ふたたびショパンのチェロ・ソナタ

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1846年、ジョルジュ・サンドとの恋沙汰がほぼ終止符を打とうとしている頃に生み出された作品にはどれも深く悲しい感情が渦巻いている。しかし、聴きようによっては、非常にポジティブな、明るい未来を想像させる瞬間も大いに秘めた名曲たちであることがよくわかる。「どん底」を経験した人間は強い。その「どん底」体験こそが、いずれ将来前向きなアドバイスに一石を投じることになる。人生順風満帆であることに越したことはないが、全く壁のない、挫折のない生き様はかえって問題を引き起こす。
昨日、ヨーヨー・マの弾くチェロ・ソナタを聴いて、この途轍もなく脳天気で明る過ぎる演奏にかつては抵抗を覚えていたのが、繰り返し聴くことで、すっかりそのニュアンスの魅力にとり憑かれ、ますますこの音楽の持つ「魔力」に開眼させられた。
そういえば、ロストロポーヴィチ&アルゲリッチによる名演奏もあったと、これまた繰り返ししつこく聴く僕に妻は少々呆れ返っていた。雅之さんのコメント中に紹介されていた渡辺和彦氏の「とにかくふたりの技術的な完成度が高いため、作曲者の晩年の孤独や失意より、もっと前向きな生への執着と意志、情熱がひた押しに押し寄せてくる」という文章に触発され、あらためて聴いてみたいと思ったのだから仕方がない。

ショパン:
・チェロとピアノのためのソナタト短調作品65
・華麗なるポロネーズハ長調作品3
シューマン:
・アダージョとアレグロ変イ長調作品70
マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)
ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(チェロ)

やっぱりショパンはもっと生きて、もっともっと恋をしたかったんだ・・・。そういう男の想念が詰まる何ともエロティックな演奏。そういえば、アルゲリッチはロストロの子どもまで産んでいるとか何とか噂を耳にするが、それって・・・。何とも想像力を掻き立ててくれるエッチな美演(おまけのシューマンがこれまた良い)。

ところで、某ホテルの支配人として働く本多君が、久しぶりに話がしたいとやって来た。音楽事務所のマネージャー、ジャズ・クラブでのアルバイトを経て、今の職に就く彼は、人生の中で今一番勉強し、モティベーション高く、一番幸せを感じるという。そして、あくまで「今」は通過点で、「自分ができること」でもっと人に、もっと世の中に貢献したいと最近思うのだと。ちなみに、彼の掲げるモットーは「もっと自分になる」「自分の人生を信頼する」ということらしい。まさに「ありのまま」、「自然体」!

初めて彼と会ったのが、彼がまだ学生の頃、そう11,2年前のことだから月日の経過は早い。と同時に、つい数年前「どん底」だった時の彼の印象とは180度変わっていることに驚かされた。自分の「強み」を発見し、具体的にチャレンジすることがいかに大切か。

キャリアや教育に対する彼の考えは僕が日頃考えていることと非常に近いゆえ、勉強がてらコラボさせて欲しいということのよう。音楽も仕事も火花散るようなコラボレーションこそ命なり。結果、どうなるかはまったくわからないが、面白くなりそうだ。


