…というだけではすまない。・・・・・・
1年は12か月、1週刊は日月火水木金土(ドレミファソラシ)の7日・・・、暦と音階の規則性は関係あるのでしょうか?
科学の世界では、ジョン・ニューランズが、8番目ごとに似た性質の元素が配置される「オクターブ則」を発見し、それがメンデレーエフ「周期表」の考案につながったそうです。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%BA
元素の「周期表」もまた、ドレミファソラシ(ド)に似ています。
ペルトは自身の作品について「プリズムを通過する光によく似ている」といっているそうですが、可視光も、虹の7色で構成されていますよね(境界線ははっきりしませんが・・・)。ピンク・フロイド「狂気」のジャケットも思い出しますね(笑)。
この世界は、7と12の法則でできているのでしょうか?
音楽が人生には欠かせない岡本夫妻が、月の神秘性を重視するのは、何となく理解できます。
ここまで書いて、ふと閃きました。12音だけではなく、13音からなる閏音を混ぜた「太陰暦音階」や、厳密には「オクターブ則」だけには従っていない「元素の周期表音階」を考案したら、未来への音楽発展の可能性が拡がるのではないでしょうか? 
特許か実用新案を共同で出願しませんか?(笑)

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岡本 浩和

>雅之様
こんにちは。
吉松先生のホームページは最高ですよね。勉強になります。
>1年は12か月、1週刊は日月火水木金土(ドレミファソラシ)の7日・・・、暦と音階の規則性は関係あるのでしょうか?
やっぱり、自然や宇宙とつながっているということですよね。古の人間の叡智というのは計り知れないほど巨大です。
オクターブ則の話は初めて知りました!勉強になります。ありがとうございます。
>この世界は、7と12の法則でできているのでしょうか?
確かに何かありそうですね。これまた研究しないと・・・
>13音からなる閏音を混ぜた「太陰暦音階」や、厳密には「オクターブ則」だけには従っていない「元素の周期表音階」を考案したら、未来への音楽発展の可能性が拡がるのではないでしょうか? 
特許か実用新案を共同で出願しませんか?
おーー、それは名案です(笑)!

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岡本 浩和

>雅之さま
あと、「音階時報時計」は知りませんでした。
いろんなものがあって面白いですね!

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たんの

14日は新月だったんですね。
当日は、友人のお兄さん中原蒼二さん(64歳で亡くなった)のお別れ会でした。会場の国際文化会館は沢山の人で、弔辞はデザイナーの芦田淳さんでした。蒼二さんが一番好きだった5月の一夜、賑やか好きだった故人を偲んで、大勢で明るくお見送りしました。
若い方はご存じないかもしれませんが、戦後の日本の女性に夢と勇気を与えた、画家の中原淳一さん(大きな目の美しい女性の絵で有名ですが、マルローも絶賛した人形は今も所蔵されています)のご次男です。お父さまの作品を後世に伝えることに心血をそそいでおられました。
久しぶりに麻布十番の商店街を歩きました。あの日からどういう訳か事が順調に運んでいるようです。新月だったからかもしれません。
http://ameblo.jp/ladymarie/entry-10532173944.html

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岡本 浩和

>たんのさん
こんばんは。
ご無沙汰しております。
画家の中原淳一さんの絵を拝見して「知ってる!」と思いました。残念ながらご子息の中原蒼二さんについてはよく知りませんでした。
>あの日からどういう訳か事が順調に運んでいるようです。新月だったからかもしれません。
新月ということもあったのでしょうが、たんのさんの日ごろの努力の結果だと思いますよ。
今後ともよろしくお願いします。

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