2 COMMENTS

雅之

おはようございます。
>そういえば、ロストロポーヴィチ&アルゲリッチによる名演奏もあったと、これまた繰り返ししつこく聴く僕に妻は少々呆れ返っていた。
(笑)。
>作曲者の晩年の孤独や失意より、もっと前向きな生への執着と意志、情熱がひた押しに押し寄せてくる
そういう意味で、私はショパンのチェロ・ソナタは、この曲への皆の先入観とは裏腹に、いつも前向きな愛知とし子さんの音楽性にピッタリの曲だと以前から思っていましたよ。ショスタコーヴィチ、ラフマニノフ、プロコフィエフのチェロ・ソナタの演奏大成功の暁の次には、強くリクエストしたいので、ぜひとも名演奏をお願いいたします(もちろん岡本浩和氏による名解説付で!!)。因みに私の希望は、ラフマニノフのチェロ・ソナタとともに、一晩で演奏していただくことです。続けて聴くと、とても興味深い発見を聴衆に与えることができると思いますので・・・。
渡辺和彦 著「ヴァイオリン/チェロの名曲名演奏」(音楽之友社 1994年第一刷発行)より、
ラフマニノフ チェロ・ソナタ ト短調作品19
 大ピアニスト兼作曲家ラフマニノフただ一つのチェロ・ソナタは、いろいろな意味でショパンのチェロ・ソナタと類似点が多い。ピアニスト作曲家による弦楽器とピアノのためのソナタという単純な類似だけでない。第1楽章の再現部が第2主題によって始められるという独特な方法がまずそっくり。チェロと同じかそれ以上にピアノが活躍する点も共通。むしろラフマニノフのもののほうが、ショパンのソナタ以上にピアノ主導型で、こちらでは第1楽章展開部でチェロが低いEs音(変ホ)をf(フォルテ)で激しく響かせるとピアノの小カデンツァが始まってしまう。スケルツァンド指定の第2楽章もチェロではなくピアノ中心。続く第3楽章アンダンテに至っては、冒頭8小節で、ピアノがいかにもラフマニノフらしい憂鬱で物悲しいメロディを、先に50秒近くたっぷり弾いてしまってから、ようやくチェロがB音(変ロ)を引きずって入ってくる。ここなどはヨーヨー・マのように抜群に音の美しいチェリストならともかくたいていの人は登場以前に「おいしい」部分を先にピアニストに食べられている。9小節目で新たに音楽を始められたのは、CDではヨーヨー・マだけ。ソ連盤のイゴール・ガブリッシュ(LP)、ミハエル・ルディ(CD)は、ともにチェロが弾き始め2小節で音楽が終わってしまう感じだし、あのシュタルケルでさえ、この部分はいかにも具合が悪そうだ。チェロが対等に活躍するのはようやく第4楽章になってから。
 まあしかし、ともかくこのソナタはメロディがきれいだ。チェロがもっともよく響く音域が効果的に使われていることもあり、近年は舞台で採り上げられる機会が増えた。チェリストがピアノに負けない気魂で演奏すれば、生で聴くこの曲の美しさは格別だ。(以下略)
※参考CD(私も好きな盤です)
 ラフマニノフ&プロコフィエフ/チェロ・ソナタ
 演奏: ヨーヨー・マ, アックス(エマニュエル)
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%A9%E3%83%95%E3%83%9E%E3%83%8B%E3%83%8E%E3%83%95-%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%B3%E3%83%95%E3%82%A3%E3%82%A8%E3%83%95-%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%AD%E3%83%BB%E3%82%BD%E3%83%8A%E3%82%BF-%E3%83%A8%E3%83%BC%E3%83%A8%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%9E/dp/B00005G89D/ref=sr_1_1?ie=UTF8&s=music&qid=1284499491&sr=1-1
「チェリストがピアノに負けない気魂で演奏すれば、生で聴くこの曲の美しさは格別」だそうです(笑)。愛知とし子さんのお相手のチェリストさんは大変そう!!(爆)
ロストロポーヴィチ&アルゲリッチによる名演奏CD、シューマンも最高ですよね。この二人によるラフマニノフのチェロ・ソナタの演奏も聴いてみたかったですね。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
>ショパンのチェロ・ソナタは、この曲への皆の先入観とは裏腹に、いつも前向きな愛知とし子さんの音楽性にピッタリの曲だと以前から思っていましたよ。
>ラフマニノフのチェロ・ソナタとともに、一晩で演奏していただくことです。
なるほど、これは気づきませんでした。愛知とし子にぴったりですか!本人にリクエストしてみましょう。しかし、お相手のチェリストを探すのが問題ですが。
昨日もご紹介いただいた渡辺氏の解説は参考になりますね。
>「チェリストがピアノに負けない気魂で演奏すれば、生で聴くこの曲の美しさは格別」
この部分、僕も気に入りました!
ロストロ&アルゲリッチによるラフマニノフ、聴いてみたかったですねぇ。

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